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第一部 6話【トコちゃんのおばあちゃん、そして謎の黒い霧。】
[ハラベエさんの犬星☆猫星(第一部)]
2009年11月21日 0時5分の記事

ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 

第一部 6話【トコちゃんのおばあちゃん、そして謎の黒い霧。】


第六章更新しました♪



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ハラベエさんの犬星☆猫星の第一部〜三部の
リンクを作りました。
使ってくださいね(*´∀`*)ノ♪

☆【第0部】【1P

☆【第一部】【1P】【2P】【3P】【4P】【5P6P7P】【8P】【9P】【10P】【11P】【12P

☆【第二部】【1P】【2P】【3P】【4P】【5P】【6P】【7P】【8P】【9P】【10P】【11P】【12P】【13P

☆【第三部】
1P】【2P】【3P】【4P】【5P】【6P】【7P】【8P



 

















ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 
 
第一部 6話【トコちゃんのおばあちゃん、そして謎の黒い霧。】

 BEEが亡くなってひと月ほどたったある日、近所の公園に、BOW夫婦とヒナコを連れて行きました。
 紐をはずして、自由に運動をさせることができる、周囲に金網を張ったテニスコート二面ほどの広場は、いつものような人出に犬出です。
 以前三人を放してやったら、BEEが相手かまわずつっかかっていくので遠慮して、隣の野球場を外野から眺めるベンチを、一服の場所にしていました。
 そのベンチに、見覚えのある人がいます。
 いつものように履物を脱いで、ちょこんと坐っている着物姿……トコちゃんのおばあちゃんです。
 しかし、いつもその傍に寄り添うようにしていた、柴犬の女の子トコちゃんの姿がありません。
 女の子といってもかなりの老犬で、股関節に疾患があるのか、歩いていても時折、足を不自然に広げて腹ばいになっていた子です。
 トコちゃんはもしや……と、不安がよぎりましたが、ハラベエさんはことさらに明るく……。
「こんにちは」
と、声をかけました。
 振り向いたおばあちゃん、スターヴォーズのヨーダによく似た顔で、柔和な微笑を浮かべています。
「こんにちわ……」
 返すあいさつの声も明るいものでした。
「……BEEちゃんは?」
「先月、死にました」
「そうお」
 と、戻ってきた言葉は意外にそっけないものでした。
 しかしそれも無理のないことだ、トコちゃんも死んだとすれば、その痛手の方が大きいにきまっている、よその子どころじゃない悲しみが……と思いましたが、ご本人はいたって明るい顔をしています。
「あのう……トコちゃんは?」
 と遠慮がちに聞きました。
 死んだという返事があるものと思っていました。
「ああ、ちょっと向こへ行ってます」
「はあ?」
「けど、じきに戻ってきまっさかい……」
「ああ、迷子になったんですか?」
「いいえ、向こに行ってますねん……今度で三回目でっさかい、あの子も慣れてますやろ」
「?……三回目……馴れてる?」
 理解に苦しむハラベエさんでした。
「BEEちゃんは初めてでっしゃろ……時間はかかるけど、戻ってきます、安心して待ってなはれ」
 ますますわからなくなってきました。
「戻ってくるって?」
「ヘえ、戻ってきまんねん……あの子ら死んでまへん」
「?……そ、それ……どういう意味ですか?」
「そやから、向こに行ってるて、言うてますやろ」
 ハラベエさんの頭はパニック状態です。
 普通なら、相手の方がおかしいと思うでしょうが、このところのハラベエさんの思考能力は著しく減退しています。
 仕事や普段の生活にはさほど支障はありませんが、カレらのことに思いが及ぶと、どこかでネジがゆるんでしまうようです。   
 夜、ちょいちょい家を出て、これといった目的もないのに、歩き回るようにもなりました。
 ママは、ぼけて徘徊が始まったとでも思っているのでしょうか、ハラベエさんが出て行くと、BOWたちやEチャンに「ハイカイさんがお出かけよ」など言ってるようです。
 ハラベエさんは、自身の意思ではなく、何かにせきたてられるように歩いていました。
 どこかで誰かが待っている、いや近くで見つめている、そんな思いで歩き続け、結局何も得ることなく夜の散歩を終えるのです。
 そんなハラベエさんにつかず離れず、ショウちゃんの姿がありました。
 ハラベエさんの帰宅を確認すると、ねぐらに帰っていくのです。
 ハラベエさんの仕事が減ってきました。
 不況の波が、業界にも押し寄せている上に、最近のハラベエさんは、信頼して仕事を任せられるような状況ではない、という印象が影響しているようにもとれます。
 ママはとっくに見限って、どうでもいいという態度で、激しくぶつかることもなくなりました。
 
