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ハラベエつれづれ草 NO4
[ハラベエの徒然草]
2009年12月8日 0時41分の記事

ハラベエつれづれ草 NO4更新しました♪

〜OGUNI WORLD〜では
 
 ハラベエさんの☆犬星・猫星☆〜を
 第0章〜七章まで連載中です。

 

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ハラベエ通信 ?4                 09・12・06

   黒衣の人 (二) 

 狂言方は、歌舞伎の世界で生まれた。
 江戸時代の歌舞伎の初期には、主要な役者が作者(脚本家)を兼ねていたが、やがて専門の作者が必要になり、狂言作者の地位が確立されていった。
 楽屋内の作者部屋に所属する、立作者・二枚目・三枚目・狂言方・見習が、多岐にわたる仕事を分担した。
まず立作者が、座元や座頭俳優と相談の上、脚本の概要をきめて、重要な幕を書くと、二枚目・三枚目がそれ以外の幕を受持ち、各種の番付や、大道具・小道具・衣裳の付帳を作成・発注し、宣伝も兼ねる。
狂言方は、各俳優の書き抜き(役の台詞のみ)を作り、稽古を分担し、芝居が始まると、柝を打って幕の開閉、舞台の進行係をつとめ、プロンプターも重要な役割である。
明治時代になると、外部から座付作者を入れるようになり、爾後、狂言作者の脚本作成は行われなくなり、演出と書き抜きその他の作成と舞台進行、プロンプターのみとなった。
上方(関西)では、東京の歌舞伎と形態が異なり、前半を担当するのが狂言作者で、後半の舞台進行を主とするのは狂言方と、二分されている。
東西の狂言方の舞台進行には違いがある。
松尾が働いている劇団では、『着到』『二丁』『回り』の順に柝を打って舞台の進行をしていた。
東京の歌舞伎では、まず舞台の準備がもうすぐできるという意味で、楽屋から奈落、舞台の両袖など、間遠に柝を打ちながら文字通り回る『回り』、都合八回打つので『回り八丁』ともいう。
続いて、出演者を舞台へと促す『二丁』となって、開幕へとつながっていく。
関西の『回り』は、奈良地方に、準備や支度のことを「まわり」といい、「まわりする」「まわりした」との表現があるが、同じ意味合いで使われているようにも思われる。
狂言方の舞台進行の仕事は至極重要であるのにもかかわらず、その地位は低く、収入も少なかった。
ただし、特殊な仕掛けに長じている者、素人の踊りの会などの進行を頼まれる者が手にする報酬は高額である。
その反面、地位が低く下回りの仕事が多いのは、臨時収入の多さを意味した。
初日・中日のご祝儀、舞台上でのさまざまな雑用に手を貸すことによって発生する、さばきと称する俳優からの謝礼など、結構実入りは多く、その収入を見越しての所得の低さのように思える。
中堅以下の俳優にとっても祝儀は魅力的で、馬の脚のような技術を要する役だと、別途の手当、乗る幹部俳優から飼葉料がたんまり出るという。
狂言方の役得にキエモンがある。
舞台上で使って消えるもの、つまり食品や煙草などのことで、たとえば俳優が役で煙草を吸う場合狂言方が用意するのだが、一回で一本として一公演で五十本前後、それをカートンで買い、余った分を自分が煙にする……たいした額ではないが、常打ち劇団だと結構おいしいのだ。
真崎が所属していた劇団では、大目に見てもらえた余禄である。
その劇団に松尾が入ってきたのは十年ほど前のことであった。
九州の劇団にいたというのだが、せいぜい雑用係といったところで、柝頭を持ってはいたが、所詮大阪の大手の劇団で通用するような技量はない。
当初は先輩の狂言方を手伝って、せいぜい上敷(畳代わりに舞台に敷く茣蓙)を敷いたり、初日や楽日に俳優のボテ(衣装行李)を担いで運んだり、こまごまとした仕事の走り使いが主だった。
その内、自分が楽をしようという思惑の先輩に押し付けられて、舞台進行を任せられた。
なんとも頼りない仕事振りだったが、実直な人柄と懸命に働く姿に、不満を口にする仲間はいなかった。
