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インフルエンザのワクチンもウイルスの型が変わるたびに変更されるように、新型コロナウイルスも単一のワクチンでは済まなくなっていく可能性は十分にある。(1)
[森羅万象]
2021年7月8日 18時36分の記事




『世界と日本経済 大予測2021』
渡邉哲也   PHP研究所 2020/11/12



・時代の転換期を読み間違うと、大きな損失を被る。過去の歴史から見て、戦争や疫病、大恐慌などに際しては枠組みの大転換が起きている。20世紀から現在までの歴史だけ見ても、いま、そのタイミングが到来したと言っていい。

<新型コロナウイルス感染症により、世界全体で大規模な変化が起きている。>
・これから起きることは明確だ。必要なものと不要なものの分類と整理と淘汰が進み、より大きな社会変革を生み出す。
 暮らしや行動様式だけでなく、政治そして経済にも同じことが言える。米中の対立が過熱し、中国に依存するビジネスモデルはまもなく瓦解するだろう。国内外の不動産バブル崩壊にも備えなければならない。

・スペイン風邪の流行と終息(1918年〜1920年)、第1次世界大戦開戦(1914年)から、およそ100年。その間、ほぼ30数年ごとに大きなレジームチェンジがあり、それが重なるとさらに大きなレジームチェンジがやってくる。

<これまでの経験則は通用しない>
・2021年が激動の1年になるのは間違いない。コロナ禍とその対応で止まっていた時を取り戻すかのように時代が動いていく。

・したがって、これまでの経験則が通用しなくなる。常識にとらわれず、メディアの情報を鵜呑みにしない姿勢が求められる。

<リスク1 新型コロナウイルス 収束はワクチンの普及次第>
・結論を言えば、新型コロナウイルスの収束は、ワクチンがいつまでに、どの程度生産・供給できるかに左右される。
 良質のワクチンを供給できれば通常のインフルエンザと大差なく、リスクは一気に軽減される。ワクチンの開発が遅れ供給できなければ、マスクをする、消毒する、外出を控えるなど、これまでの基本的な対策を愚直に実行していくしかない。

<ウイルスが変異する可能性も>
・ただし、新型コロナウイルスがもつ「変異しやすい性質」には注意が必要だ。ワクチンを開発しても、それがどの程度効果があるかは未知数である。
 インフルエンザのワクチンもウイルスの型が変わるたびに変更されるように、新型コロナウイルスも単一のワクチンでは済まなくなっていく可能性は十分にある。変異に合わせて作り替えるとしたら、全世界から新型コロナウイルスを一掃するのは容易ではない。

<スペイン風邪より長引くことはない>
・こうしたなか、医療機関における新型コロナウイルス感染症への対処法が確立されてきたことも見逃せない。
 新型コロナウイルスによって引き起こされる最も顕著な症状は血管炎だ。血管炎にステロイド療法は効かないと言われていたが、徐々にその効果が認められ、イタリアでは致死率が急激に低下。世界全体で見ても致死率は低くなっている(無症状感染者は増えている)。
 そもそも、世界で感染者数が3700万人を超えたとされるが、季節性インフルエンザも、その程度の感染者は出るわけで、数字そのものは驚くほどではない。

・1918年に世界的に流行したスペイン風邪は、終息までにおよそ2年かかっている。

・さらに、開発中のワクチンを考慮すれば、新型コロナウイルス2年を要さず抑え込める可能性はある。ただし、そうであっても新型コロナウイルスが消滅するという話ではない。社会的パニック状況からの脱却は意外に早くても、その影響は、中長期的に続いていくと考えるべきである。

<リスク2 消費の後退 「おうち習慣」からの「外出控え」がより顕著に>
・ワクチンの開発による最大の効果は、医学的観点では感染症の抑え込みにほかならないが、経済や流通の観点においてはワクチン接種によって人の動きが自由化する点にある。

・ただし、消費行動が活発になるとはいっても、一時的・単発的にすぎない。

・自粛期間が長かったため、消費者もお金を使う習慣が薄れている。「外食しなくても自炊すればいい」「家が一番くつろげる」「家でプチ農業でも始めようか」など外出するだけの活力を失い、消費行動どころではない状況に陥っている。そう簡単に、国民の「おうち習慣」は抜けないだろう。そう考えると、ワクチンが普及しても、実体経済が明るくなるにはしばらく時間を要すことが予想される。

<リスク4 本格倒産 2021年、「ゾンビ企業」が一掃される>
・2020年上半期の倒産件数は3943件、前年同期比で1.4%の減少、負債総額は6316億円余で、前年同期比でじつに15.9%も減少している。
 世間では「コロナ倒産」と面白おかしく騒がれているが、その件数も負債総額もじつは前年以下である。この理由は簡単で、新型コロナウイルス対策によるセーフティネットが機能しているからだ。

・こうした保証・助成・給付等によって、本来、倒産するはずの企業が生き延びたというのが、倒産件数の前年比減につながった要因と推認すべきだろう。

<後継者問題に悩む企業が一足早く倒産>
・これとは逆に、本来、続くはずだった店舗や企業が店じまいをするケースも散見される。ギリギリ赤字にならない程度だった老舗が、後継者不在問題も絡んで以前から廃業するタイミングを計っていたところ、コロナ禍をきっかけに、「余力があるうちに店を閉めてしまえ」と決断したパターンである。

<台湾はすでに独立している>
・台湾は金融の独立、通貨の独立、安全保障の独立、すべてが独立して、国家として存続している。

<中国バブルがついに崩壊する――絶対絶命の中国経済>
<リスク19 資本移動の制限 >
<どれだけ中国で稼いでも、自国に送金できない異常さ>
・すでに中国ではその状態が生まれており、決められた額を超える資金の持ち出しは認められていない。資本移動の自由がないため、利益を持ち帰れず、中国国内に再投資するしかない。その結果、儲けたお金は、中国のGDPを引き上げ、中国人の雇用を生み出すだけでしかない。

<引き上げを見越して、事業転換する日本企業も>
・資本の移動が制限されているなか、資金を運ぶ手段はないのか。
 じつは一つある。中国で作っていたものを日本国内に持ち帰ることができれば、国内に資金が還流し、国内の消費市場が活発化するとも言える。

・その会社はいま貿易業だったが、現地であげた利益を日本国内で販売している。もともと中国に工具を輸出する企業だったが、現地であげた利益を日本国内に還元できないため、中国からモノを輸入し、日本で売って現金化している。

<君子は中国に近寄らず>
・中国企業は取締役会の上に中国共産党支部をつくる必要があり、企業は共産党の指示で動いている。共産党員の取締役は確実に入るため、共産党の了解が取れないと撤退ができないのだ。なんとも理不尽である。
 したがって、「撤退したかったら、資本をすべて置いていけ」と要求されるだろう。これが共産党一党独裁の国でのビジネスの実態。そんな市場に飛び込む日本企業が賢くないと言ってしまえばそれまでだが、リスクを事前に考えれば「君子は危うきに近寄らず」を肝に銘じるべきである。

・やはり、いつ中国から引き上げてもいいように、なるべく身軽な状態を維持しようと努めるのはアパレル業界も同じである。

<リスク20 ドル建ての株価 計画経済に基づく人民元相場に騙されてはいけない>
・中国は新型コロナウイルスを世界に伝播させたものの、いち早く、その影響から脱し、直近だけ見ると経済は伸びている。ただ、その実態は感心したものではなく、人民元を大量に発行し、見かけをよくしているだけにすぎない。

・しかも為替そのものが中国人民銀行に操作されている。だから、仮にハイパーインフレが起こったら、一瞬にして株の価値は100分の1になっても不思議はない。中国の場合、計画経済における国内市場の値段であって、それを国際資本と比較するのはおかしいということは覚えておくとよい。
 中国で物を生産しても、まったく無意味であるばかりか、マイナス面のほうが大きい。
 中国との関係悪化が進むいま、日本企業が製造拠点を国内に戻す、あるいは他国へ移すといったことは、早急にやるべきである。早く逃げ出した会社ほど安全であり、逃げ切れなかったところは大損を抱えることになる。

<リスク21 中国不動産バブル  不良債権の増加が顕著化する>
・西側先進国企業が撤退すれば、中国は技術を失い、世界の工場としての立場も危うくなる。当然、失業者が増加し、景気は悪化する。
 また、バブル状態にあるとされる消費市場も一気に崩壊する。
 その象徴として、中国の消費を支えている不動産価格が大幅下落に転じ始めた。

<リスク22 富裕層の資産逃れ  マネーロンダリングを塞がれ、慌てふためく習近平国家主席>
・また、2017年からは共通報告基準に基づく自動的情報交換制度が発効し、非居住者の金融口座や取り引きなどの情報は各国でお互いに提供することになった。そのため、個人の隠し財産の情報はすべてアメリカに筒抜けだ。中国共産党の幹部はいま、莫大な資産を逃がす場所を失い慌てふためいているだろう。

<リスク23 技術流出 日米の買収包囲網により、立ち消えた「中国製造2025」>
・中国経済は実体がよくわからない。
 自由主義圏の経済とは異なり、完全なる計画経済だからだ。人民元を好き放題に刷っており、外観上の数値が経済の実態を示しているとは一概に言えない。
 ただ確かなことが一つだけある。香港にある資金が逃げ出していることだ。

・その象徴として、2015年に発表された「中国製造2025」は完全に停滞しており、習近平国家主席も言及しなくなった。

<技術流出を防ぐ法整備が急がれる>
・外為法、秘密特許、人的認証制度。この三つによって日本からの技術の略奪を防ぐしかない。

<リスク24 千人計画 中国スパイによる技術遺漏にご用心>
・一説によると、アメリカは千人計画の対象者リストをすでに入手していると言われており、早晩、世界各国と連携して技術漏洩した人材の取り締まりが始まるとされている。そうなると、中国はいよいよ「中国製造2025」どころではなくなってくる。

<中国人研究者の排除が止まらない>
・一方、アメリカは研究分野からの中国人の排除を始めた。すでにアメリカは研究分野等のビザを5年から毎年更新に変更。2020年9月には、1000人もの中国人のビザ取り消しを決定した。これにより、先端技術分野からの中国人研究者はほぼいなくなった。

<リスク25 ハリウッドへの介入 映画界に忍び寄る中国の影>
・中国の「世界進出」は、映画の聖地ハリウッドにも及ぶ。
 テンセントをはじめとする中国企業が、ハリウッドのコンテンツ企業を大量に買収している。

<リスク26 輸出管理法 中国の制裁防衛策により、「技術の分断」が進む>
・輸出管理法は、西側の輸出管理法と同等の法律と考えていい。

<リスク27 中国大企業の失速 アリババ、テンセントにますます資本が集約される>
・GAFAMと中国のベンチャー企業群「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」では、米中それぞれ政府の対応がまったく違う。

・しかし、中国は逆で、BATとアリペイに国内の資本を集約させている。政府が寡占状態を創出、集約させて国際競争力をつけさせる。そうすれば、企業の数が減り、市場をコントロールしやすくなるメリットも享受できる。最終的には、BATを国有化してしまえばいい。自由な経済活動への参加など、これっぽっちも考えていない。

<リスク28 SWIFT 中国の国際決済が一発で止められる恐怖>
・金融面を見ると、アメリカは今後、中国を国際決済のシステムから排除することを考えている。

<リスク29 債務のワナ 中国の租借権ビジネスは限界を迎える>
・今回のコロナ禍で、世界約200カ国のうち100カ国以上がデフォルト危機に陥った。これに対しG20は、パリクラブを介した債務整理を主張している。

<リスク30 尖閣危機 中国に対抗する「シックスアイズ」締結が急がれる>
・中国が何を考えているのか、世界地図を俯瞰して見ると明確になってくる。

・このうちどこかを自国の領土領海にすれば、自由に太平洋に出ていくゲートウェイができると考えると、尖閣諸島周辺の状況も見えてくる。もちろん、尖閣諸島周辺の地下資源、石油、天然ガスも視界に入っている。

<リスク39 実体経済の停滞 海外の工場はこぞって国内回帰する>
・国内経済は「再来年度(2022年度)でも感染拡大前の水準には戻らない」という厳しい声。

・ただし、見方を変えれば、国の将来に向けての産業構造を変革させる大きなきっかけにはなる。停滞期を迎えるが、産業や人間の行動基準、そして企業そのもののあり方を変えるにはいいタイミングではある。
 その一つが、製造業の国内回帰である。

<リスク40 東京五輪 経済効果薄、さらなる延期も>
・直近の景気の動向に影響を与えるのが、2021年に延期された東京五輪・パラリンピックだが、開催には不透明な部分が大きい。

<リスク41 インボウンド減 2021年以降も復活は見込めない>
・新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、インバウンドはほぼ壊滅状態だ。

・端的に言って、観光業は主力産業にすべきものではない。所詮は余暇の産業であり、ベースにある製造業が堅調なうえで成り立つもの。

<外国人に依存しない産業構造の変化が急務>
・また、外国人に依存しない産業構造の構築が不可欠だ。人件費が安い人材を海外から連れてきてコストダウンを図るのではなく、「コストダウンのために何が必要であるか」という視点に立ち、必要な投資がされるべきだ。

<リスク42 不動産相場 都心のオフィスビルは「がら空き状態」に>
・コロナ禍の影響は不動産価格にも及ぶ。とりわけ商業用不動産は、今後、下落していくことが予想される。

<中国人が手放した物件を香港人が買う>
・昨今、日本の不動産を買う中国人が減少傾向にある。それどころか、じつは中国人が手放した物件を香港人が購入するケースが増えている。

<リスク43 紙幣価値の低下 世界的な「通貨の希薄化」で金の価値が上がる>
・新型コロナウイルス感染症の拡大で経済活動が停滞、どの国も基本的に「バラ撒き」政策を取っている。

<リスク44 自社ファースト主義 頭を使わない会社は淘汰されていく>
・業績悪化の話ばかりを耳にするが、この国難にあって前出の空調関連のように、利益を大幅に増加させている企業もある。

<いまこそ「顧客第一」に立ち戻るべき>
・コロナ禍でも景気のいい企業の経営者は、「どうすれば儲かるか」「どこに新たな需要があるか」を真剣に考えている。規模の大小に関わらず、頭を使わない会社は消えている。当たり前と思われるかもしれないが、これが経営の本質とも言える。

<リスク45 コンビニ業界の光と闇 CI戦略が明暗を分ける>
・コンビニ大手で明暗が分かれた格好だが、絶好の商機にローソンは何をしたのか。
 主な要因は、パッケージングの失敗と私は見ている。ローソンは2020年春に無印良品を展開する良品計画との提携に合わせ、プライベートブランドのパッケージを全面リニューアル。オシャレで若者受けしそうなシンプルなデザインが商品の顔となった。
 しかし、「中に何が入っているかわからない」「絵柄が似た商品を間違って買ってしまった」など酷評の嵐に晒される結果となった。洒落たデザインなら消費者が手を出すと考えた思考回路は、現代史に残る謎と言っていい。
 ローソンの失敗は、コーポレート・アイデンティティが経営に大きく影響するという商売の基本をわれわれに教えてくれた。

<リスク46 サプライチェーンの代替 大危機に強いトヨタのリスクマネジメント>
・アメリカでは、アメリカトヨタのサプライチェーン内で組み上がるようにしている。ジャスト・イン・タイム生産システムの看板方式により、セブンーイレブンのような地域別のサプライチェーンで極力完結できるようにしている。

・徹底した危機管理で難局を乗り越えたトヨタに対して、日産はルノーと一緒になって、欧州型のグローバルサプライに切り替えたことが完全にあだとなった形だ。地産地消型を忘れたグローバルモデルに転換したために、致命傷に近い傷を負う結果につながった。
 日本の自動車メーカーのトップを独走するトヨタにも課題はある。トヨタの収益に大きな割合を占める中国事業である。中国でビジネスをしていても、利益を持って帰れないから現地で再投資するしかない。投資を繰り返せば、バランスシート上の売り上げだけが大きくなっていき、大きなリスクになりつつある。それをどうするか、トヨタの出方には注目しておきたい。