トコちゃんのおばあちゃんと会い、不得要領で別れた日の深夜。
ショウちゃんの家の辺りから、彼のものらしい遠吠えが聞こえ、遠く近くそこここから、それに和すかのような大合唱がが沸き起こりました。
 惹かれるように家を出るハラベエさん、ショウちゃんのものらしい、一際高く、一際長く尾を引く遠吠えを追いました。
 遠吠えは移動しています。
 自転車で走り出したハラベエさんの視界に、ショウちゃんを捉えました。
 それを待っていたかのように、激しく尻尾を振ると、ついて来いとばかりに、
いつものパイロット同様に先導するショウちゃんです。
 テリトリーを出ると、目的地があるらしく、確かな足取りで走り出しました。
 折からの満月の光を浴びて走る姿を見て、後を追うハラベエさんが引き離されそうになると、どうやらショウちゃんが加減してくれているようです。
 懸命にペダルを踏むハラベエさんを追う自転車が二台。
 冗談めかして徘徊老人だなんて、悠長なことを言ってる状態ではないと、このところのハラベエさんの言動を不安に感じ始め、念のため後をつけているママとEちゃんでした。
 ほとんど直線的なコースをとって走り続け、土地の氏神様の境内まで来ると、一声高く吠えて、今来た道を引き返します。
 しかし、直線ではなくひとつ角を曲がると、どうやら路地から路地を螺旋(らせん)状に、中へ中へと向って行くようです。
 ショウちゃん、ハラベエさん、そしてやや距離をおいたママとEちゃんの隊列が、しばらくは続きました。
 終点は、例の空き地でした。
 家が近いことだし、いつもこのあたりでしばらく時を過した後、ハラベエさんが帰ってくるのを知っている追跡者は、ひとまず引き揚げました。
 ショウちゃんは、一声遠吠えすると、かってミュウが現われた踏み分け道に歩を進めます。
 ハラベエさんもためらわず、後を追おうとしましたが、ふといつもと違うあたりの景色に気がつきました。
 折からの満月に照らし出された草むら全体を、黒い霧のようなものが覆っているようです。
 不気味に思ったハラベエさんの足が止まりました。
 ショウちゃんが振り返り、促すようなそぶりをしてその場に身をかがめます。 
 黒い霧のようなものに埋もれたショウちゃんの姿が見えません。
 一瞬のためらいはありましたが、思い切ってハラベエさんも身を沈めました。
 次の瞬間、ハラベエさんは目をみはり立ちすくみました。
 明るかったのです。
 夜の闇に慣れた目には、まぶしくさえある明るさが、黒い霧のようなものの下に広がっているのです。
 光源が何なのか、どこにあるのか、ハラベエさんにはわかりませんが、全体が均一な明るさで満たされています。
 それは平べったい円形で、天井灯のフードを伏せた中にいるようです。 
しかも草むらを覆っていた黒い霧のようなものとは比べものにならない、高いドーム状の天井が広がっているのです。
その明りの底にうごめくものがいます。
カレらの大集団でした。
無数の犬類、猫類です。
一声も発せず、黙々と動いています。
そこここにある間隙が、遅ればせに駆け込んでくる仲間で埋められ、やがて整然とした隊列が完成しました。
犬類と猫類は中央を走る直線で二分されています。
その双方に走り回っている姿がひとつづつありました。
犬類には、いつの間にかハラベエさんの傍を離れていったショウちゃん。
猫類のは、クーちゃんのカレ、いつものゆったりした動作とは違い、見違えるほど俊敏です。
二人の動きを追っていたハラベエさんの目に、見覚えのある姿が飛び込んできました。
一人だけ目立つ動き。
白い体に黒い斑点、そうです……蝶々邸のイソーローです。
大きな体を躍らせて、仲間をはねのけ跳びまわっています。
はねのけられた茶色の子が立ち上がりました。
ミツコです。
イソーローがその前にはいつくばり、しきりにミツコの機嫌をとりはじめました。
蝶々さんの家族になる前からのつきあい……その頃から恋仲だったのかもしれません。
