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第三部 3話【遠い思い出・・・・】
[ハラベエさんの犬星☆猫星(第三部)]
2012年11月2日 6時30分の記事

ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 
第三部 3話【遠い思い出・・・・】
UPしましたー(*´∀`*)ノ

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ハラベエさんの犬星☆猫星の第一部〜三部の
リンクを作りました。使ってくださいね(*´∀`*)ノ♪


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☆【第三部】
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ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 

第三部 3話【遠い思い出・・・・】

モールス信号と手旗信号。
 太平洋戦争の終戦を迎えたのは、小学校、いや国民学校五年生のとき、軍国少年だったハラベエさん、どうすれば御国の為にお役に立てるかと、幼い胸を熱くたぎらせていたものです。
 才能ある者は、六年生になるのを待たず、五年終業時に中学校に進み、中学も四年で終業、陸軍士官学校か海軍兵学校へと飛び級を狙っていると、まことしやかな噂もあり、ハラベエさんにしても、これぞ我が進むべき道と思い定めていました。
 モールス信号も手旗信号も、中学生の肉体訓練の強化、教練の一貫として取り入れられましたが、物珍しさにその訓練風景を眺めている内に、習わぬ経を読む門前の小僧宜しく、結構習熟していました。
 兄の、学校で支給された解説書を借りて引き写し、諳んじました。
 伊藤・路上歩行・ハーモニカ……イトー・ロジョウホコウ・ハーモニカ……トツー・トツートツー・ツートトト……モールス信号のイロハです。
 古い記憶は比較的正確だと、自信はあるものの、どうもこのところそれも心許なくなっているハラベエさんです、曖昧な部分や誤謬はご容赦願います。
 トツー・トツートツー……と呟きながら、二本の小旗を振って宙に文字(カタカナ)を描いて伝達する手旗信号で会話することが、聖戦に参加していると信じていたハラベエさんの可愛らしい軍国少年時代でした。 
 (あの頃、おんちゃんは優しかった……協力的だったな)
 おんちゃんとは、正明(ハラベエの実名)が兄の正菱を、幼い頃お兄ちゃんと発音できずおんちゃんおんちゃんと呼んでいた頃の名残で、結局兄が他界するまでその呼称で通しました。
 五歳違いの兄は、小柄でしたが頑張りやさんでした。
戦時下の中学生は勉学より、鍛錬が主とされていた感があります。
 それと学徒動員でした。
 連日、教練で疲れ果てた肉体に鞭打って、長距離の行軍を終え、ようやっとの思いで辿り着いた我が家の玄関にへたり込む兄の、チビの中学生には不似合いなごっつい軍靴を脱がせる母、足は肉刺(まめ)が破れて血だらけ、軍足は真っ赤に染まっていました。
 それでも弱音は一切吐かない兄を、元看護婦の母は、残り少ないヨードチンキなどの手持ちの薬で、しっかり手当をしていました。
 『♪ 火筒(ほづつ)の響き遠ざかる 後にはは虫も声立てず……(中略)……テントに待つは日の本の 愛と仁とに富む婦人……(後略)……』……。
(曲が聞きたい方はこちら)→→【軍歌】婦人従軍歌
 野戦病院勤務の従軍看護婦を歌った軍歌を口ずさみながら……。
 ハラベエさんも、手当をする母の手元を見つめながら、兄の痛みを我がことのように歯を食いしばって耐えていたものです。
 往時を振り返ると、あの時の母を中心にした三人の間にあった連帯感みたいなものが、その後に続く戦後の試練の日々を頑張り生き抜いた原点にある……と、ハラベエさんは思います。
 おんちゃんたち中学生は、三年生に進級すると学徒動員に駆り出されました。
 当時、ハラベエさん一家は、宮崎県の南端に位置する、飫肥藩五万石の城下町飫肥に住まいしており、兄は県立飫肥中学に通っていました。
最初の動員先は、飫肥から南方に一山越した大堂津の造船所でした。
次が、県北の延岡市に近い川南の軍需工場で、ハラベエさんも母に連れられて兄の慰問に行き、その帰路、グラマンの襲撃を受けました。