<リスク47 ソフトバンク 米中の“股裂き”で苦しむ立場はいつまで続くか>
・前著『世界と日本経済大予測2020』でも解説したが、ソフトバンクは現在もなお相当厳しい状況に置かれている。
 アリババをはじめとする中国企業に多額の投資をしていることで、米中の対立で股裂き状態になっている。
 ソフトバンクがアメリカの規制を受けずに営業するには、社内のサービスにソフトバンク製のソフトと回線の使用を控えることが条件になる。
 社内ではNTTやauを使って、お客さんにはファーウェイやアリババの製品などを売る。ところが、ソフトバンク製品をサポートすると制裁対象になってしまうから、別会社をつくる必要がある。なんとも複雑なビジネスだが、それしかない。
 米中とのあいだで“股裂き”に遭っている状態のなか、二者択一を迫られたときに、中国と心中する覚悟があるかは未知数である。

<リスク48 テレビCMの激減 芸能人のユーチューブ進出は止まらない>
・エンターテイメント産業も、コロナ禍の直接的な被害者だ。だが、同情の余地はなく、個人的にはエンターテイメント産業はすでに終わった存在と見ている。

<高齢者がテレビの嘘に気づき始めた理由>
・「テレビ離れ」は若者だけに限らない。じつは高齢者層もテレビも見なくなってきている。
 理由の一つに、偏った報道が通用しなくなったことが挙げられる。ユーチューブやSNSの視聴慣習が高まり、テレビの報道が偏っていることに気がつき始めたのではないか。

<リスク49 新聞の失墜 イベント中止に伴い利益激減、構造変革が待たれている>
・コロナ禍で最も大きなダメージを受けたのは、メディアのなかでは新聞かもしれない。
 テレビ局のCM激減は前述の通りだが、新聞は広告収入だけでなく実際の業務にも支障が出ている。たとえば、新聞記者は取材に行けなくなった。

<リスク50 四半期決算 目先の利益確保より、“企業百年の計”を立てよ>
・トランプ大統領は大統領選挙で当選した2016年からの数年、この数十年の大きな国際経済における問題として、現在上場企業に義務付けられている四半期決算を半期決算に変更することを主張し続けてきた。これには筆者も賛同する。

・いっそ四半期をやめて、たとえば半期決算にすれば、もう少し長い視野でのサプライチェーン構築が可能になる。“企業百年の計”ではないが、企業の中長期計画を多少なりとも組み上げられるのではないか。

<「日本」はこれから強くなる>
<リスク51 ポスト安倍政権 路線継続も、憲法改正は?>
・拉致問題や中国との関係など、これまで通りの路線を継続するとしているが、安倍政権よりもハト派的な政策をとる可能性も否定できない。憲法改正に関しても後退する可能性がある。

<リスク52 スガノミクス アメリカ資本の参入は期待できない>
・コロナ禍でボロボロになった国内経済はそう簡単には立ち直らず、景気がさらに悪化するのは目に見えている。そのうえ、米中の対立が激化し、国際政治の荒波が持ち込まれ厳しい政権運営が予想される。

<リスク53 外交戦略の転換、対米、対中方針は現状維持>
・だが、心配は無用だろう。日米の緊密な同盟を維持する方針は自民党政権である限りは変更しない。

・注意が必要なのはむしろ中国との関係だが、これも大勢は変わらないだろう。自民党の党内勢力で考えたときに、親中派は少なく3分の1もいない。米中の二者択一をしなければいけない世界情勢のなか、あえて中国を選ぶ選択肢はない。自民党内でそのようなことになるはずはないし、また、国民も認めないはずだ。

<中国包囲網は継続される。>
・そもそも、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」は安倍首相の私案ではない。日本の外交方針でもある「自由と繁栄の孤」でインドを巻き込んだ中国包囲網は、アメリカではさらに発展させた太平洋版NATOとして論じられることが多い。

<首相の仕事は、内政より外交>
・勘違いされがちだが、総理大臣が内政で発揮できる力は外交ほどではない。大きな方針を決めるなどイメージづくりはできるが、内政では党の力が相対的に強い。

・一方、外交においては、首相の権限が圧倒的に大きい。

・ちなみに、外交の実務を任されているのは外務大臣ではない。トップ会談の次に行なわれているのはG20での財務大臣の会談である。

<リスク54 多発する災害 来る震災・水害に備えて列島強靭化は急務>
・ここ数年、世界はもちろん、日本でも異常気象が叫ばれている。
 2019年だけでも、6月に九州南部で、降り始めからの総降水量が1000ミリ超の記録的な大雨となり死者2名を出し、8月にも九州北部地方で600ミリを超える雨が降り、死者4名を出した。10月には台風19号、21号が関東地方を直撃し、死者98名、住家の全壊2806棟を出すなど大きな被害が生じた。
 こうした猛烈な台風や雨が世界的に気候変動とどう関わっているかは一概には言えないが、南シナ海の海面温度が上がっていたり、北極の氷が溶けたり、世界的な環境の変化に多少なりとも影響を受けているだろう。
 そうした地球環境の変化を踏まえて、日本でも首都直下型地震や水害に備えなければならない。これに関しては列島強靭化を進め、災害が発生しても被害が出にくい環境をつくっていくしかない。

<感染症病床が足りない>
・東京都内は東京五輪・パラリンピックを控えているためインフラ更新が進み、緩やかに強靭化はされているが、昨今のスーパー台風や、これまでに経験したことのない豪雨、長雨などの災害にどこまで対応できるかは未知数の部分が大きい。しかも対策にはコストがかかるので、リスクとのバランスも考えないといけない。

<ホテルを病棟に変える制度が求められる>
・また、非常時に協力してくれるホテルなどに補助金や助成金を出すなどの仕組み、何かがあったときに法改正も含めてホテルを接収できるような協力ホテル制度とでも呼ぶべき制度を整える必要もある。いつでも病棟に変えられるようにしないと、第二の新型コロナウイルス禍が発生したときに医療崩壊につながりかねない。

<リスク55 働き方改革 リモートに照準を合わせた教育整備が進む>
・逆に、ある程度の専門性の高い学業を教わる高校や大学では、全部オンラインにしてもいいぐらいだ。やる気のある生徒には対面型でもオンラインでも大差ない。今後のオンライン授業はどうあるべきか、これも考えておかなければならない課題である。

<リスク56 「地方創生」 「地元のモノ」を活かした産業が伸びる>
・もっとも、地場産業として成り立つのは、基本的に「昔からあった産業」だけだ。最適化されたからその地に根付いたのであり、人工的に移植するような形では根付かない。異質なものを持ってきても、拒絶反応を示すだけである。

<リスク57 先例踏襲 ビフォーコロナにはもう戻らない>
・また、政治と経済は別という欺瞞も完全に否定されつつある。これはアメリカや世界で展開する中国企業を見れば明らかである。
 つまり、安全パイとしての先例踏襲、「これまでは」こそが、すべてにおいて最大のリスクであり、これまでとは違うと考え、どうするか能動的に動くことこそが成功のカギとなる。

<いまはピンチでもあるが、チャンスでもある。>
・戦争の時代を迎えるにあたり、他人をアテにしてはならない。大事なのは情報の取捨選択。自ら考えて合理的に答えを導き出す意識をもつことだ。



『ポスト・コロナ「新しい世界」の教科書』
高橋洋一 、 渡邉哲也  徳間書店    2020/5/29



<コロナ収束後から始まる世界の地殻変動>
・スペイン風邪の流行(1918〜20年)から約100年の時を経て、世界は新型コロナウイルスの猛威に襲われた。
 スペイン風邪では世界中で5億人が感染し、1700万から5000万人の死者が出たと言われている。

・そして2020年、世界で中国発の新型コロナウイルス感染症が猛威をふるった。その結果、各国は国境を閉じ、ヒトとモノ、カネの動きが滞る事態となっている。

・日本企業はローテク技術を新興国や中国に移すことによってコストダウンを図ってきたが、今回の新型コロナ問題によりサプライチェーンが分断されることによって、ローテク製品がないがゆえにハイテク製品がつくれないという状況になることの危うさに、日本の多くの人たちが気づくようになった。

<嘘で被害を拡散させた中国への制裁が始まる>
<統計学が見抜いた中国の嘘>
(高橋) いやもう、中国の発表は全てウソですよ。ウソだということがすぐにわかる。
 たとえば、武漢からチャーター機で帰国した日本人は600人弱ですが、感染者は14人で感染率は2.3%くらい。これらの日本人が武漢で感染者と接触した率は中国人と同じか、少し低いぐらいだという推定をたてます。
 武漢の人口は1089万人。先の感染率を当てはめると少なくとも20万人以上は感染者がいるはずです。また、先の数字から致死率はだいたい5%と見積もると、少なくとも武漢だけで1万人は死者が出ていないとおかしい。そういうことがわかるわけです。
(渡邉) 武漢市は4月29日現在で、感染者累計5万333人、死者は3869人。明らかに少ないですよね。

<これから中国へ向かう全世界の怒り>
(高橋) 新型コロナウイルスについては、武漢のウイルス研究所から漏れた、あるいはウイルス研究所でつくられた人工ウイルスだという話もあります。
 その真偽についてはわかりませんし、眉唾な情報もありますが、少なくとも初期段階において世界に向け正しいディスクロージャーをきちんとしなかったというのは確かです。

<中国に接近した国ほど被害が拡大>
(高橋) 先ほども少し話が出たように、中国は他国にマスクや防護服などを売りこんだりしていますが、これが不良品ばかりで非常に評判が悪い。
 たとえばオランダは中国から医療用のN95マスクを輸入しましたが、3月に到着した130万枚のうち、60万枚が不合格だったため、全量を不良品として返品しました。
 3月中旬にはスペインとチェコに送られた数十万枚の新型コロナウイルスのテストキットも不良品ばかりだったということです。
 フィンランドでは、中国から購入した200万枚の外科手術用マスクと個人用防護具23万個の全部が不良品だったため、国家緊急供給庁の責任者が辞任する騒ぎとなっています。あまりの中国の対応に、どの国も怒りだしている感じがします。

・(高橋) イギリスは完全に中国に対して敵対的になりそうな感じが するし、マクロンも同様で、これでメルケルまでもそうなってしまうと、中国がこれまでヨーロッパで影響力増大に努めてきたことが、みんな崩れてしまうかもしれない。実際、中国と親密だった国ほど、被害が大きいですからね。
(渡邉) さらに言うと、政治的に中国と接近していた国ほど、実は国民の不満は大きかったのです。
 イタリアでは、革製品や工場や縫製工場などを中国企業が買い漁り、そこへ中国人労働者を送り込んで製造技術を盗んで、「made in Italy」として世界に輸出していた。つまり、イタリア人の雇用を奪っていたわけです。
 イタリアはヨーロッパでも中国人移民の多い国で、合法的な中国人移民は30万人以上ですが、不法滞在中国人はそれ以上存在すると言われます。
 とくに人気ブランドが多く存在する北イタリアのミラノは「イタリアにおける中国人の首都」と言われているそうです。
                                                                                                                                                   
<ようやく真実の数字に近づいた中国のマイナス6.8%>
(高橋) この新型コロナ・ショックの影響で、中国は2020年1〜3月のGDP成長率をマイナス6.8%と発表しました。

<中国を待ち受ける悲惨な未来>
・(渡邉) 中国のGDPは、地方政府が報告してくるGDPを全部足し合わせたものと、中央政府が発表するGDPが数十兆円規模で乖離していることは有名です。とくに地方政府が自らの手柄のためにGDPの水増しをしている。
(高橋)先述したように、私は2016年に刊行した本のために中国のGDP成長率を計算して、マイナス成長だと書きました。
 ところがその本を出したら、中国政府の関係者から大学に文句が来たのです。さらには、日本人の中国研究者からも大学にものすごい抗議がありました。

<なぜ中国に騙されるのか>
(高橋)私が中国の本当のGDP成長率を計算してみようと思ったのは、ソ連(ソビエト連邦、1922〜91年)の統計のインチキというところから始まっているのです。ソ連は、建国以来70年間、統計をごまかし続けてきたのですが、それがソ連崩壊によってわかった。崩壊後に、あれも違う、これも違うというのが山のように出てきた。
 それで、中国の国家統計局のシステムと組織は、現在もソ連の国家統計局と同じなのです。だから、同じようにごまかしているのが普通だろう、ということで、見直してみたわけです。
 中国の輸入量は世界各国の中国への輸出量とだいたい一緒だと推論し、その数字をもとに、消費税とGDPが連動するという経済学理論を組み合わせて推計したところ、中国のいまの経済成長率はマイナスになったというわけです。
 実は失業率統計があるとGDPの統計が正しいか嘘かが検証できるのですが、中国は失業率統計を隠しているのです。中国も賢いから、嘘がバレる材料となる数字は、ソ連の経験に学んでみんな隠すわけです。
 ソ連の統計の嘘というのも、ソ連が崩壊してようやく資料が出てきてわかったことであって、それまではアメリカの経済学者が寄ってたかって計算しても、誰も嘘だと証明できなかった。

・(渡邉) 旧ソ連に騙された学者も多いですが、中国に騙される学者も多いですよね。
 情報統制していて、しかも国有企業を株式市場に上場させるという、資本主義ではありえないことをしているのに、それを誰も不思議だとは思わない。
 少数民族弾圧も知らぬ素振りで日中友好を声高に主張する「親中学者」も少なくありません。中国市場への魅力なのか共産主義というイデオロギーに夢を見ているのかわかりませんが、そういうパンダハガーが日本にはとても多い。

<中国式資本主義の不気味さ>
(渡邉)中国は共産主義国というより、中国共産党が支配する開発独裁国家ですよね。開発独裁国家の裏側に軍部があって、軍部=共産党なのです。だから軍部は共産党一党独裁体制を終わらせるような武力の使い方はしないと思うのですよ。
 そして、先進国になっても、巨大な開発独裁国家であり続ける。実際、いまも国有企業を中心とした開発独裁国ですしね。
 そもそも、株式会社ではない国有企業が、株式市場に上場している。

<死刑で会計データの正しさを担保する中国>
(高橋) 以前、中国で、OECD主催のコーポレートガバナンスについての会議が開催されたことがありました。私は当時アメリカにいたのですが、中国でコーポレートガバナンスとは面白いと思って、アメリカ人と一緒にアメリカ国として会議に参加しました。
 アメリカ側からは、「きちんとした会計制度もなければ、情報公開制度もない中国で、コーポレートガバナンスなどありえないでしょう」と問題提起したのですが、そのときの中国側の答えがすごかった。
「いや、中国でもし会計を不正操作したら、みんな死刑ですから。会計データの正しさはディスクロージャーではなくて、死刑によって担保されます。会計不正で死刑などという国が他にありますか? だから私たちのほうが正しいのです」と、開き直ってすごい言い方をしていました。
 アメリカ代表やヨーロッパ代表の人たちと、「ディスクロージャー違反で死刑はないよな」とコソコソと話しましたが、みんなも唖然としていました。そのときに、中国は資本主義ではないと思ったのです。
(渡邉) 経済犯で死刑というのは、普通の国家ではありえませんからね。それだけ中国は命の値段が安いということでもあります。
しかも、それでも中国では統計数字が捏造される。上から下まで、摘発する側もされる側も「みんなやっている」から摘発しない。つまり数字の捏造などない、ということになるからです。
問題は、そのようなやり方の国を、自由主義、民主主義の経済体制に入れておいていいのか、という話ですよ。
 米中貿易戦争、そして今回の新型コロナ問題によって中国を世界から分離するデカップリング(切り離し)論が出ていますが、世界もようやくそのことに気づき始めたといえますよね。