ただ、手順どおりの進行ならいいが、肝心の劇団座長の芝居で幕切れに打つ柝頭に難があった。
座長は曾我廼家十吾、元歌舞伎俳優の曾我廼家五郎・十郎が創設した曾我廼家喜劇の継承者で、松竹家庭劇を主宰していた。
おばあちゃんを演じたら天下一品、名人十吾と謳われ、脚本はすべて自作で、名作を数多く残している。
その十吾師の下で、文芸部員の一員として真崎は勉強していた。
名人の芝居は融通自在、呼吸・間が、いつも同じではない。
「その人になりなはれ」が、俳優に与える演技の奥義のようなもの、舞台でその役の人物を生きろということである。
 これがなかなか出来るものではなく、覚えた台詞、与えられた動きを忠実に演じるだけだと、たちまち雷が落ちる。
 いわゆる駄目出しは、幕が下りてからばかりではなく、芝居の最中にもあるのだが、そこは名人、観客には筋書き通り演じているかのように思わせる。
 そんな名人が演じる幕切れなのだから、柝頭を入れる方も毎回が真剣勝負なのだ。
 松尾には無理な注文、幕が開いてから何日間は、舞台の袖に二人並んで座長の芝居を見つめ、きっかけをはずさないように、「そろそろやで……いいか……はい!」で、チョーン……と打たせていた真崎だった。
 周りの者に、それなら自分で柝を打ったらとも言われたが、こればかりはよほど手になじんでないと、にわかに打てるものではない。
 長年扱っているだけに、松尾もそれなりに柝の音を響かせたものだ。
 劇団での居場所に落ち着き、少ないながら収入も安定した頃、松尾の中日の
すき焼きは始まった。
 かなり年下だが、いろいろと指示を与える立場というだけではなく、真崎に懐いている感じで、すき焼きを余分に作って持ってきてくれたことも、一再ならずあった。
 九州の地方回りの頃、辛いこともあっただろう、来た当初は風采の上がらぬどこか暗い印象だったが、今では笑顔を絶やさぬ柔和で温厚な、人のいいおっちゃんになっている。
 安アパートの三畳一間の暮しだが、過去にはなかったやすらぎがある、自分にとっては金殿玉楼だと、あまり似つかわしくない難しい言葉で語ったこともあった。
 過去在籍していた一座とは比較にならぬ、松竹家庭劇という大手の劇団で、舞台進行の重責を担っているという自負心が、彼に自信を植え付けたのであろう、豊かではないが余裕を感じる日々だった。
 しかし真崎は時折、松尾の思いがけぬ素顔を見ることがあった。
 狂言方の、柝頭の次に大事な商売道具はナグリだ。
 金鎚(かなづち)のことで、舞台装置を組んだりばらしたりする大道具さんにとっても、必携の商売道具である。
 それぞれ、柄の部分の太さと長さを使い勝手がいいように調節し、頭の金具の部分をぴかぴかに磨き上げる。
 高所に届くように大道具さんのナグリは総じて長めで、狂言方のそれは短めである。
 若い大道具さんが、腰のベルトに取り付けた皮のサックに通してぶら下げた姿は、ガンマンを想起させる。
 松尾も常時腰にぶら下げていたが、旅先の名古屋で終演後外出する際もはずさないと知った真崎が、
「護身用?……危険がいっぱいの物騒な世の中やあるまいし……なんで?」
 と、聞いた。
「……護身用ではなかとです……長い間、一日中ぶら下げてたから、はずすと落ち着かんとです」
 と応える松尾。
 そんなもんかとその場は納得したが、数日後の夜。
劇場の近くの居酒屋で飲んでいた真崎が、隣の客と些細なことから口論になり、いきり立った相手の男、プロレス並みのごっついのが、
「表に出ろ!」
とお定まりの台詞。
 真崎も騎虎の勢、立ち上がり席を離れようとした。
 いつの間に来ていたのか、片隅で飲んでいた松尾が駆け寄り、真崎を押し戻すと、にやりと笑って男の後を追った。
 直後、怒声と、ガガーンという金属製の音がした。
 真崎は表に飛び出し、他の客や店の者が続いた。
 向かい側の果物屋のもう降りているシャッターに、小柄な松尾が倍もあろうかという男の首を締め上げ押し付けている。
 男はようやく松尾の手を振り解き、突き放すと傍らに詰まれていた空の木箱を手に身構えた。
 よろめき倒れかけた松尾が、体勢を立て直した時だった。
「やめろ!」
