くる天 |
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プロフィール |
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飯島浩樹 さん |
シドニー通信員の『豪リークス』 |
地域:海外 |
性別:男性 |
ジャンル:ニュース 世界情勢 |
ブログの説明: オーストラリア在住 某民放局シドニー通信員からの情報。 |
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洪水去って愛来たる |
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2011年1月16日 15時47分の記事
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オーストラリア北東部クイーンズランド州で起きた大洪水。フランスとドイツを合わせた広さに及ぶ地域を襲い、7500人の日本人も居住する州都ブリスベーンにも洪水が直撃した。
オーストラリアの地元新聞は、1974年以来というこの大洪水を“BIBLICAL FLOOD”もしくは“BIBLICAL DISASTER”と大見出しで伝えた。直訳すれば「聖書的洪水」または「聖書的大災害」ということになるが、キリスト教文化圏の人に“BIBLICAL FLOOD”と言えば、旧約聖書に登場するノアが巨大な箱舟で生き延びたあの“大洪水”だとすぐにピンとくる。つまり“BIBLICAL..”とは、この世の終わりに匹敵するようなとてつもない...という形容詞なのだ。
ブリスベーンの西約120キロにある内陸部の町、トゥーンバを襲った鉄砲水は、目撃者が「テレビの映像で見たような”大津波”だった」と表現するように猛烈な勢いで人や車を飲み込んだ。その場にいた人は、きっと「この世の終わりだ!」と思ったに違いない….。
10日にトゥーンバを破壊した濁流は、ついに豪州第三の都市ブリスベーンに到達したが、幸い13日未明に水位がピークに達した市内中心部を流れるブリスベーン川は、当初予想されていた過去最高の水位5.5メートルに1メートルほど届かず、ブリスベーン中心部が水没するという最悪の事態は回避された。
しかし市内の低地にある住宅地では、平屋建て家屋の屋根の高さまで水が溢れた地域もあった。道路はところどころで浸水寸断され、通常10分の距離の場所に行くのさえなかなかたどり着けず、我々取材クルーもカーナビの“声のおねえさん”も途方にくれてしまった。
一時は多数の死傷者も出かねない事態かと身構えたが、13日以降は今までの悪天候がまるで嘘だったかのように“ブルースカイ”が広がり、恐ろしい速さで水が押し寄せてきたブリスベーン川もわずか1日で2メートルも水位が下がり、低地の住宅地や商店街の水も瞬く間に引いてしまった。
そして、きのうの土曜日(15日)、水が引いた被災地に残る大量の泥と水に浸かった家財道具などの“クリーンアップ”が開始された。
この”大掃除”に動員されたのが、オーストラリア軍と近隣からのボランティアの人たち。朝の6時前からボランティアの登録に長蛇の列を作った人の数は、なんと2万人!
見知らぬ隣人の災難を放っておけない老若男女に幼い子どもまでが、手に手にバケツやシャベルを持って、山のように積もった泥をすくい出す作業などに汗を流した。
またまた聖書の話だが、“Good Samaritan ”「良きサマリア人」という話がある。
1人のユダヤ人が暴漢に襲われ瀕死の状態で道に倒れていたが、通りかかった同じユダヤ人は彼を見てみぬふりをして助けようともしなかった。ところが、当時異邦人(要するに“外人”)として蔑視されていたサマリア人が、いつもはユダヤ人から差別的扱いを受けているにもかかわらず、この男を哀れに思い、手厚く介抱して宿屋に連れて行き、宿泊費まで払ってやったという美談だ。
欧米キリスト教文化圏では、「良きサマリア人」精神が結構根付いていて、「良きサマリア人の法」という法律まである。
もちろんシドニーやブリスベーンのような大都市では、近所付き合いが希薄で、隣の人の名前も知らないなんていうことも多いが、今回の大洪水のようなことが起これば、この「良きサマリア人」精神を発揮して、当たり前のように大勢の人が、困っている“隣人”を助けに駆けつけるのだ。
日本人は、阪神・淡路大震災のとき、大量のボランティアが日本中から被災地に押し寄せたように、クリスチャンではなくても基本的に「良きサマリア人」精神のある国民だとは思う。
たが、最近の“タイガーマスク”現象に見るように、今の日本には、“歪んだ愛”というか、閉塞的で“ひきこもり的”というか、何か得体の知れない魑魅魍魎によって、昔の日本人が無意識のうちに生来持っていた “遠くの親戚より近くの他人”といった自然な肩ひじ張らない“隣人愛”の表し方を失ってしまっているように思えてならない。
“隣人愛”とは、別に養護施設に贈り物をしたとか(金塊を送った人までいるようだが…)多額の寄付をしたとかで測られるものではなく、困っている人を見て、いてもたってもいられなくなり、他人の不幸を自分のことのように心配し、その人が幸せになるよう考えてあげられるかでその“愛”の深さが測られるべきだと思う(当然タイガーマスクを名のっている人の中に、純粋に人助けをしたかったり、子ども手当てや税制などへの不満が動機になっている人もいるとは思うが...)。
もちろん人間なかなかそんな境地には至るものではないが、ブリスベーンに集まった大勢のボランティアの人たちの清清しい顔を見て、戦争や紛争ばかり起こしてこの美しい地球を破壊しているバカな人類だけど、やればできるぞ!愛は地球を救えるかも!と少し明るい気持ちになった。
洪水去って愛来たる!
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