・(高橋) 結局、我々とはルールや考え方が全く違う。中国に輸出している企業の人たちには、「外国人はディスクロージャー違反で死刑になってしまうかもしれない国だから、気をつけたほうがいいよ」とよく言っています。すごい国ですよ。
(渡邉) まあ、中国は法律をいくらでも恣意的に運用できますからね。当局の思惑ひとつで有罪にも無罪にもなる。
 やはり中国は異質な国です。しかし、これまで世界はそのことにあまりにも鈍感だった。新型コロナ問題ではそのことを改めて認識させられたのだと思います。
 だから中国を世界から隔離しようという、デカップリング論が今後の世界的潮流になるのだと思います。

<「コロナ文化人」の怪しさ>
(渡邉)「文部科学省の事務次官研究」として、歌舞伎町に研究に行ったらどうですか?
(高橋) 前川喜平元事務次官のことですね。官僚時代に出会い系バーに頻繁に出入りしていたことを報道されて、「貧困女性の調査のためです」と言っていましたけれど、私はツイッターで前川さんに「研究は絶対に公表しないとダメです」と呼びかけました。
 学者として、何を研究するかという自由はあります。ただし、公表しないと研究は意味がない。その公表の仕方はいろいろある。もちろん自分の大学で発表してもいいし、査読付きのジャーナルでもいい。また、商業誌に出してもいいし、それでもダメならネット上で公表してもいい。
 だから、ぜひ前川氏の研究は見たいですね。

<統計学からみたPCR検査の限界>
(高橋) ただ、私の博士号は実は経済学ではないのです。ポリシースタディーズといって、日本ではあまりない学位なのですが、統計などを使っていろいろな分析を行う学問で博士号を取ったのです。論文にしても、いままで統計学のものばかりではありません。
 それで、実は私が感染症の元研究者だと言うと、みんなが「え?」と驚く。
 どうして感染症研究ができるのかというと、統計の話だからです。

<新型コロナを政権批判の道具に利用する人たち>
(高橋)立憲民主党と国民民主党を比べると、まだ国民民主党のほうがましですね。玉木雄一郎代表は、支援金を一律配布すべきだと言っていたし、消費税減税にも言及しています。

<日本の国会は三密状態>
(高橋) テレワークを国会でやったらいい。質問者と関係答弁閣僚だけがやり取りする。そしてその様子をテレビなりインターネットで流す。それで十分でしょう。むしろそのほうが、真面目なやり取りになるのではないですか。

<リモート・アクセス時代だからこその「中国排除」>
(高橋) 私の家には有線、無線のLAN網を構築していますが、つい最近まで、防犯カメラも数台設置していました。ところが、説明書を読んでみたら、防犯カメラのサーバーの所在地がすべて中国だったのです。これには驚きました。
 それを知って、防犯カメラをすべて取り外しました。安い中国製の防犯カメラだったのですが。

<戦時体制だからこそ起こる人種差別>
(高橋) だからこういうときには早く逃げなくてはならない。まったく戦争と一緒なのです。
 私の娘はサンパウロの高級住宅地に住んでいましたが、周りの日本人はあっという間にいなくなったそうです。現地に残っていたら、本当に何をされるかわからないから。

・(渡邉) 私もこれは戦争と同じだと思っていますけれども、そういう認識を持っている政治家がどの程度いるか。
 国会議員にいろいろ質問すると、国防族はかなり危機感を持っていますが、規制緩和や出入国管理について、厚労族や法務族などによってかなり温度差があるようです。

<「中国発」への警戒心を高めよ>
(高橋) やはり中国が発生源だということだけで、もっと警戒しなければならないと思いますよ。そもそも情報隠蔽の国だから、正確な情報が伝わらないわけですし。だからもっと身構えなくてはならなかった。

<生物兵器の有効性を証明してしまった新型コロナウイルス>
(高橋)  昔から言われていたことですが、ABC兵器(Aは原子兵器、Bは生物兵器、Cは化学兵器)のうち、Bが最も安価でできるとされてきました。今回の新型コロナ感染拡大は、それを証明することになってしまったとも言えますね。

<日本のセキュリティはザル>
(高橋) 電話といえば、官邸にいたときには、携帯電話は使いませんでした。携帯電話は電波を取られて盗聴されるからです。官邸に入るときには、そういう注意を受けるわけです。
 また、官邸で会議をしているときには、みんな携帯電話やスマートフォンを冷蔵庫の中に入れる。ハッキングされて、勝手にオンされて盗聴されることを防ぐためです。
 官邸ではそういう備えをしていますが、しかし、国会議員などは、国会でスマートフォンをいじっている人もいますね。

・LINEは電話番号を抜かれますが、アレはまずいのではないかと思います。抜かれた結果は韓国系企業に情報が行きます。韓国の人もLINEは使わないと言います。とくに日本の国会議員だと、もっとまずい。
(渡邉) いろいろセキュリティ的にヤバいことを普通にやっていますよね。セキュリティが甘いというより、ない。

<官邸の情報もダダ漏れ>
(高橋) 官邸の中には、ランクによって行けるところが決まっていて、それはきわめて重要なセキュリティ情報なのですが、民主党時代に、そういったものがみんな漏れてしまった可能性がある。
 私も2006年に首相官邸政策スタッフになったとき、官邸内から外を写した写真は撮るなと、ものすごく注意を受けたものでした。内部構図がみんなわかってしまいますからね。
ところがいまでは、みんな平気でそういった写真を表に出している。官邸のセキュリティが甘くなったのかもしれませんね。

<民主主義の力を示すためにも憲法に緊急事態条項を入れよ>
(高橋) せめて憲法に緊急事態条項ぐらいは入れるべきだということになればいいと思います。なにしろ、外出自粛にしても強制力がないから、非常に困ってしまったわけですから。なにも、戒厳令みたいな話をしなくてもいい。戦争ではなくても、こういったパンデミックのときにも私権制限は必要だと。それは国民の命を守るためには仕方がない。
 そういう話をするしかないでしょう。

<日本人はもっと「カネで解決」を学ぶべき>
(高橋) もっともそうしたことは、要はお金を出せば解決するはずですけれどね。もうちょっと合理的に割り切って、お金で解決するということに注力すればいいのにと思いますが、なぜか、日本ではそういう考え方がダメですよね。
 教条的に個人の権利とか財産権とか言い出すのですが、そういう権利もお金で換算したほうが後腐れないですよ。

<「世界はカネで動いている」が国際常識>
(高橋) とはいえ、政治家はみんな丸め込まれてしまいますけれどね。財務省はスーパーパワーの役所ですから、いろんなものを握っている。だから強い。
 なにしろ、「政界のドン」ともいわれた元自民党副総裁の金丸信すら失脚させましたから。私はそれを目の当たりにしました。最後は税金で追い詰める。そうなると政治家はぐうの音も出なくなる。だから政治家を殺すのは簡単なのです。
 財務省がそれほど強いことは、日本にとっていいことなのかと、私はいつも疑問に思っています。

<景気対策時に出てくる「日本破綻論」に気をつけろ>
(渡邉) そこで警戒すべきなのは、財務省の意向を汲んだマスコミなどから「国民の借金が大変だ」などという財政規律の話が出てきて、景気対策が邪魔されることです。国債発行残高が増えると、マスコミはすぐ「国の借金1100兆円、国民1人あたり863万円」などと煽る。国家が破綻して円が暴落、ハイパーインフレがやってくるなどと言う評論家もいるくらいです。

<なぜ国のバランスシートは世の中に出ないのか>
(渡邉)通常の企業でも、財務分析を行うときは連結でやりますよ。
 親会社が子会社に対して50%以上の出資を行っている場合、その子会社は連結対象となります。日本銀行の資本金の55%は日本政府が持っていますから、連結決算に組み入れることが普通です。

<「国の借金1100兆円」という嘘>
・(渡邉) 要するに、日本政府と日銀は親会社と子会社の関係にあるわけで、親会社の政府が子会社の日銀から500億円借りたところで、親会社と子会社ですから、全体として借金が増えたわけではない。
 政府が1000兆円の国債を発行する一方で、日銀がそのうち600兆円を買っていれば、実質的な借金は400兆円しかないということです。さらに、親会社・子会社の資産部分も計上すれば、さらに借金は減るし、場合によってはプラスになる。
 ちなみに平成30年度の政府の連結財務諸表によれば、資産合計が338兆2000億円、負債総額が259兆3000億円で。差額78兆9000億円のプラスです。
 つまり、日本政府はいま約79兆円のプラス資産だというのです。 

<格付け会社は競馬の予想屋と同じ>
<日本の格付け会社も五十歩百歩>
・(渡邉) 日本の格付け機関もひどいですよね。財務省系のJCR(日本格付研究所)と日本経済新聞系のR&I(格付投資情報センター)が有名ですが、本当にこの格付けでいいのか? というものが多々あります。
 たとえばソフトバンクグループなどはS&Pやムーディーズから投資不適格のジャンク債扱いを受けていますが、JCRでは「Aマイナス」で投資適格になっている。

<デリバティブ商品に手を出すな>
(渡邉) 結局、金融工学を使って商品化するところまではまともだけれども、それを売る際にいろいろな詐欺的手法が使われて、場合によっては商品を組み立てる際に格付け会社という競馬の予想屋みたいのが入ってきて、無茶苦茶になっていくと。
 リーマンショックのときに売られていたサブプライムローン債券などは、その典型ですね。非常に信用力の低い商品まで混ぜ込まれていて、しかも格付け機関がそれに高い格付けを与えていた。
 その他、ハイブリッドCDSなど、いろんな商品を細分化してごちゃまぜにする商品まで出てきたおかげで、さらに複雑怪奇になって訳がわからなくなっていった。

<新型コロナ問題で壊滅的になるベンチャー投資>
(渡邉) 今回の新型コロナ災禍によって、世界経済が大きなダメージを受けるのは不可避ですが、とくにこれまでの世界的なITバブルを牽引してきたベンチャー投資が、大幅に縮小されると思います。

<甘すぎる日本の証券取引規制>
<新型コロナ以降、日本の親中勢力への攻撃が始まる>
・(高橋) 今回の新型コロナ問題で米中対立がより激化するのは間違いないでしょうが、実は財務省はかなり親中なのです。幹部に親中派が多い。中国へのODAをバンバン出したことで、中国側からかなりの厚遇を受けて、ウハウハだった人も少なくない。
 中国側もよく知っていて、国会議員の訪中団などでも、政治家は無視して財務官僚を優遇したりする。

・(高橋) アメリカは最後、人民元の自由化を言えば、中国が終わりになることを知っています。人民元が自由化されれば、資本移動も自由となり、中国共産党は国内経済をコントロールできなくなる。それは共産党の指導体制の終焉を意味します。すると中国共産党が潰れざるをえない。

<新たな世界秩序の勝者は誰か>
<浮き彫りになった中国の異質さ>
(渡邉) 一応、民間企業もあることにはなっていますが、企業内に中国共産党の支部を設置することが義務づけられていて、そこで党の指導に従うようになっています。そのため、たとえ民間企業でもあっても、実質的には国有企業です。

・(渡邉) しかし中国は逆で、すべてにおいて共産党が最上位の概念にある。だから、社会主義や共産主義の理念には反さないということになるわけです。取締役会より共産党が上位だということは、生産設備はすべて実質的に固有であり、社会主義・共産主義の基本理念通りだということになる。
 さらに撤退や清算する場合、取締役全員の合意が必要であり、合弁なので中国側の代表者が必ず入っているわけです。ですから、自由に清算も撤退もできないのです。多くの場合、撤退する際に、日本側が持ち分すべての提供を要求される。また、撤退に際して債務があれば、逮捕され、一種の人質となり債務の完済を要求されるケースも多い。
 こうした中国企業を西側の資本主義市場までもが「民間」として受け入れてしまったことが間違いだった。それが、この30年間の答えだったと思うのです。

<新型コロナ以後、中国陣営と自由主義陣営に分裂する世界>
(渡邉) 中国は韓国に対して、優先的に入国を認めるファストレーンを認めるということを言い出していますね。他国からは中国への労働者は受け入れないけれど、韓国だけはOKだということにすると。
 しかし、これが西側陣営にとって、今後、大きなリスクにもなってくると思いますよ。韓国を通じて技術がかなり流出してしまう可能性がありますから。

<中国化していく韓国>
(高橋) 韓国がいま社会主義化・全体主義化へと向かっているのは、地政学的に中国の影響力が及びやすいという、独特の理由があるのかもしれません。
 いずれにせよ、新型コロナによって、文在寅政権の立ち位置がよりよく見えてきたということなのでしょう。

<「中国なき世界」はやってくるか>
(高橋) その可能性は大きいですが、それでも旧ソ連のように、共産主義が潰れたケースもあります。旧ソ連の場合は、アメリカとの軍拡レースに敗れ、当時のゴルバチョフ大統領がグラスノスチ(情報公開)、ペレストロイカ(改革)を進めるなかで共産主義の放棄と連邦制の崩壊へと至りました。
 中国もアメリカとの対立と今回の新型コロナ問題で、国家存続の危機に陥る可能性も、まったくないとは言えないと思います。
 とはいえ、おっしゃるとおり、ゴルバチョフのように、中国を改革へと導こうとする人物はいまの中国にはいない。
 となると、中華人民共和国の前の中国、すなわち、それぞれの地方で軍閥が群雄割拠したように分裂状態になるというのも、10年、20年のスパンで考えると、ありうるシナリオだと思います。

<中国大分裂の可能性>
・(高橋) 歴史上、独裁体制で突っ走れた大国はないと考えると、中国もどこかで民主主義になるという可能性はあると思います。

・先にも述べたように、10年、20年のスパンで考えたとき、中国がバラバラになって、そのうちのいくつかが民主国になるというシナリオも、十分にありうると思うのです。

(渡邉) かつて1918〜1920年にかけてスペイン風邪が流行し、その後、1929年からの世界大恐慌、そして1939年からの第ニ次世界大戦と、約10年ごとに大きな出来事が続きました。それと同じような流れになりそうな気配もあります。

<習近平に迫る危機>
・(渡邉) これまでも習近平の暗殺未遂事件は何度もあったと言われています。

・(高橋) 肉親を失った悲しみは万国共通ですから、武漢で1万人以上死者がいるとしたら、その恨みたるやかなりのものでしょう。
 もしも習近平が暗殺されたら、結構、中国社会はかなり不安定になるのではないでしょうか。
(渡邉) それがきっかけとなって、中国大分裂時代に突入するかもしれませんね。とくに現在、権力者が不在になることで、共産党内が内乱状態になる可能性はあるかもしれません。
それは中国がつねに繰り返してきた歴史でもあります。

<「新たな世界」のトップリーダーになる日本>
(高橋) 今回の新型コロナウイルスの災禍によって、世界は中国という国の異質性を、改めて認識させられることになったと思います。
 これまでは米中対立を傍観し、そのときどきでアメリカ側と中国側を行ったり来たりしていた国々も、身の振り方を固めなくてはならない時期が迫っている。

・その一方で、日本は感染者の致死率が先進国のなかでもきわめて低い。その理由については、先にいろいろ類推しましたが、今後の世界情勢の変化において、その点は日本の優位性につながると思います。

(高橋) 100年前にスペイン風邪が流行し、その後、大恐慌が到達しましたが、そのとき日本は高橋是清大蔵大臣が金融引き締め政策と緊縮財政政策をやめ、日銀引き受けを伴う積極財政と同時に金融緩和も実施したことで、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出しています。

(渡邉) 今回も、日本がきちんとした経済対策を打てば、このコロナ災禍のダメージを世界でもっとも低く抑えることが可能かもしれません。ポスト・コロナの時代を日本がトップリーダーとなって牽引するということも不可能ではないでしょう。それだけのポテンシャルが日本にあると思います。