 真崎は夢中で松尾にとびかかり、羽交い絞めにして、
「やめろ!……やめろ1」と連呼していた。
 松尾が腰のナグリに手をかけたからだ。
小柄な男の膂力の凄まじさに恐れをなしていた相手の男は、すでに戦意喪失、木箱を置くと小声で罵りながら去っていった。
 松尾の体から力が抜けるのを待ち、店の者に明日来るからと声をかけ、宿泊所を兼ねている劇場の狂言部屋に連れ戻った。
「俺をかばってくれるのは嬉しいけど、あんなんは出て行ってごめんなって謝ったら済むことや……それより、ナグリや……立派な凶器やで……仕事以外で持ち歩いてる、それだけでも咎められる、まして人に怪我でもさせたら……頼むさかい仕事以外はやめてや……な……やめて……?……やめなんだら、友達やめるで!」
 松尾は頷いた。
 劇団内での立場の違いはあっても、お互い単身大阪で生きているもの同士助け合おうという意思で結ばれている。
 友達を失いたくない、その想いが勝って、松尾は以後仕事が終わるとナグリをはずすように心がけていた……時々忘れることはあったが。
 真崎が松尾を羽交い絞めにしたことは以前にもあった。
道頓堀の朝日座の舞台稽古のときである。。
元九州で剣戟の一座の座長を張っていた幹部座員が、松尾に暴力を振るった。
以前、短い間だがその座にいたことのある松尾は、元座長に礼を失することの無いように努めていたが、裏方の下っ端など人間以下の虫けら扱いだった相手は、自分の弟子でもないのにあれこれこき使い、口汚く罵った。
唯々諾々と従っているように見えたが、松尾の胸中には、今の俺は昔の俺じゃあないという念いがくすぶり始めていたに違いない。
真崎から小道具の扱いに関する駄目を伝えるように言われた松尾が、
「OOさん……」
 と声をかけたのがいけなかった。
 元座長にすれば、狂言方にさん呼ばわりされ、駄目出しをされる……有りえることではなかったのだろう。
「OOさん?……きさん?(貴様)……いつから、そげんえらそうな口ばきけるようになったとか」
 と、いきなり張り倒した。
 足蹴も飛んでくる。
以前なら、元座長が怒れば、這いつくばってひたすら、
「すんまっしぇん、すんまっしぇん」
 と謝るところだが、ここで日ごろの憤懣が爆発する。
 ……さんが駄目なら、どう呼んだらいいのだ、今はあんたは座長じゃない、先生と呼ぶのは現在の座長だけだ。
 といいたいところだが、口下手な上に興奮状態で、ただわなわな震えながら睨みつけていた。
 思わぬ反抗的な態度に激昂した元座長の、激しい蹴りで吹っ飛んだ松尾は、
這いずるようにその場を去った。
 こともなげに高笑いの元座長。
 次の瞬間、彼も、居合わせた連中も凍りついた。
 松尾が戻ってきた、顔面蒼白、その手にはナグリが握られている。
 詰め寄ってくる。
 その並々ならぬ気迫に押されて尻込みする元座長。
 その時だった、騒ぎを聞きつけて真崎が駆けつけたのは……。
すぐさま状況を見て取った真崎はとっさに松尾を羽交い絞めにした。
「やめろ……やめろ」
 と叫んだが、後で思うと、
「殿中でござる!」
 と言った方が似合いそうな、あたかも……松の廊下……の一幕だった。
 そうか、両方ともナグリが絡んでるなあ。
……ナグリか……そういえば楽屋にはなかった……まさか……普段は感情を露わにしないが、いったん火がつくとまらない……そしてナグリ……。
一抹の不安が胸のうちをよぎった。
そろそろ東の空が白んできそうなミナミの街を眺めながら、窓際に立ち尽くす真崎だった。
このあと真崎は、松尾と思いがけない対面をすることになる。 


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地域:大阪府
性別:男性
ジャンル:趣味 漫画・小説
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シーズの愛犬BEEとハラベエを取り巻く生き物たちとの、
出会いと別れを描いた感動、ファンタスティック・ノベルです。

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