ほかにも、だれか?
いました、いました。
ゲランとその一族!
ゲランは背筋をぴんと伸ばし、いつに変わらぬ貴公子ぶりです……その傍に寄り添う、いかにも糟糠(そうこう)の妻といった感じのミルがいます。
なんとなくしどけないサクラの姿、無精者トラジロウにちょこちょこ手を出すお転婆むすめミッチーもいます。
そしてもう一人。
この中に必ずいるはずだと、ハラベエさんは目を凝らしました。
だが、見たい姿を捉えることはできません。
猫類に目を転じました。
まず見つけたのはミッキー……ほんの数日間のことでしたが、その愛くるしさは瞼の底に焼きついています。
悲劇に終わった短い命だっただけに、残した印象は強烈だったのです。
そのミッキーが目の前にいる、しかも、ハラベエさんの愛撫の手が欲しいのか、ひっくり返って腹を見せています。
思わず駆け寄って抱き上げたい思いのハラベエさんでしたが、直後、ミッキーは隊列の一員として姿勢を正しました。
次にハラベエさんが眼にしたのは、小さな黒い子たち四人でした。
幼いその子たちは、一つところにじっとはしていません。
よたよたと隊列を離れていきかける四人に気を配る母親、クーちゃんです。
そのとき、猫類の集団を指揮していた、クーちゃんのカレが寄ってきました。
何事かささやかれたかのように、クーちゃんは、視線をハラベエさんに送ってきましたが、すぐさままた子供たちの面倒を見始めました。
クーちゃんはもともとママを慕い寄ってきた子、オレには興味ないんだよなと、ちょっとすねるハラベエさん。
 その視線の端に映ったのは、ひしめき合っている猫類の背中の間から、天をさして伸びている茶色の紐状のものです。
 紐状のもの……それは長い尻尾でした。
 尻尾は大きくうねって、先端が猫類の集団の間に沈んでいきます。
 ハラベエさんは確信しました。
「ミュウ!」
 その声に応えるように、仲間をかき分けるように現れたのは、まぎれもなくミュウでした。 
 四肢を突っ張り、硬直して死んでいったミュウが、元気な頃そのままに、尻尾の先端を頭に伸ばし、優雅なポーズをとっています。
 こんな姿でもっと長生きして欲しかった、もっといい治療法があっただろうに……といまさらながらの悔いが胸を締め付けます。
 ミュウは一瞥をくれると、集団の中に姿を消して行きました。
 ハラベエさんはその姿を追い求めましたが無駄でした。
 他にだれか?……と目を凝らします。
 猫類にはもういません。
 改めて犬類の集団に眼を向けました。
 ヨーダのおばあちゃんとこの、トコちゃんがいました。
 いつものように足をなげだすように大きく広げてねそべっています。
そうか、ここがおばあちゃんのいう……向こうなのか。
ここにいる子は、ちらと見覚えのあるご近所の子たちを含めて、みんな死んだ子たち……ということは、ここはカレらの黄泉(よみ)の世界なのだ。
 ならば、あの子もいる……いるに違いない。
 期待感にふくれあがる胸。
 ふと、焼け付くような視線を感じました。
 首をめぐらすと、目立って大きな……そう、これもご近所の子デユークの長い足の間に、ハラベエさんを見つめる燃えるような目があります。
 その視線をしっかと受け止めるハラベエさんでした。
 燃えるような眼が、癒しの目に変わりました。

             【第一部 了】

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プロフィール
〜OGUNI・WORLD〜-ブロくる
ハラベエ さん
〜OGUNI・WORLD〜
地域:大阪府
性別:男性
ジャンル:趣味 漫画・小説
ブログの説明:
〜ハラベエさんの☆犬星・猫星☆〜
シーズの愛犬BEEとハラベエを取り巻く生き物たちとの、
出会いと別れを描いた感動、ファンタスティック・ノベルです。

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