・だから、非常事態にどのような対応をするのか、どこまで私権を制限するのかということをあらかじめ緊急事態条項で決めておくべきなのです。

<正しい財政金融政策で日本は「コロナ以後」に大復活する>
・渡邉哲也氏とは、インターネット放送局である文化人放送局の番組「怒れるスリーメン」でいつもご一緒しているが、その知識は政治・経済のみならず、ビジネス界の裏話や言論人の人間関係まで、非常に多岐かつ広範にわたっていることにいつも驚かされてきた。

・さて、本書の主要テーマでもある新型コロナ問題だが、感染拡大の終息後こそが本当の正念場である。日本も世界も確実に大きく変化せざるをえないからだ。とくに米中問題は最大の焦点となるだろう。

・新型コロナウイルスとの戦いは「見えない戦争」といわれているが、アメリカの歴代戦争での死者数と比較しても、すでにベトナム戦争を超える規模となっている。ちなみに各戦争でのアメリカ人の死者数は、南北戦争49.8万人、第ニ次世界大戦29.2万人、ベトナム戦争5.8万人、第一次世界大戦5.3万人、朝鮮戦争3.7万人である。

・このように、アメリカは過去の戦争や紛争において、介入する口実を見つけては実行することが少なくない。
 トランプ大統領は、中国を名指しして、世界での新型コロナウイルス感染の拡大の責任を追及するはずだ。武漢ウイルス研究所での人工兵器説から始まり、同研究所からの流出事故などのストーリーが流されているが、これも情報戦の一環だ。

・本書中でも、アメリカをはじめとする世界各国で中国に対する訴訟が提起されはじめていることは述べているが、結果次第では、在米中国資産の凍結もありうるだろう。この場合、中国政府の代わりに特定個人の資産差し押さえも考えられるところだ。それらは、中国共産党への大きな打撃になるかもしれない。
 このように、今後、米中貿易戦争が再燃するどころか、「準戦争」になる可能性はかなり高い。これは必ずしもハードな武力行使ではなく、ソフトな経済戦争や情報戦争だろう。

・そこで、日本の対応だが、まずこの新型コロナ問題を戦時体制と捉えていないことの危機感の希薄さは、本書で繰り返し述べてきたとおりだ。日本政府は新型コロナによる死者のみならず、経済による死者も減らす策を取らなくてはならない。
 私としては、少なくとも50兆〜100兆円以上の有効需要が必要だと考えている。最初の緊急経済対策では「真水25兆円」程度なので、まだまだ足りない。

・私は著書などで何度も指摘しているが、大災害時の増税はありえない。大災害が100年に一度なら、復興費用は「100年国債」で調達するのが原則である。大災害時の増税は経済学の課税平準化理論にも反するもので、古今東西行われたことがない愚策だ。
 「供給ショック」より、需要の喪失による「需要ショック」が大きい場合、デフレ圧力が高まるので、インフレ目標に達するまで、中央銀行による国債買い入れが可能になる。この状況では、長期国債発行による総需要創出と日銀の買い入れが最善手だ。この場合、政府の実質的な子会社である日銀が国債を保有するので、利払い費や償還負担は事実上発生しない。その結果、財政状況を悪化させることもないので、将来の増税を心配することはない。

・財務省は、当時の民主党政権が政権運営に不慣れだったことに乗じて復興増税を盛り込んだ。これをホップとして、ステップで消費税を5%から8%に増税、ジャンプとして10%への税率引き上げを画策し、実際に安倍晋三政権で実行された。
 財務省としては、二匹目のドジョウを狙っているのだろう。新型コロナ対策で多額の財政支出を強いられるので、財政悪化を理由として新型コロナ増税を主張する。その勢いで、消費税率も12%、さらには15%へと、再びホップ・ステップ・ジャンプをもくろんでいるのではないか。
 世界の先進国では、中央銀行による国債の無制限買い入れや、減税、給付金など積極財政政策で一致している。そして、大災害での増税は行われない。
 新型コロナ・ショックでは需要が蒸発しデフレ圧力が高まっている。そうしたときに増税が行われたら、落ち込んだ経済への致命的なダブルパンチとなるだろう。
 


『コロナ大不況後、日本は必ず復活する』
 高橋洋一      宝島社   2020/5/25



<財政出動>
・やっと真水でGDP5%程度の財政出動を決めた安倍政権。しかし、それだけでは足りない。2021年のオリンピックまで、日本の企業を守り切れば、絶対に日本経済は復活する!

<ショボい経済政策でなければ、日本は復活できる>
<厄介な新型コロナウイルス>
・新型コロナウイルスは厄介なウイルスである。感染力はそれほど強くなく、多くが軽症である。しかし、20パーセント近くの人が重症化し、そのうち5人に1人が亡くなる。致死率は4パーセントほどだ。ただし、この数字は暫定的なものだ。

・感染力は基本再生産数で表すが、それが1.4から2.5とWHOの研究グループが発表している。基本再生産数は、一人の感染者がどれくらいの人数にうつすかを表すものである。1.4から2.5と言うのは、一人が1.4人から2.5人にうつすというものだ。
 ちなみに、麻疹は12人から18人、風疹は6人から7人、インフルエンザが1.4人から4人、そしてSARSが2人から5人が基本再生産数だ。新型コロナウイルスは、それらの感染症に比べれば低いと考えられ、エボラ出血熱と同じ程度といわれる。ただし、この基本再生産数というのは、本当に正しいかはいまのところわからない。

・死者を出さなければ、普通の風邪だ。ご存じだろうが、いままであったコロナウイルスは風邪を引き起こすが、死に至るまでになるのは少数だ。新型コロナウイルスは重症化し、ある程度死者まで出すから問題なのだ。

<特効薬がない限り、人と人との接触をなくすしかない>
・無症状でも感染していくことを、不顕性感染というが、このようなウイルスをなくすためには、ワクチンを投与して予防するか、罹った後に治療薬を投与して助かるか、そもそも人と人との接触をなくしてウイルスに感染しないようにするしかない。現在、ワクチンはないが、治療薬としてレムデシビルが許可された。

・しかし、1ヵ月の緊急事態宣言が延びれば、その分、日本経済に与える影響は大きくなる。
 だが、延びた分だけ、財政出動や金融政策で、真水(見せ金や付け替えではなくて実質的にプラスになるお金)を国民に供給すれば、日本経済は持ちこたえられる。そうすれば、日本経済は長期の景気低迷に陥ることはない。ただし、それがショボかったら、失われた30年をまた繰り返すことになるだろう。いや、多くの中小企業が倒産し、失業者が街にあふれることになる。
 どれだけの真水が必要か。それは失われたGDP分だ。それが供給できれば、日本は必ず復活する。いまのこの時期をしのぎ切れば、次の明るい未来は必ずある。

<新型コロナウイルスは収束するのか?>
<緊急事態宣言の延長>
・5月4日、緊急事態宣言が5月31日まで延長された。これは、2週間から1ヵ月の間で延長されるだろうという私の予想の範囲内で、25日間の延長となった。

<100年前の数理モデル>
・この緊急事態宣言を延長するかどうかの議論は、5月1日の専門家会議で行われた。そこで、延長について説明したのが数理モデルの専門家である西浦博氏らである。

<いまは、再生産を抑えるしか方法がない>
・いまは、誰がウイルスを持っているのかわからない。わかるのは症状が出て、PCR検査で陽性になった人である。そして、新型コロナウイルスには、登場したばかりのウイルスであり、ワクチンや特効薬もない。そうなると、再生産数を低くする方法が限られてくる。その場合、再生産数を低く抑える方法とは何があるのか。それは、人と人の接触を抑えることだ。

<基本再生産数>
・再生産数には基本再生産数と実効再生産数がある。
 基本再生産数は、ある感染者が、周りにワクチンの接触も、感染もしたことがない人(感受性者)ばかりの中に、一人ぽつんと入った場合に、何人に感染するかを指す。 
 わかりやすく言えば、感染に抵抗するもの(ワクチン接種者や、その感染症に対する免疫を持った者、あるいは感染できないほど距離が離れているなど)がない状態での感染の割合だ。

・正直言って、新型コロナウイルスの基本再生産数の数値はあまりあてにならない。もっと少ないという人もいるし、逆に多いという人もいる。それは、現在進行形で進んでいるウイルス感染のため、正確な数字がわからないということがある。

<目標は実効再生産数が1以下>
・実効生産数(Re)の式は、少しおいて、目標値を説明しよう。
 目標値は実効再生産数を1以下にすることとしている。その理由は実効再生産数が1以下なら、ウイルスが収束していくからである。一人の人が、一人以下の人しか感染させないのなら、いずれウイルスは消える。

<実行再生産数と接触率7割、8割削減の意味>
・少し遠回りしたが、次は、実効再生産数である。実効再生産数は、実際の再生産数である。基本再生産数が純粋培養だとしたら、実効再生産数は、炉辺で培養するようなものである。いくつかの要因が、再生産数を抑えることになる。

・そうなると、方法は人と人との接触を避ける以外にない。接触率はいままでを1とすれば、0.6を削減すればいいとなる。6割削減である。
 しかし、専門家会議の西浦氏は7割から8割削減を提唱した。それは、先にも書いたが新型コロナウイルスの基本再生産数が、確定値ではなく、まだまだ、幅があるからだと私は考えていた。

<新規感染者数で見ると実態がよくわかる>
・専門家会議の西浦氏は、東京は0.5まで実効生産数を抑えたとしているが、全国では、0.7でまだまだ接触率削減が足りないと発言し、緊急事態宣言を継続したほうがいいとした。
 私も元感染症の研究者だから、実効再生産数のことはわかるが、基本再生産数がはっきりしない以上、感染が収束しているかどうかは新規感染者数の推移を見ていくしかないと考えている。

<なぜ、新規感染者で見るのか>
・私は、政府や各自治体の人と人との接触を抑える政策は間違っていないと考えている。何度も書くがワクチンや特効薬がない状態では、感染症対策はこれしかない。理論的な話としては、何も対策をしないですべての国民が免疫を持つようにするという「集団免疫作戦」もありえる。しかし、その過程で数十万人以上が死ぬので、通常の民主国家ではとり得ない作戦だ。

<段階的な緊急事態宣言の解除>
<追跡要員の確保>
・さらに、評価できるのが、「住民10万人あたり30人以上の追跡要員の確保」が基準に入っていることだ。
 私はこれが大切だと考えている。ワクチンも特効薬もない段階では、感染の拡大を防ぐ方法は、感染経路を追跡して明らかにし、その感染元を潰していく(隔離していく)ことが大切だ。感染経路をすべて抑え、潰すことができれば、ウイルスは死滅する。

<抗体検査の意味>
・ニューヨーク州が行った無作為の抗体検査についても触れておこう。
 抗体検査は、過去にウイルスが侵入したかどうかがわかる検査である。目的には病原菌への抗体を調べて、免疫を持っている人がいれば、その病原菌の治療薬に使えるといわれている。
 そのとおりであるが、私はそれよりも、過去にその病原菌にかかったかどうかがわかることの方が大きいと考えている。なぜなら、抗体について大きな勘違いがあるからだ、
 抗体を持っている=免疫ができている=その抗体のあるウイルスにはかからない、が正しいわけではないからだ。特に新型コロナウイルスは未知のウイルスである。抗体を持っているからといって、そのウイルスへの免疫ができているとは言えない。
 抗体を持っていても、そのウイルスにかかることはある。ウイルスが変異することがあるからだし、抗体が十分機能しないこともある。
 抗体検査で確実に言えることは、抗体を持っていれば、そのひとが、いままでにウイルスに侵入されたことがあるということだ。過去の感染と現在の感染がわかれば、将来の感染をより正確に予想することができる。

<消費税減税で名を残す首相に>
・そして、19年10月の10パーセントの引き上げが安倍首相の下、行われた。安倍首相の下で、消費税は二度延期され、二度引き上げられた。されていないのは、減税だけである。

<コロナショックはリーマン・ショックを超えた>
・これで、政府としても、今回のコロナショックは、『リーマン・ショック級以上』と言わざるを得ない状況だ。

・まさに、日本も世界もリーマン・ショック級の事態になっている。この未曽有の危機は、当然、消費税減税を行う立派な大義名分になる。消費税よりも国民の命と経済を優先すべきである。
 まず、最低でも消費税増税によって失った2019年10−12月期のGDPのマイナス7.1パーセントを取り戻すべきである。消費税を税収は約20兆円(2019年)。途中で10パーセントに上がっているが、多くの時期は8パーセントだった。1パーセント当たり2.5兆円の税収になる。3パーセントで7.5兆円。これだけでは、今回のコロナショックには全く足りないが、他の財政出動が重なるから、それに上乗せになる。
 それよりも、消費税を減税したということ自体が、消費を喚起することになる。休業補償、さらなる現金給付、そして家賃補償と合わせて行うべき政策だ。

<オリンピックの延期>
・IOCはオリンピックを開催することでもっている組織である。IOCもビジネスだ。オリンピックの放映権料は、アメリカだけで1200億円、日本も275億円もあり、全体で2400億円を超える。
 オリンピックが開催されなければ、それらの収入はゼロになる。他にも、オリンピックが開かれることで、スポンサー料、チケット収入もある。これらの割合は、IOCの公式資料によれば、放映権料が47パーセント、スポンサー料が45パーセント、チケット収入が5パーセントとなっている。
 全体で5000億円を超える。これらが全部なくなることはIOCにとって、存続にかかわる。

<オリンピックの経済効果>
・オリンピックが中止になると、今後11兆円の経済効果が吹っ飛ぶとこだった。これは大きい。1年延期でも、1.1兆円分の経済効果分が先送りされるから、何とかしのぐしかない。

・これら、直接的効果とレガシー効果を合わせて約14兆円の経済効果が見込まれている。そして、これ以外に経済普及効果がある。

<経済普及効果>
・都をはじめ他の機関も30兆円の経済効果を見込んでいるわけだ。そして1年あたりも少なくても2.6兆円、多ければ6兆円の経済効果が生まれる。特にオリンピックの開催の年は、より効果が高いであろう。
 オリンピックは雇用も生み出す。都は、オリンピック開催に伴う全国の雇用増加数は、直接効果で約30万6000人、レガシー効果で約163万2000人とし、うち都内は約129万6000人と推計している。

<オリンピック効果で日本はV字回復を目指せ>
・オリンピックが中止にならなくて本当に良かった。新型コロナウイルスがなければ、オリンピックの効果を2020年の夏に味わっていたわけだが、それでも1年後にはそれを実感できるはずだ。
 消費税増税と新型コロナウイルス、そしてオリンピック延期のトリプルショックを受けて、日本経済はズタズタになっている。しかし、2021年にはオリンピックで、日本経済を復活させなければならない。
 しかし、その前にしなくてはいけないことがある。新型コロナウイルスの感染を押しとどめることと、それによって起きた経済ロスを補うことだ。

<ショボい財政出動ではダメだ!>
<国民の命を守るのが政府>
・私は、プランB(人と人との接触を全くゼロにし、その代わりに経済ロスが100兆円以上起こる)ということを前提に考えている。そして、そこで発生する経済ロスを民間が負担するのではなくて、政府が負担すべきと考えている。
 GDPが4割近くも落ち込むと、日本では失業率が4パーセント程度増え、失業者は300万人程度も増えることになる。そうなると、自殺者は増加し、1万人の規模になると予想される。
 現時点での日本の新型コロナウイルスで亡くなった人は数百人だ。繰り返しになるが、政府がやるべきことは国民の生命を守ることである。それは新型コロナウイルスで重篤な人を助けるのもそうだが、経済的困窮で自殺に陥らないように経済支援をすることもそうだ。

・景気の悪化を食い止めるのは政府の経済政策でできる。これは、外出自粛の経済サポートにもなり、コロナ感染を防止するためにも有効である。
 そうすれば、民間が負担することによって起きる200万人から300万人の失業者をなくすことができ、経済的困窮から自殺に陥る人を救うことができる。
 私は、国民の生命を守るという立脚点を政府は忘れてはいけないと考えている。その立脚点さえしっかりしていれば、政策がぶれることはない。
 私は、政府が負担すべき100兆円は基金を創設することで確保できると考えている。それを日銀が購入すればいい。その基金から経済ロス分を都度補えばいいのだ。