サイパン方面から長距離を飛来したB29などの大型機は、九州南端で二手に分かれ、本州と九州北部にそれぞれ向かいましたが、その機影を憎ッくき鬼畜米英というより、次から次とそれこそ将にウンカのように湧いて出て来る、銀色に輝くジュラルミンの大群を、壮大な航空ショウでも見るように、驚異の眼で眺めていた、ハラベエさんたち軍国少年でした。
ところが、本土周辺の制空権が、連合軍側の手に落ちると、航空ショウはにわかに生命を脅かす危険な存在となります。
巡航距離の短い艦載機が主となって、日本上空を我が物顔に跳梁跋扈し始めたのです。
様々な機種の小型機が飛び交い、地上に動くものがあれば、容赦なく銃撃を加えてきましたが、その全てを代表するものとして、グラマンが襲われる側の憎しみの対象になっていました。
この時期の航空機の巡航速度は、現今のジェット機主体の航空機と異なり、プロペラ機が主で、低空飛行の際など、搭乗員の表情まで読みとれたものです。
ハラベエさんたちが住んでいた集落を流れる小川で、水浴び中の軍用馬が機銃掃射を……この時はグラマンではなく、双胴の中型機でしたが……受けました。
突然、混乱に陥った馬群はを尻目に飛び去る双胴機、物陰に潜んでいた少年時代のハラベエさんが目撃したのは、後部の銃座で笑っている、赤ら顔の射撃手の姿でした。
慌てふためき右往左往する馬たちの姿を見て笑う米兵、そこに見える余裕めいたものに、幼い血が敵愾心で燃えたぎる想いでした。
グラマンに襲われたら、逃げずに突っ込んでいくこと、その方が弾幕に晒される時間が短く、危険が少ない……田畑などでは、あぜ道の蔭など、なるべく低所に身を潜めること。
その教えを忠実に守って、兄の慰問からの帰り、汽車から飛び降りて、他の乗客共々、あぜ道の蔭に平伏して、母子二人辛うじて助かりました。
あの時母は、ハラベエさんをあぜ道の蔭に寝そべらせ、その上に覆い被さりました、全身あますところなく覆い尽くすと、日蓮さんフアンの母らしく……日蓮さん、日蓮さん……お助け下さい……と呟いていたものです。
グラマンが去り、他に敵機の機影がないのを確かめて戻った汽車は、見るも無惨な有様でした。
天井を突き破った機銃弾は座席も床板も貫通し、逃げ遅れて命を失った人、その人を悼む縁者や、数限りない負傷者を乗せて、汽車は長い徐行運転の末、隣の駅に到着しましたが、そこでハラベエさんたちは更に悲惨な情況を目撃することになります。
ハラベエさんが乗ってる汽車以上に、激しい攻撃を受けたと思われる汽車が先着しており、車内から瀕死の重傷者が、車外に運び出されていましたが、既にホームは端から端まで埋め尽くされようとしていました。
将に阿鼻叫喚の世界でした。
寒村の小駅のことです、医療設備など揃っている筈も無く、対応する人員にも限りがあり……元看護婦の母は、誰に云われるまでもなく、看護する人々に加わり、血まみれになっていました……流石にこの時は『♪ 火筒の響き……』と口ずさむ暇はなかったようです。
その、白衣の天使の原型のような姿と、あぜ道の蔭で万が一の時は弾避けになってでも我が子を護ろうとした姿は、ハラベエさんの網膜にはっきり焼き付けられています。
後年、母はこの世を去る寸前、見舞いに来た息子の名前を、呼び続け抱き締めましたが、溢れる涙を拭うためにその手から逃れた、ハラベエさんが聴いたのは、
『あの人……誰?』
と、看護婦に聴いている母の声でした。
子を思う崇高な母の姿と童女に返ったような姿、二つの母の姿を思い浮かべるだけでも涙が溢れるハラベエさんでした。
『お父さん……何、泣いてる?』
BEEの声で我に返りました。
(うん、実はな……)と、いいかけてやめました。
(……こんな時……ショウチャンは質問などせず、いきなり核心に触れる会話に入ったものだが……)
『そりゃあ、ショウチャンと私では、キャリアも能力も差があります……でも追いつけ、追い越せで頑張ります』
(しっかりな……フフフ、全然わからん訳でもないな)


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〜OGUNI・WORLD〜
地域:大阪府
性別:男性
ジャンル:趣味 漫画・小説
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シーズの愛犬BEEとハラベエを取り巻く生き物たちとの、
出会いと別れを描いた感動、ファンタスティック・ノベルです。

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