<100兆円基金>
・第1章で示したプランCがまさしくその考え方だ。私は今回の新型コロナの対策以前から100兆円基金を提案してきた。
 それが可能であるのは、金利環境が10年以内の年限ならマイナス金利だからだ。通常であれば、国債は無駄な利払いをしないために必要なときに発行する。そのため予算では1年間の枠を取っておくだけで、国債を事前に発行することはない。
 しかし、いまはマイナス金利なので、事前に発行して基金を作っても利払い負担はない。それどころか、マイナス金利なので、逆に収入がある。
 しかも、日銀は10年金利でゼロ、それ以内ではマイナス金利になるように金利政策を実施しているので、政府が国債を大量に発行しても、現在の金利環境はそう簡単には壊れない。
 
・だから私は以前から、国債発行枠を増やし、100兆円基金を作っておくことを提唱していた。100兆円あれば、緊急事態宣言が長引いても、予算に困ることはない。
 一人当たり10万円の給付も、2回、3回にわたって行うこともできるし、中小企業の休業補償も手厚くできる。それによって、コロナ・ショックの先行き不安を感じている国民の懸念も払拭できる。

<日銀の無制限国債買い入れ>
・「4月27日、日銀は金融政策決定会合を開き、追加金融緩和を決めた。
 政府が国債の新規発行を増やして大規模な経済対策に乗り出すのに連動して、国債の買い取りについて『年間80兆円をめどとする』という従来の上限を、当面設けないとした。事実上の無制限国債買い入れである。また、厳しい資金繰りに直面する企業が資金を調達しやすくなるように、企業が発行する社債やCP(コマーシャルペーパー)の買い入れの上限も計7.4兆円から20兆円に拡大する。
 遅きに失したとはいえ、当然の策だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は既に3月末に無制限国債買い入れを決め、企業債のみならず、地方債まで購入対象になっている。
 欧州中中央銀行(ECB)も同じ時期に国債買い入れ枠を撤廃している。ここで、日銀が動かなければ世界の笑いものになっていたはずだ。

・私の提唱した100兆円基金も絵に描いた餅ではなくなる。連載の最期に書いた、あとは「財政がどこまで出るかが焦点」となる。

<ショボい、ショボい補正予算>
・しかし、はっきりいって、補正予算の額はショボかった。予算規模は25兆5000億円で、GDPの5パーセントにはなるが、予備費が1兆5000億円、コロナ収束後の対策費が1兆8000億円もあるから、当初の実質的予算は22兆円程度。医療費を除いてしまえば20兆円のGDPの4パーセント程度しかない。

・このままいくと、リーマン・ショック時の経済対策のように、世界各国の経済対策と差がついて、日本だけが景気の低迷が続いていくという、悲惨な状況が生まれる。次のV字回復には、最低でも50兆円は必要だ。もし、新型コロナウイルスの収束が遅れるようであれば、もっと必要になる。

<休業補償はすべき>
・私は、休業補償は絶対すべきだと考えている。

・政府は、いまが戦争に匹敵する非常事態であると認識していないのだろう。国民の命を守るのは国の役目だ。
 国がドカンと資金を出せばすむ話なのに、これではコロナ対策で苦しむ国民は浮かばれない。

<10万円をしっかり使おう>
・私の知っている中小企業の経営者は、子ども二人と妻の分の40万円で、なんとか一ヵ月を生き延びると言っていた。

<緊急事態宣言を延長したのだから、もう10万円支給すべき>
・私は、5月7日から緊急事態宣言を延ばしたのだから、もう10万円支給すべきだと提言している。

<ハイパーインフレなど起きない>
・金を刷り過ぎれば、カネがジャブジャブになって、モノの値段が急騰するということだが、そんなハイパーインフレなど起きない。
 ハイパーインフレが起きる原因の一つは、極端な供給不足の時である。お金がジャブジャブであっても供給が満たされているときは起きることはない。
 それは歴史が証明している。

・しかし、日本の財政はかなり健全だ。そもそも日本の借金は多くない。独立行政法人も入れた日本政府の借金は、GDPの3倍にあたる1470兆円(2018年3月)もあるが、一方で、986兆円の資産もあり、実質の借金は484兆円である。
 484兆円は大きい額であるが、日銀が国債として保有している額が459兆円分あり、実質的にはゼロに近い。
 このような状態の中で、100兆円国債を増やしても問題は何一つない。逆に世界各国が財政出動して経済対策をしているときに、日本だけがしなかったら、日本円が高くなってしまう。
 ヨーロッパやアメリカ市場が落ち込んでいるとき、円高がより進んでしまったら、日本の輸出産業のダメージは計り知れない。

<「財政緊縮派」に騙されず、100兆円基金を>
・新型コロナウイルスで経済活動がストップし、飲食店などは青色吐息の経営を続けている。それを助けることができるのは、唯一政府だけだ。十分なお金を用意し、彼らの命を守らなければならない。
 そのためには、常に使えるお金を用意しておいた方がいい。それが100兆円基金だ。もし、100兆円で足りなければ、200兆円にすればいい。

<コロナで進む中国の野望>
<マッチポンプか!  中国>
・だが、その先頭を走っているのは中国だ。新型コロナウイルスを世界にまき散らしておきながら、感染も収束させた(本当にそう言えるかまだわからないが)技術を世界に売り込もうとしている。まるでマッチポンプだ。ウイルスという火をつけておきながら、消火器を一生懸命に売っている。

・さらに、4月27日、アメリカのトランプ大統領は、新型ウイルスの流行をめぐり、中国に損害賠償を請求する可能性を示唆した。
 まあ、訴訟をしても取れるものなど、アメリカ国内にある中国資産くらいしかないだろうが、すでに新型コロナウイルスで、アメリカ国内では7万人以上が亡くなっている。5万8000人の米軍兵士たちが亡くなったベトナム戦争を超えているのだ。

・敵はウイルスであるが、その背後には中国がいるのだ。米中の対立はより一層深まっていくだろう。

<台湾の感染者が少ないのは中国からの圧力のおかげ ⁉>
・8月1日に発表された、個人旅行の停止は、台湾の観光業界に非常なショックを与えた。2018年の台湾への中国人観光客は、日本を大幅に上回る205万人であった(日本は144万人)。日本と同じく爆買いする中国人観光客は台湾でも、インバウンドの担い手であった。

<観光業もリスク分散を>
・日本は、もっと世界各国からインバウンドを求めるべきであろう。
 資産運用でも、会社経営でもリスク分散は大切だ。利益の多様化は、観光業においても、世界的なリスクが高まっているなか必要な施策だ。一つの国に頼りすぎるのは危険だ。各国から人が集まるオリンピックは、リスク分散のいいきっかけになるだろう。

<野望だけが強く、責任感に欠ける中国>
・特に中国は人口が多く、軍事費やGDPも世界第2位であるにもかかわらず、大国としての責任感はまるっきりない。軍事力を背景にして、日本の尖閣諸島や南沙諸島に進出してきているが、野望ばかり強くて、民主主義もない一党独裁の国だ。
 チベットやウイルスを見ればわかる通り、人権意識もない。民族浄化を図っていて、ウイグル人の臓器を目的に人身売買までされているという。まったくもって醜い国だ。
 特に衛生事情においては、世界中の中でもかなり低いレベルだ。

<前WHO事務局長選でマーガレット・チャンに負けた尾身氏>
・中国人は何でも食べる。ラクダ、ダチョウ、孔雀、コアラ、ワニ、オオカミなどなど、日本人から見たらゲテモノだ。中国人はそのゲテモノ食いを自慢するところがあるから厄介だ。私も以前、中国へ行って、食事にサルの脳みそを出されたことがある。それも、サルを板に打ち付けたまま、頭だけ切って、脳みそを出していた。
 まるで、鯛の生き造りみたいなものだ。もちろん、死んではいるが、グロすぎて食べられたものではない。日本人は誰も食べられないだろう。
 そもそも、中国人には手を洗う習慣がない。食事の前はもちろん、トイレに行っても手を洗わない。新型コロナウイルスが蔓延して、マスクや手洗いをするようになったみたいだが、のど元過ぎればで、いつ、昔の習慣に戻るかわからない。

・なお、トランプ大統領は4月半ばにWHOは中国寄りだとして、資金提供を取りやめると発表した。実行されればWHOの資金が4分の1減ってしまう。

<武漢ウイルス研究所が発生源か>
・だから、きっと、中国は、武漢ウイルス研究所からウイルスが漏れた決定的証拠が出ても、シラをきり通すだろう。嘘でも本当と100回言いつづければ、本当になるように、本当でも嘘と100回言い続けて嘘にするのが中国だ。

・もっとも、武漢ウイルス研究所から流出した証拠がなくても、中国政府が初期段階において、世界に対し適切な情報公開をしなかったのは事実だ。その情報公開さえしておけば、世界へのパンデミックは回避できた。その点において、中国の重大な責任は免れない。

<イタリアに蔓延した新型コロナウイルス>
・新型コロナウイルスはインフルエンザと同じくRNAウイルスで変異しやすい。インフルエンザは毎年少しずつ変異したウイルスが登場している。
 RNA遺伝子はDNA遺伝子の遺伝子情報を次のDNA遺伝子に伝えるためのメッセンジャーで、自ら情報を伝えたら消えてなくなる。そのために、DNA遺伝子よりも変異がしやすいといわれる。

<一帯一路の悲劇>
・完全に中国からの入国を止めたわけではなかった。現在、イタリア国内には30万人の中国人が移住している。多くは服飾産業に従事しており、ロンバルディア州の一つ州が離れたトスカーナ州のポラトーは、ヨーロッパではパリに次いで中国からの移住者が多い。
 移住者の多くは低賃金で、大手のアパレル企業で働いている。

<中国のマスク外交>
・しかし、いったいどこが、今回の新型コロナウイルスを発生させたのだろうか。答えは一つである。中国だ。
 それが、武漢の華南海鮮市場なのか、それとも武漢ウイルス研究所なのかはわからない。私は武漢ウイルス研究所から漏れた説が高いと思うが、でも、どちらにしろ、中国が発生源であるのは間違いない。少なくとも、中国が初期段階で適切な開示を怠り、それが世界的なパンデミックにつながったのは事実で、その責任は免れない。
 マッチポンプ的な「マスク外交」に騙されてはいけない。しょせん、中国は自らの野心と野望のために手助けしているにすぎないのだから。

<日本とアメリカの経済対策>
・アメリカの主な経済対策を紹介しておこう。
 まず、中小企業融資に3500億ドルを供出する。日本円にして38兆5000億円になる。これだけで日本の補正予算を超えている。ちなみに、融資といっても雇用を維持した場合には、返済不要だから、実質給付と変わらない。
 他に失業保険に20兆円。そして、アメリカ国民に一人あたり大人13万円、子ども5万5000円の現金給付がある。
 そして追加で、中小企業が従業員の給与を支払い続けるための支援に33兆円、医療と検査の態勢整備に10兆円余りがあてられることになっている。

・新型コロナウイルスで大変じゃない業界は、通信やIT、ガスや電気などの一部の業界に過ぎない。他は全部、厳しい。
 だからこそ、消費税減税が正しい。恩恵は全業界に及ぶ。もちろん、観光業界や運輸、飲食店、イベントやエンターテインメント、スポーツ、商店街にはさらなる後押しになるのだ。

<消費税減税で盛り上がる消費マインド>
・繰り返しになるが、新型コロナウイルスが収まっていない間は、政府が経済対策をして、各中小企業の経営を支え、失業者には経済支援をし、生活を保障するのが大切だ。

<オリンピックで日本は復活する>
<ラグビーワールドカップの5倍の観客>
・オリンピックの細かい経済効果については、一覧表を第3章に載せたので見てもらえばわかるが、経済波及効果は32兆円に及ぶ。ラグビーワールドカップの4372億円とは桁が二つ違う。

<すべての前提は新型コロナウイルスを収束させること>
・しかし、すべて、いまの新型コロナウイルスの収束が前提になる。新規感染者の推移から計算した私の数理モデルでは5月下旬には、2桁の前半に落ちているはずだ。

・もし、再度感染が見えたら、全勢力を持って、感染の拡大を止めなくてはいけない。そのためには、100兆円の基金を政府が作り、休業補償も含めて、迅速かつ的確に対応しなければいけない。

<2020年7−9月期はプラスに>
・あくまで、新型コロナウイルスの感染が収まっていればということが前提だが、2020年7−9月期のGDPはプラスに転じるだろう。

<観光、運輸、エンターテインメント>
・観光は、インバウンドが戻らなければ厳しい。夏の予約はもう入ってなければならないが、このような状況は旅行を申し込める状態ではない。

<日本人の胃袋が突然小さくなるわけではない>
・飲食店側としたら、これを契機に、お店でも、テイクアウトでも、両方で利益が上がる構造ができれば、自粛の後には、より利益の上がるお店ができるのではないだろうか。

<テレワーク、在宅勤務、人と接触しないスタイルが定着>
・新型コロナウイルスの自粛で、一番大きな変化は、在宅勤務とテレワークではないだろうか。

<テレワークは経営者にとっても、従業員にとってもメリットが大きい>
・従業員にとって、自宅で仕事ができるのは、かなり楽だ。以前、職住接近という言葉があったが、自宅の書斎やリビングで仕事ができるのは、窮極の職住接近だ。

<テレワークのデメリットと変えるべき環境>
・一方、テレワークや在宅勤務の問題点も見えてきた。一つは、慣れの問題もあるが、在宅勤務はメリハリがつきにくい。

<テレワークに地方の需要あり>
・しかし、大きな流れとして、そのような動きが出てくるだろうが、現在、住宅の購入を考えていれば別だが、新しい住居をテレワークのために用意するのは、ハードルが高い。

<テレワークに需要あり、PC、椅子、事務用品>
・やはり、自宅のワークスペースをどう確保するかだ。まず大切なのは、通信環境。スマホの5Gが登場しているが、Wi−Fiはすでに5Gになっている。

<テレワークで求められる会社改革>
・テレワークは仕事のやり方を大きく変えるし、ハードの必要性も出てくる。テレワークになると、働いている時間より、成果がより求められるだろうし、会社も成果でしか、従業員の査定ができなくなる。

<テレワークで、今後も通信と情報サービス、そして宅配は強い>
・新型コロナウイルスで多くの消費が消えてしまったが、人と人との接触を避けるということで、特に外食産業や観光産業、エンターテインメントなどの需要が一気になくなってしまった。

<焦って中国が工場を再開>
・中国の工場は復活した。というより無理やり始めた。まだ、感染の危険性があるから、食事は体育館みたいなところで、前後左右1メートル空けて取っている。新型コロナウイルスで、かなり中国は焦っているようだ。

・もともと、中国は資本主義の国ではないため、経営的には非常にやりにくい場所だった。日本への送金もやりにくく、合弁企業を作っても支配権は持てないケースがほとんどだ。
 株を50%以上取れなくて子会社化できず、結局お金だけ出して、中国側が取っていってしまうことも、よく聞く。100%の子会社を自ら作ることができれば別だが、できないのが中国なのだ。
 さらに、中国で合弁会社を作ると、今度は、中国共産党の委員会を企業の中に作れと言ってくる。それが大変。そんなこと日本ではあり得ない。中国の場合、憲法の上に共産党がいて、超法規的にいろいろなことができてしまう。

<経済対策で復活する欧米>
・そして、これからヨーロッパの市場が再開するだろう。第二波の危険性もまだ残っているが、消費は元に戻っていくだろう。各国がかなりの経済対策をしているので、消費は喚起されるはずだ。

<コロナ後に向けて>
・6月に入れば、緊急事態宣言が解除され、日本も徐々に平常に戻っていくだろうと、私は予想している。本書の記述は5月12日のものだ。そして、もう少しかかるが、日本は必ず復活する。しかしその時、また同じ轍を踏んではならない。感染の第二波を起こしてはならない。
 同時に、中国に日本の地を荒らさせてはいけないのだ。インバウンドやサプライチェーンを中国に依存しすぎてはいけない。中国には15億の民がいるが、世界には他にも55億の民がいる。
 日本人はそのことをオリンピックで知ることになるだろう。



『ポストコロナの「日本改造計画」』
竹中平蔵  PHP  2020/7/30



<新型コロナウイルスのパンデミック>
<今後に向けた前向きの改革の大きなチャンスをもたらしている>
・歴史を振り返ると、このようなパンデミックは大きく二つの教訓をもたらしてきました。第一は、パンデミック後は従前とは大きく異なる社会が訪れること。第二は、混乱の中でその社会が持つ弱点が露呈される、という点です。
 今回の混乱で、二つの教訓から日本が考えるべき最大の課題は、世界が凄まじいデジタル資本主義の競争に向かうこと、そして日本が立ち遅れているデジタルシフトを急いで進めなければならない、ということです。

・本書の締めくくりとして、第6章ではまず「ポストコロナ構想会議」の必要性を主張しています。そして、この構想会議で取り上げられるべき重要な六つの政策項目を議論します。デジタル資本主義において重要性を増す無形資産の問題、デジタル時代のインフラとしてのマイナンバー制度の思い切った拡充、さらには究極のセイフティーネットとしてのベーシックインカム、などです。デジタル化は、効率的な社会を作る一方で、新たな格差社会を産む可能性を秘めています。

・ポストコロナの時代、日本は厳しいデジタル資本主義競争の強者を目指す必要があります。

<死者数、感染者数から見えてきたこと>
・しかし、特効薬となるワクチンや治療薬は開発中で、もっかの感染が一段落しても、やがて第二波、第三波が来るとも言われています。北半球では2020年の秋から2021年の冬にかけて、さらなる警戒が必要とされるでしょう。

・最初に申し上げておきたいと思いますが、私は政府と国会に対し、今の時点で「コロナ問題の検証」を是非してもらいたいと思います。

・以上、これらの数字から、当初いくつかの論点が浮かび上がってきました。一つ目は「これらの統計が、本当に正しいのか」というものです。

・二つ目の論点は、少なくともこの時点で、「日本のコロナ対策は素晴らしいかもしれない」というものです。

<懸念された医療崩壊の裏側>
・三つ目は、「日本は医療崩壊する可能性があった」というものでした。

・この医療崩壊について考えるとき、日本で忘れられがちな議論が、医師数の少なさという点です。
 人口1000人当たりの医師数は、OECDの平均が3.5人であるのに対し、日本は2.4人です。多い国ではノルウェーが4.7人、ドイツが4.3人で、日本はノルウェーやドイツの半分程度しかいません。2.4人という数字は、チリやメキシコと同じレベルです。

・2017年、国家戦略特区にある国際医療福祉大学の成田キャンパスで、医学部が新設されましたが、これは実質的に約40年ぶりのことでした。それぐらい日本では医学部を作らせず、医師数を抑えていたのです。

・もう一つ注目したいのが、日本では人口当たりの病床数が桁違いに多いことです。人口1000人当たり13.1床で、これはドイツの8.0床の約1.5倍、アメリカの2.8床の約5倍になります。
 一方、ICUは非常に少なく、人口10万人あたりの数がアメリカの35室。ドイツの29室に対し、日本は7室しかありません。医師数が少なく、ベッド数が多く、ICU数が少ない。つまり長く入院させて、治療代や差額ベッド代で稼ぐ。一方で、重症者のためのICUは十分に整っていない。そんな日本の歪んだ医療構造が見えてきます。

<イタリアと日本の死者数が大きく違う不思議>
<コロナ危機で露呈した日本の矛盾>
<7割の人は本来、在宅勤務が可能>
・俯瞰すれば、日本では医師数が少ないという問題点がクリアになりました。さらに、新型コロナ問題の解決において最も重要なことは死者数を減らすことにあります。にもかかわらず、日本の死者比率はアジアの中では高いということも明らかになりました。

・そしてもう一つ、今回のコロナ危機から見えてくるのが、非常時にはその組織が持っている矛盾が、すべて露呈されるということです。
「成長はすべての矛盾を覆い隠す」という、イギリスの名相チャーチルの言葉があります。経済が順調なときは、すべての矛盾が隠れてしまう。これは逆もまた然りで、パニックが起こるような非常事態のもとでは、その社会が抱える大きな矛盾が、すべて出てくるのです。
 わかりやすい例が、日本におけるデジタルシフトの遅れです。今回のパンデミックを機に、さまざまな国、さまざまな分野で、凄まじいデジタルシフトが加速することは間違いありません。残念ながら日本は、この流れに出遅れています。

・2018年には労働基準法が70年ぶりに改正されましたが、このとき導入された「高度プロフェッショナル制度」も、世論から猛反発を受けました。

<緊急事態宣言で反対した日本の世論>
・日本の国のかたちとして望ましいのは、「自由」と「統制」のスイッチングができる国にすることです。普段は徹底的に自由を認め、いざ非常事態となれば政府が厳しく統制する。今の日本はむしろ逆で、平時に多くの規制を敷き、有事、非常時になると統制ができない国になっています。

<日本が今後向き合うべき問題>
・本来、近代国家では、平時と有事のスイッチング機能があるのが当たり前です。実際、欧米のいくつかの国では、感染者の増大を受けて私権の制限と罰則を伴う、非常に強い経済統制を敷きました。
 理由は明白で、どの国でも戦争は「あってほしくないけれど、あり得る」という前提で、有事には平時とは違う社会体制を取る仕組みができているからです。

・また日本人の多くは国連に期待を抱いています。その時点で、国際感覚がずれています。

・日本やドイツ、イタリアはいつまで経っても敵国で、常任理事国になれないのです。世界平和のために国連の場で頑張ろうと考えても、現界がある。もちろんそのこと自体問題ですが、そういうパラダイムの中で、日本は生きているのです。
 それに対し、十分リアリスティックな議論がなされずにきた。それがここへ来て、いよいよ変容を求められているのです。

<ポストコロナ・四つの改革プラン>
<「国内回帰」で考えるべきこと>
・今回、新型コロナウイルスによるパンデミックを通して、グローバルに展開する経済が抱える、さまざまな問題が浮かび上がってきました。とくに、モノづくりにおける国際分業体制について、多くの人が、今後手を入れるべき課題と認識したのではないでしょうか。

・なぜなら、日本国内がつねに安全なわけではないからです。たとえば
大地震が起きれば、日本の製造業は完全にストップしてしまいます。
 2004年の新潟県中越地震では、新潟県小千谷市に集約させていた三洋電機の半導体の製造工場が大きな被害を受けました。この時、被った損害は500億円を超え、これが三洋電機の経営を大きく揺るがすことになったと言われます。

・新型コロナウイルスによるパンデミックが起きた時、香港やソウルにいた私の知人は、日本の自粛要請が緩やかなことを非常に心配していました。

<1920億円の協力金から見えてくる東京都の歪み>
・東京都が他の地域と比べ、桁違いに財源が豊かなことは、バランスシートからも明らかです。たとえば2018年度の東京都の総資産は約35兆円ですが、島根県は約1兆7000億円しかありません。
 収入も東京都の約8兆8000億円に対し、島根県は約3000億円です。しかもこのうち約2000億円が地方交付税です。両者を同じ「地方自治体」としてひとくくりにするのはもはや乱暴な話で、これまでの形を変える必要があるというのが、今回のパンデミックから明らかになったことです。
 この歪みを解消するため、私が以前から提案しているのが、東京だけ他の地方自治体と別扱いにするということです。

<東京はワシントンD.C.のような特別区に>
・東京都は別の意味からも、資産を売却すべきです。そうすれば資産市場が活性化し、東京は本当の意味での国際マーケットになれます。

・具体的には、東京を特別区にして日本政府直轄にする。

・そこで地方自治法とは切り離し、アメリカにおける「ワシントンD.C.」のような存在にしてしまう。アメリカの首都であるワシントンD.C.は、他の州とは異なる存在で、国が管轄する区域があることが、憲法1条に記されています。

<在宅勤務を続けるために必要なこと>
・必要なのは、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を明確にし、それに応じた成果を出させる仕組みです。

<官僚主導の復活か?>
・ここからわかるのは、この当時、政策の司令塔が非常に曖昧だったということです。本来なら政治のリーダーが司令塔になるべきところが、どうしても官僚ベースになり、司令塔としての政府が十分機能しなかったと考えられるのです。

<ポストコロナ構想会議」の六つのテーマ>
<「ポストコロナ構想会議」を作り、民間人と政治家で議論を>
・ポストコロナを見据えて、今後作るべきだと私が考えているのが、「ポストコロナ構想会議」です。今、日本に求められるのは、従来の縦割りという次元を超えた大胆な構想力です。それを担う存在として必要なのです。

・明治維新の時のように、どのような国作りをするのか、が重要です。ポストコロナの世界をイメージしながら、具体的な構想を持ち、それに向けて戦略と政策を作り上げ、実行していく必要があるのです。

<デジタル資本主義で求められる無形資産への投資>
・このポストコロナ構想会議で議論する内容は、大きく二つに分かれます。一つは以前から言われていた構造改革です。もう一つは、来るべき「ニューノーマル」を念頭に置いた構想です。

・このニューノーマルにおいて必要なことを、どこまで実現できるか。これが構想の重要なポイントになります。そのための一つ目のテーマは、無形資本への投資を強化することです。

<個人情報とビッグデータの扱いをどうするか>
・さて、ニューノーマルにおいて考える二つ目のテーマは、個人情報とそれに基づくビッグデータの扱いをどうするかです。

・これはアメリカ型でも中国型でもない、第三の道に基づく個人情報・ビッグデータの管理、活用の方法です。そのような仕組みを作ることができれば、日本の未来に対して、非常に大きな意味を持ちます。また、世界に対して新しいモデルを提供することにもなります。

<デジタル世界でのセキュリティに必要な生体認証>
・ここでもう一つ重要になるのが、生体認証です。今、日本では、個人認証は主に運転免許証や健康保険証を使って行いますが、これらはプラスチックに情報を印刷しただけのもので、偽造が容易です。とりわけ健康保険証については、それが言えます。最も間違いがないのが、指紋や虹彩、顔などで本人を確認する生体認証です。

・デジタルの世界では、セキュリティをしっかりとしたものとし、かつ個人の特定が確実にできるものでないと、大変な被害を受ける危険性があります。知らないうちに、誰かに個人情報が引き出されることにもなります。そのためにインフラをきちんと整える、という話なのです。

<米中対立の中、日本が国際協調をリードせよ>
・ニューノーマルから考える三つ目のテーマは、自国中心主義や反国際協調の流れと、どのように対峙するかです。今回のパンデミックによって国と国の出入りが遮断され、自国中心主義が激しさを増しています。

・国際機関などによるパテントの買い取りを実現させるべきでしょう。たとえばWHOが新薬のパテントを2兆円で買い取る。これをWHOは無料で世界に開放し、世界中で作れるようにする。これが今後、国際協調の非常に重要な一つのパターンになるはずです。

<アジア諸国との連携政策>
・そのための一つとして考えられるのが、アジア諸国との連携です。今回のコロナ禍で特筆すべきことの一つは、アジアの国々の死亡率が欧米と比べ、著しく低かったことです。

・近年、世界経済を引っ張ってきたのはアジアです。アジア経済の復活は、今後の長期不況が予測される世界にあって、好ましい材料になることは間違いありません。こうした呼びかけを日本が主導して行うのです。
 すでに述べたように、戦後の世界は勝者が作ります。相互連携によりアジア経済がいち早く復活すれば、ニューノーマルの時代において、日本をはじめアジアの国々が発言力を持つうえで、非常に大きな助けになります。
 1918年から20年にかけて猛威を振るったスペイン風邪は、結果的にアメリカが世界一の経済大国になることを後押ししました。
 当時世界で1億人の死者を出したと目される中、アメリカの死者数は50万人程度と言われています。

<新しい格差社会で必要なのがベーシックインカム>
・ニューノーマルから考える四つ目のテーマは、今後生まれるかもしれない新しいタイプの格差社会に、いかに対応するかです。
 先に述べたように、第四次産業革命が進行し、デジタル資本主義が加速度を増すと、今ある職業の半分ぐらいがなくなるリスクが生じます。

・学習も、デジタル環境が整っている人とそうでない人では、大きな差が出てきます。オンラインを上手に活用する人はそうでない人に比べて、さまざまな知識を効果的に得ることができるのです。家庭環境によって、さらに格差が広がる可能性があるのです。

・このように、あらゆるところで大きな格差が生じてくるのが、デジタル資本主義の社会と考えられます。そこで必要になってくるのが、ベーシックインカム(BI)の制度です。誰もが最低限の生活を送れるよう、毎月一定額を必要な人に支給するのです。

・ベーシックインカムは、「負の所得税」とほぼ同じ考えです。収入がある一定額を超えると税金を払ってもらい、そうでない人には現金給与する。ベーシックインカムは究極のセーフティーネットであり、まさに税と社会保障の一体改革そのものなのです。

<「非正規だからクビを切られる」という議論のおかしさ>
・一方で労働基準法を中心とした労働の法的枠組みを見直す必要があります。たとえばパンデミックによって経済が落ち込む中、非正規労働者がクビを切られるという状況が生じていますが、本来はおかしな話です。2020年4月1日から大企業には「同一労働・同一賃金」が適用されているはずです。2021年4月1日からは、中小企業にも適用されます。
 非正規だからクビを切られるというのは、これが守られていないことに他なりません。みんな「クビを切られてかわいそう」という話はしますが、法律違反ではないかという議論も、きちんと行う必要があります。

・2006年に発足した第一次安倍内閣が、ホワイトカラーエグゼンプション(脱時間給)の導入を唱えた時、リベラル系のマスコミは完全否定しました。「工場の労働者は時間で測れるけれど、ホワイトカラーの仕事は時間で測れない。長く働いたから成果を出せるわけではない」と、アナリストらが述べた正論にも聞く耳を持たず、寄ってたかって潰してしまいました。

・とはいえ、生産性の低かった人の生産性を急に上げようとしても、現実的には難しいことも確かです。そこで出てくるのがベーシックインカムです。生産性の低い人の給料は下がらざるを得ないかもしれません。その分をある程度、ベーシックインカムで保証するのです。
 そこでさらに考えるべきは、リカレント教育です。リカレント教育とは、社会人になったのちも就労に生かすために学び直すことです。それを経て、再び就労するというサイクルを繰り返すことで、あくまでも本人しだいですが、頑張れば、より高い給料をもらえるようになることができます。

・今後はさらに、デジタル技術を使えば、会社に勤めながらのリカレント教育もやりやすくなります。これまであまり進みませんでしたが、大変革が起こりだした今こそ目を向けるときです。

<ワーケーションで地方自治体を豊かにする>
・ニューノーマルから考える五つ目のテーマは、働き方が変わることで、都市と地方の関係も変化するという問題です。緊急事態宣言を受けて、軽井沢や沖縄など東京を離れて仕事をする人が増えました。これは都市と地方の考え方を大きく変えることになります。

・「田園都市」という発想は、都市はリスクが高いから自然の豊かな土地に住みたいという発想から生まれました。

・ワーケーションの拠点を誘致できる地方自治体は、豊かになります。

・このようにして、東京から人が動くようになれば、東京一極集中も緩和され、東京で暮らす人たちも暮らしやすくなります。同時にこれは、テールリスクへの備えでもあります。東京で大震災が起こる可能性はあるわけで、今回のようなパンデミックが再び起こる可能性もあります。
 そのときに備えた体制も必要で、多くの地方に人が分散して住んでいることは、一つのリスクヘッジにもなるのです。

<全国の小中学生にiPadを配付する>
・ニューノーマルから考える六つ目のテーマは教育です。教育で必要なのは平等です。それには「結果の平等」もあれば、「機会の平等」もありますが、とくに大事なのは、機会の平等です。

・デジタル教育における「機会の平等」は、それほど高くつく話ではありません。たとえば全国にいる約1000万人の小・中学生にiPadを配ったところで、1兆円以内で済みます。

・今後は、デジタルリテラシーの高い人材を、旧来の教員免許の枠にとらわれず、積極的に採用する。

・過去を振り返ると、教育改革を前面に掲げた内閣は中曽根内閣以降ありませんでした。パンデミックの今こそ、遠隔教育の実現、教員の資格制度見直しなど、長年進まなかった改革を進める大きなチャンスです。

<「バルコニー」からの視点で構想会議を>
・デジタルシフトに向けて、中国やシンガポールは国家が中心に動いてきました。日本の場合、企業レベルでいろいろな取り組みを進めていますが、構想という意味ではやはり国家レベルで取り組むことが重要です。

・その意味で日本は、徹底した超現場主義の国と言えます。現場主義自体は否定しませんが、問題は現場から何を抽出するかです。

・よく「鳥の目」「虫の目」と言いますが、鳥の目で全体を俯瞰して眺めつつ、現場を虫の目で見る。両方が必要なのに、日本では鳥の目が希薄になっています。

<パンデミックの検証>
<今回の危機が、日本の飛躍の機会となることを念じて>
・この本では、まず冒頭で「コロナ検証委員会」の設置を訴えました。そして後半では、「ポストコロナ構想会議」の設置を提唱し、そこでの議論の方向性を私なりに示しました。

・「ニューノーマル時代のITの活用に関する懇談会」の報告書では、世界の凄まじいデジタルトランスフォーメーションの中で、日本が「世界に取り残されない」よう、そして世界をリードするような大胆な改革が必要なこと

・この流れに「誰もが取り残されない」よう、「デジタルミニマム」を設定すべきこと

・行政のデジタルデータが活用できるような、政府主導の改革が必要なこと



『平成の教訓』       改革と愚策の30年
竹中平蔵    PHP      2019/2/16



<「平成とは『まだらな30年』だった。>
・それは、数々の改革と愚策がまだら模様を繰り返した時代だった、と。

・平成の30年を動かしたダイナミズムとは何だったのか。平成を検証することは、次の時代への正しい道標へとつながるだろう。

<平成の教訓を汲み取り、未来へつなげるために>
・そのためにも、冷静に平成という時代を振り返るべきであろう。この瞬間には何となく認識していることであっても、やがて違った記憶に変わっていってしまう恐れもある。

<平成に横行した「10の愚策」を検証する>
・たとえば、平成という時代を、「失われた30年」という一言で総括してしまってよいだろうか。
 昭和の戦前を例に挙げれば、ただただ「暗黒の時代」とだけ見るのも間違いであろう。庶民の目線で見ると、本当に暗黒になったのは、戦況が厳しくなってからのことで、昭和12年くらいまでは、世間でも明るい歌謡曲がどんどん歌われていた。

<平成に横行した「10の愚策」を検証する――どんな愚策が、成長を鈍らせ、改革を阻んだのか>
<第1の愚策は、90年代に連発した「総合経済対策」>
<第2の愚策は、住専に対する公的資金の注入>
<第3の愚策は、日本銀行の金融政策――不況の最大責任者>
<「日銀は世界最強の中央銀行だ」という皮肉>
・ある日銀関係者が「どの程度の物価上昇が望ましいかは、私たちが決める」といったときは、私は徹底的に批判した。
「政策目標を自分だけで決めることができるなら、日銀は世界最強の中央銀行だ。世界最強の力を手にしながら、日銀は無責任なことをやっている」と私はいった。
 政府に相談もせず目標を決めることができる(しかもそれを公表しない)中央銀行は、どの国にもない。だから世界最強である。そして、目標を示せば、それを実現できないときに責任が生じる。
 では日銀は、95年に物価上昇率がマイナスになったとき、責任を取っただろうか。もちろん誰も責任を取らなかった。

<メディアの論調が日銀に同情的だった本当の理由>
・日本の大手メディアでは、のらりくらり無責任な言い逃れを続ける日銀を問題視する論評は、いっこうに見かけなかった。どのメディアも日銀にきわめて同情的で、政府があれこれ注文をつけることは、日銀の独立性を損なうからよくない、という報道を繰り返していた。
 メディアがそんな姿勢に終始した理由は、推測するしかないが、一つには、記者が日銀記者クラブで徹底的な“教育”を受けるからだろう。

・もう一つは、すでに述べたように、メディアが何事も「強者対弱者」の構図で報じるからだろう。政府与党には、腕力自慢の政治家や、しばしば暴言を吐く政治家が大勢いる。日銀は、学者肌のおとなしいエリート集団に見える。

<重要な情報は、日銀からリークされた>
・日銀と付き合って強く印象に残っていることの一つは、日銀が「おしゃべり」だということである。重要な情報は、日銀から漏れて報道されてしまうことがしばしばあった。

・政治家や官僚に比べて日銀からのリークが多いと感じるが、それは大きな説明責任がないからだ。情報が広がってから、国会や自民党の部会に呼ばれて説明するのは私たち内閣の側だから、どうしても慎重になり、重大局面が近づくほど口をつぐむようになる。彼らは、そんな責任はないから外部にしゃべりやすい。この意味では、いかにも評論家然とした集団である。

<デフレ対策より、とにかく「非伝統的金融政策」をやりたくない一心>
<バブル経済と長期不況の検証作業を実現させよ>
・日本経済の長期低迷について、そんな検証作業をしようという問題提起は、与党からも野党からもあったとは聞かない。日本は「検証」という概念が、きわめて乏しい国なのである。

・その結果、日銀は、物価が下がりはじめた95年から、財務省出身でアジア開発銀行総裁だった黒田氏が総裁に就任する13年まで、じつに18年間も物価下落を放置してしまった。これは「平成の愚策」といわざるを得ないだろう。

・とりわけ、アベノミクスで日銀に「物価上昇率2%」というインフレターゲットが与えられたことの意味は大きい。インフレ目標が立てられたことで、初めて日銀に責任問題が生じたからである。

<第4の愚策は、中小企業を直撃した貸金業法の改正>
・平成の第4の愚策は、福田康夫内閣の07年12月に施行された「貸金業法の改正」による貸付制度の変更である。
 それまでは、「利息制限法」が貸出金利の上限金利を20%(正確にいえば10万円未満が20%、100万円未満が18%、100万円以上が15%)、「出資法」が上限金利を29.2%と定めており、その間の金利がいわゆる「グレーゾーン金利」とされていた。
 いわゆるサラ金(消費者金融)はじめ町の金融業者(街金)の多くは、このグレーゾーン金利で貸し付けていた。しかし、上限金利を低いほうの利息制限法の上限に合わせた。理由は消費者保護で、多重債務者がかわいそうというわけだ。しかし、この結果、いわゆるヤミ金が増えてしまった。

・しかし、世の中には、月末までに300万円がどうしても必要だというニーズはある。中小零細企業が運転資金に困って、来月には大きな入金があるから、そのときまで借りたいといったケースだ。ところが銀行は、社長の自宅をもう担保に差し入れてあるから貸さない。
 ならば年利25%でもよいから借りたい、という人がいる。2か月で返せば金利4%だから、300万円借りて312万円返すことになるが、それでよいという人は世の中にいるのである。 
しかし、グレーゾーン金利はダメということになった。ならばヤミ金に借りにいくのは当然だろう。

・ふつうの人は年利20%と聞けば高いと思う。しかし、それは5000万円の住宅ローンを20%の金利で借りれば高いという話であって、1週間や1か月という短期ならば年利20%でも問題はない。それを、きわめて情緒的な「多重債務者がかわいそう」という理由によって、一律禁止した。しかも、その金利制限が、さかのぼって遡及されるというルールになった。

・その結果、過払い請求が増え、貸金業はほとんど廃業となり、サラ金の多くは銀行に吸収され、銀行の個人ローン・カードローン部門となった。中小零細企業の倒産を招いた「官製不況」の原因となった、と見る向きも少なくない。

<第5の愚策は、民主党による経済財政諮問会議の廃止>
・平成時代に目立った愚策は、民主党政権によるものがいくつかある。
 平成の第5の愚策は、民主党政権が経済財政諮問会議を事実上、廃止してしまったことである。
 私以外にあまり指摘する人がいないが、内閣設置法には、経済財政諮問会議を必ず置かなければいけないと書いてある。それを廃止したのは実質的に法律違反であって、政府が堂々と法律違反をやっていいのかという話なのだ。
 民主党で経済改革に前向きな何人かの政治家は当初、首相の知恵の場として調査・審議をする経済財政諮問会議は、決定権がないから弱い。もっと強く、さまざまな問題を決定していく場が必要で、それが「国家戦略局」だ――と主張した。

・11年10月には野田佳彦内閣が、既存の18の会議を統廃合する「国家戦略会議」を設置したが、法的根拠もなく、「日本再生の基本戦略」「日本再生戦略」をまとめただけで終わった。小泉内閣では明らかに機能していた、目の前にある経済財政諮問会議を使おうとはせず、もっとよい国家戦略局を無理やりつくろうとして果たせず、結局、元も子もなくしてしまったのが民主党政権であった。

<第6の愚策は、民主党の「子ども手当」>
・民主党は、15歳以下の子どもがいる世帯に毎月手当を支給することをマニフェストに掲げていた。09年9月に誕生した鳩山由紀夫内閣では、翌10年4月から、それまでの「児童手当」に代えて支給を始めた。
 児童手当は12歳(小学生)以下の子どもが対象で、所得制限がついていたのに対して、子ども手当は15歳(中学生)以下の子どもに対象を拡大し、所得制限もはずした。
 10年度と11年度前半は一律1万3000円が、11年度後半は年齢や第何子かによって1万〜1万5000円が、毎月支給された。

・しかも、子ども手当には初年度で2.3兆円、翌年度以降に4.5兆円が必要とされ、財源不足の問題が大きな壁となった。民主党は、霞が関の埋蔵金を掘り起こせば、10兆円やそこらの資金は簡単に捻出できるといっていたが、実際は違っていた。

・さらに、11年3・11東日本大震災が起こり、その復興財源の確保が優先されたため、子ども手当の支給は頓挫。12年4月以降は、旧来の児童手当に移行することになった。
 子ども手当の財源不足が典型的であるが、経済財政諮問会議を廃止した民主党政権は、よりどころとなる政策のポリシーボード(政策決定の場)をなくし、マクロ政策の指針をまったく失ってしまった。だから、全体としてちぐはぐな経済政策を打ち出すことになってしまう。

・その結果、東日本大震災以降には、企業経営者らが日本の諸制度やビジネス環境は各国と比べて非常に不利な状態にあるとして、「企業の六重苦」ということを指摘するようになった。?円高、?高い法人税、?経済連携協定の遅れ、?製造業への派遣禁止など労働規制、?温暖化規制の強化、?電力不足や電気料金値上げ、の六つである。
 放置された円高をはじめとする六重苦のなかで、日本を脱出する企業が急増し、民主党政権下で国内の空洞化が一気に進んでしまった。

<ポリシー・トゥ・ヘルプ(救済)かポリシー・トゥ・ソルブ(解決)か>
・じつは、政府は圧倒的にポリシー・トゥ・ヘルプをおこなう傾向がある。それが選挙の得票に直結するからである。その結果、弱い企業がゾンビのように生き残ってしまう。企業の自助努力以外に生き残る道はないという厳しい環境が、日本では実現されなかった。

<第7の愚策は、JAL救済に象徴されるゾンビ企業の延命>
・日本では、ポリシー・トゥ・ヘルプが一企業に対して適用される例が少なくない。代表的なものがJAL(日本航空)の救済である。
 平成の第7の愚策は、JAL救済に代表される“ゾンビ企業の延命”である。

<第8、9の愚策は、東日本大震災後の復興構想と増税>
・平成の第8の愚策として、東日本大震災のあとの復興計画で、関東大震災のとき後藤新平が描いたような大風呂敷を描けなかったことを挙げておきたい。

・当初は、政府がカネをすべて丸抱えでつけ、復興庁を被災地に置き、地元にプランをまかせるという話もあったようだが、現実は違った。農林水産省は農水省の予算を温存して農道整備をする、国土交通省は国交省の予算を温存して必要なインフラを整備するというように、すべてが縦割りになった。だから大規模で魅力的な構想が出てこず、何も進まなかった。

・類似の事例にはこと欠かないが、平成の第9の愚策として、東北支援を名目とした大震災後の増税を挙げておく。復興増税の構想は、復興構想会議の第1回で示された。こんなことをやる国は、世界にはないだろう。米ニューヨークで01年9・11テロが起こったとき、ジュリアーニ市長は「みんなでおカネを使おう。経済を元気にしよう」といった。これが世界のやり方なのだ。
 日本ではイベントや祭りを軒並み自粛して、祈りを捧げた。祈りを捧げることも大切だが、もっと重要なのは、みんながカネを使い、東北のものをたくさん購入することだったはずである。増税は、明らかにそれに逆行するものだった。

<第10の愚策は、キャップ制の放棄による歯止めなき歳出拡大>
・平成の第10の愚策として、政府歳出のキャップ制が放棄され、予算の歯止めなき拡大が常態化したことを強調しておく。
 このことは、自民党・民主党政権の別とは関係がない。01年から07年あたりまで、政府一般会計の歳出規模は、82〜83兆円前後から増えていない。
 ところが、麻生政権から増え始め(当初88兆円、補正後102兆円)、民主党政権で90兆円以上が常態化してしまった。第二次安倍政権も同様で、19年度の当初予算は101兆円と過去最高となった。
 まず、麻生政権のとき、キャップがはずされた。すでに述べたように、リーマンショックに対応する必要からやむをえなかったが、一時的なものとして、ショックの傷が癒えたときに元に戻すべきだったのである。しかし、その後は元に戻していない。

・歳出にキャップをはめて、少しずつでも経済をよくする政策をとれば、成長率1.5%で別にかまわない。実質成長率が1.5%で物価上昇率が1.5%ならば、名目GDPは3%成長である。
 景気回復期において、税収の所得弾性値(GDPが1%成長したとき、税収は何%増加するか)は、2〜3になる場合がある。3であれば税収が9%増えると考えてよい。小泉内閣で基礎的財政赤字がゼロに近づいたのは、こうした効果が生じたからだ。

・彼らは「大きな政府」志向で、基本的に「小さな政府」を好まない。だからこそ、支出にキャップをはめることは後ろ向きである。
 平成の後期3分の1で、歳出のキャップ制をやめたことは大きな愚策だった。

<最初の2年半は大成功だった黒田日銀「異次元の金融緩和」>
・前章では日銀の愚策に紙幅を割いたが、13年の春に第二次安倍政権のもとで始まった、黒田東彦総裁率いる日銀の政策を、私は高く評価している。
「異次元の金融緩和」として、物価目標2%を掲げ、マネタリベースを2年で倍にするという、きわめて明快で強いメッセージは、クロダミクスとも黒田バズーカとも呼ばれた。その出だし――少なくとも最初の2年半は、成功だったと思う。

・以来2%の物価目標は、なかなか達成できそうな気配がない。物価上昇率がしだいに1%に近づき、その1%が1.5%になり、やがて2%をうかがうという道筋が、見えてこないのだ。日銀は目標を取り下げてはいないものの、達成の見込み時期をどんどん遅らせている。

・「逃げ水」は蜃気楼の一種で、遠くに水があるように見え、近づくとまたその先に遠のいて見える現象である。これと同じで、常に物価目標2%は1〜2年先に見える、と日銀はいい続けている。「オオカミが来る」といい続けた少年と同じというべきか。中央銀行による物価の見通しがこんな状態で5年間も続くなかで、しだいに日銀に対する批判も高まってきた。
 インフレ目標については、黒田・日銀総裁は、自らでは避けようのない不運に見舞われてしまったといえる。というのは、そもそもインフレ目標は、短期決戦型の政策なのだ。

<安倍政権は長期政権のレガシーをどう作る?>
・安倍内閣が発足して以降の日本は、第1章で述べたように「もっとも失われた5年」から「再挑戦の7年」に移行し、経済は明らかによくなった。とりわけその成果は、株価上昇や失業率の低下に現れている。これらの点は、高く評価される。また安倍首相は、G7のトップのなかでもいまやドイツのメルケル首相の次に長く政権を維持しており、国際的な信頼も厚い。しかし平成の末期において、次のような二つの問題を克服する必要に直面していよう。
 第1は、政策の実施がともすれば安倍首相・菅官房長官によるリーダーシップだけに依存しており、経済財政諮問会議や規制改革会議に象徴される組織全体による改革になっていないことだ。もちろんこの点は、首相官邸のリーダーシップが強いという利点ともいえる。しかし、いわば改革が「点」にとどまり「面」に広がらないことを意味している。

・第2は、いわゆる「一強体制」の弊害で政策のチェック機能が弱まり、尖った政策を避けて安易な政策に流れる雰囲気が、霞が関の官僚を中心に広がってきたことだ。政治の一強体制は、それ自体決して悪いわけではない。政治が安定し長期政権になるなかで、外交面では大きなプラスの成果が出ている。ポピュリズムの台頭で政治が不安定化している欧米から見ると、日本の現状はむしろ評価されている。
 問題は、一強体制がもたらすチェック機能の低下だ。

<増税から財政再建を始める国は、必ず失敗する>
・財政再建は、リーマンショック時以降の歳出拡大のなかで、依然として大きな問題である。GDPの伸び率より債務の伸び率のほうが高く、グラフに描くといわゆる「ワニの口」となる現状は、持続可能(サステーナブル)ではない。
 ただし、財政再建をするためにデフレ政策、つまり経済を悪くする政策をとってはいけない。

・経済学者でハーバード大学教授のアルバート・アレシナは、戦後に各国で行われた財政再建を実証的に研究し、興味深い指摘をしている。財政再建に成功または失敗したケースを比較検討した結果、まず増税政策から財政再建に着手した国は必ず失敗している、というのだ。

<日本が北欧諸国を真似るのは非現実的>
・日本が、神奈川県や兵庫県ほどの人口しかない北欧諸国のように、「非常に大きな政府」を目指すことはほとんど不可能に思われる。
 日本は一部西欧諸国のような「大きな政府」を目指すのか。それとも、増税は一時的な措置にとどめて、やはりアメリカのようにできるだけ「小さな政府」を目指すのか。もちろん、政府の役割は財政の規模だけで測ることはできない。

<平成から読み取れる教訓とは>
・平成の第1の教訓は、あまりにも当たり前のことだが、「経済の健全な発展には基本的に『市場の果たす役割』がきわめて重要だ」ということである。

・もちろん雇う側と雇われる側では雇う側のほうが強いから、一定の配慮は必要だ。しかしこの国は社会主義国なのか、と思われるような行き過ぎた規制は、改める必要がある。社会人が就労のため学び直し、就労してはまた学び直すサイクルを繰り返す、いわゆる「リカレント教育」を充実させる必要がある。

・平成の第2の教訓は、産業の種まきをして育てる、不要な規制を緩和する、市場を健全に発展させる、といったプロセスで「政府の果たす役割」はきわめて重要だ、という点である。

・2018年に私はイスラエルを訪問したのだが、イスラエル国防軍には8200部隊と呼ばれるサイバー部隊がある。規模以外の実力は米国家安全保障局(NSA)に匹敵するとされ、イランの原子力施設にコンピュータウィルスを送り込んで破壊したともいわれている。
 徴兵制を敷くイスラエルでは、採用した兵士のうち成績のよい上位1%を8200部隊に配属するという。ここで技術を磨いて兵役を終えた者が、同国でも、米シリコンバレーでも、あるいは電子立国エストニアでも、続々とIT企業を起業する。その会社を、GAFAや日本のソフトバンクグループや楽天が買収するという事態が、世界でどんどん進んでいる。

<「コンセッション」や「PFI」の時代>
・「コンセッション」は、ある範囲を決めて事業者に独占的な営業権を与えておこなう事業方式をいう。

・第4次産業革命のもとで、じつは政府の役割は従来以上に高まっている。イスラエルや中国の事例は、象徴的だ。だからこそ政府は、本来の重要な役割を果たすために、いままでの仕事の一部を民間にゆだねる必要がある。

<政策とは、ことごとく「手順」である>
・平成の第3の教訓は、どの政策をどんなタイミングで打ち出すか、それはどのくらい効果があったのかなどを、優れた専門家が徹底的に検討し、検証する必要がある、ということである。
 すでに平成の愚策と指摘したが、90年代に連発された「総合経済対策」や、失敗の連続だった日銀の金融政策は、いま振り返れば、なぜこんなことがチェックできなかったのか、と不思議に思うほどの間違いだった。

・問題の一つは、役所に真の専門家がいないことである。日銀の専門性については触れたが、金融庁の幹部にも金融マーケットで取引した経験のある人はいない。官僚や日銀マンをエリート視する傾向は依然として強いが、同じ組織に長年いるだけでは、真の専門家は生まれない。

<バトルを恐れない強いリーダーよ、いでよ>
・平成の第4の教訓は、やはり強い「政治リーダー」が必要だ、ということである。改革はバトルだ、という話を思い出してほしい。

・ところが、政策を実現することは容易ではない。議会とうまく折り合って、もう1期やりたいなどと思えば、ほとんど何も実行できない。「これが実現できないのであれば、首長を辞める」というくらいの決意を持って、議会と喧嘩できるかどうか。バトルを恐れないリーダーでなければ、構造改革などできない。

<「明るい縮小戦略」が必要だ>
・平成の第5の教訓は、失われたものを冷徹な目で確認し、あるものは失われることを受け入れて喪失ダメージを小さくする方法を考え、あるものはいくらか取り戻す方法を考えるというように、「縮小戦略」や「切り捨て戦略」が必要になることだ。

・AIの進展で、いまの仕事の半分くらいは要らなくなるという説がある。これは暗い。しかし、日本は大きく人口を減らすわけである。ならば、仕事の多くをAIやロボットに置き換えていけばよい。むしろ人口減少社会は、AIを発展させる大チャンスを用意する社会なのだ。こう考えれば明るい。

<ハイパー特区「スーパーシティ」が未来の起爆剤となる>
<2050年に向けたキーワードは「非連続の変化」>
・現在の日本で働く人の数は6千数百万人で、うち約4400万人が第3次産業に従事している。一方、いまからおよそ30年たった2050年には、人口減少によって生産年齢人口が2700万人ほど減っている、と予測されている。
 ということは、いま第3次産業で働く人の約半分がいなくなるイメージである。
 電気・ガス・水道・運輸・通信・小売・卸売・飲食・金融・保険・不動産・サービス・公務といういずれの産業でも、働く人が半分になる場面を想像してほしい。商店街で働く人は半分、役所でも半分、テレビ局員や新聞記者も半分になる。これは非常に大きな変化である。

<「人口集約」という国土政策の大転換が起きる>
・10年後は毎年100万人の単位で人口が減る見込みで、毎年、和歌山県の人口が一つずつ日本から消えていくのである。

・ある人が計算したところ、日本の休耕田をすべて合わせると鳥取県の面積分があるという。その面積に太陽光発電システムを敷き詰めれば、日本の電力の50%を供給できるそうだ。話半分としても、そのような方向にエネルギーのシステムを転換させていかなければならない。これも「非連続」である。

<激動の昭和、激変の平成>
・本書でもっとも強調したかったのは、平成の30年間の日本経済には、よい面と悪い面が見事なほどに共存していた、という点だ。決して失われた30年ではなく、まだらな30年であったこと、政策面では改革と愚策が共存していたこと。この二点を冷静に認識する必要がある。



『最強の生産性革命』
時代遅れのルールにしばられない38の教訓
竹中平蔵 × ムギーキム   PHP研究所  2018/1/2



<「竹中先生は弱者切り捨ての自由競争主義で、もう旧い」と思っている人も多いです。>
<時代遅れの規制・既得権益の構造が、一挙に明らかに>
(キム)世間的に、先生はどうしても「弱者に厳しい」みたいなとんでもないイメージで語られることがありますから、これからは「負の所得税の竹中です」でいいんじゃないですか。名刺にもそう書いたほうがいいですよ。
(竹中)言っとくけど、私は弱者もがんばれる社会を目指しているからね。

・(キム)そして同時に、「新自由主義」「市場経済原理主義」「弱者切り」などとメディアで批判されがちな竹中平蔵氏に、「先生のお考では、もう時代遅れではないのか」「貧富の格差が拡大するのではないのか」「弱者にがんばれ、というだけで競争に放り込んでいいのか」という、多くの読者の方がお持ちの疑問を、面と向かってぶつけるのも私の役割だと考えた。

<ベーシックインカムで、低所得者に「負の所得税」を>
(竹中)それがベーシックインカムですね。要するに、一定以上の所得がある人は、その分について何割かの所得税を払ってくださいと。でも所得が一定額より少ない人に関しては、所得税を給付する。つまり『負の所得税』を課して、日本人として最低限の所得を政府が保障するということです。
 どんな改革をするにせよ、人は得るものより失うものを怖がる傾向があります。それに対してベーシックインカムというのは、究極のセーフティーネットなんですよ。

<生活保護とベーシックインカムの違いは「働くインセンティブ」の有無>
・しかしベーシックインカムの場合は、働かなくても給付されますが、働くほど豊かになれるんです。だから働く意欲を削がない。

<歳入庁の設立に、財務省と厚労省が猛抵抗する理由――「税と警察」こそ国家権力>
<非効率な公的機関のM&A(合併・吸収)>
(竹中)ベーシックインカムをやるとして、問題は財源をどうするか。これは国税庁と日本年金機構を合併して歳入庁で作ればいい。今の年金機構は保険料取りっぱぐれていますが、国税庁が入れば全部取れて数兆円が入ってくる。それでできますよ。

・最大の抵抗勢力は、税務署を管轄する財務省と、日本年金機構を抱える厚生労働省でしょう。歳入庁を作るとなると、いずれも切り離されて内閣府の下に置かれることになる。特に財務省は猛烈に反対するはずです。

<ネット選挙の解禁で選挙の生産性が上がる>
・だから、それぞれの候補者が過去にどんな政策を推進し、何を訴えているのかが一元的に見られるようなシステムがあればいいですよね。この程度なら、ネットで簡単にできると思います。その場で投票までできれば、さらにいい。これがネット投票のインフラというものでしょう。

・さらに、そこで選挙資金集めもできるといいですね。すべての政治資金はネットを経由することというルールにしたら、もうごまかすこともできなくなります。

<フランスも規制であふれている>
<日本もフランスも実質的には社会主義国家?>
<ドイツと日本は「遅れてきた近代化の国」>
(竹中)フランスの最大の問題は、実質的に社会主義国ということでしょう・
(キム)主な問題が三つあります。
一つは税金がすごく高いこと。そしてもう一つは、手続きにものすごく時間がかかることです。

・そして極めつきは、解雇条件の厳しさ。労働者の権利が強すぎて、解雇できないのでフランス人を雇いたくない、という企業がとても多いんです。

・フランスは、夢の国でも労働者のストライキが起こるくらい社会主義的な国なんです。

(竹中)フランスは日本と同じく規制だらけの国で、政府の規模がすごく大きいですからね。

<超高齢化する日本で、持続可能な社会保障の形>
<富裕層への年金支給は不要>
<日本は年金は手厚いが、若者への支援が圧倒的に足りない>
(竹中)日本の歪みは、数字で見ると明らかです。年金の規模の対GDP比を見ると、日本はイギリスよりも多い。医療もOECDの平均よりもはるかに上回っている。ところが、若い世代の社会保障、子育て支援なども含めた家族政策に向ける予算は、対GDP比でイギリスの4分の1しかないんです。

・今、例えば産休を取れるのは、基本的に会社の支援があるからです。自営業の人なんかは産休がない。しかし、本来はどのような働き方をしている人でも、ちゃんと社会で面倒を見るべきですよね。
 子どもを産み、育てる機会を増やして、その間はしっかり社会保障をしますよと。そういうことをやるために税金を上げるのなら、私は大賛成しますよ。
 ところが今は、高齢者に一律で年金が支給される制度になっている。私や財界のトップに年金が出ているくらいですから。

<年金支給開始年齢の引き上げは必須――1960年代の平均寿命を基準にするのは時代錯誤>
・(キム)では具体的に、年金制度をどう改めますか?まず、富裕層の高齢者に払う必要はないだろうと。次に支給開始年齢の引き上げ、そして給付金額の引き下げも当たり前じゃないかという気がします。この三本柱くらいになるわけでしょうか。
(竹中)それがマストですよね。国民皆年金制度が始まったのは、1960年なんです。その当時の日本人の平均寿命は66歳くらい。しかし、2016年の日本人女性の平均寿命は約87歳。その年齢まで生きるとすると、22年間も受給し続けることになる。
 こんな長期にわたって年金をもらえる国なんてないですよ。

・(キム)それにしても、先生が「ネガティブ(負の)所得税」と「若者の社会保障」をキャッチフレーズにしたら「カネ無き若者の味方・竹中平蔵」ブームが起きるんじゃないですか。世間からはずいぶんネガティブなイメージを植え付けられているようなので(笑)。

(竹中)小泉さんが言ってたんだけど、「竹中さん、悪名は無名に勝るんだよ」と。たしかにそのとおり、私は別に、世の中から誉められたいとか、いい人だと思われたいという目的で仕事をしていたわけじゃないですから。

<健康寿命を伸ばすための最強の習慣>
<野菜と1日1時間の散歩。シンプルだが名医が実践>
・(キム)高齢化といえば、健康に対するニーズがものすごく高いですよね。多くの人はただ長生きするだけではなく、できるだけ生産的で活動的な日々を送りたいはずです。社会全体の医療費を抑える意味でも、これはすごく重要なことだと思います。

・その取材で非常に数多くのお医者さんから伺ったのですが、結局は一人一人違うんだから、一概に言うのは間違っていると、それに尽きるとのことでした。
 確かにそうですよね。たんぱく質が必要な人もいれば、ビタミンが必要な人もいる。中には脂肪が必要な人もいる。人によって違うのに、「絶対にキノコを食べなさい」とか「納豆がいい」とか、万人に効くはずないですよね。

・で、「さすがにアンチエイジングネットワークのトップは違いますね」という話をして、その秘訣を伺ったのですが、きわめて簡単な答えでした。「1日に1時間歩くことと、ゆで野菜を調味料なしで食べること。これに尽きる」とおっしゃったんです。

<1日1時間歩く効用がすごい>
・(竹中)たしかに年を重ねると、かならず脚に来ます。それに歩くと肩も動かすし、ストレス解消にもなる。歩くことは本当に必要だと思います。
(キム)私も予想外だったのですが、歩くことがあらゆる病気の予防になるらしいんです。

・だから、免疫力を高めることが癌の予防にはものすごくいい。ところが50〜60歳代になったらどんどん免疫力が落ちるんです。それに逆らう方法が、歩くことなんです。歩くことで、免疫力はすごく高まる。これだけ納得感があると、さすがに歩こうかなと思いますよね。

・それに、歩くことでセロトニンとかアドレナリンとかドーパミンとか、いわゆる興奮と集中を高めるホルモンが出る。つまり歩くことは脳を活性化するためにもいいんです。かつ、血糖値を抑えることにもなるので、糖尿病の予防にもなる。血流や血管の状態もよくなるから、脳梗塞や心筋梗塞の予防にもなる。
 だから結局、1日1時間歩くだけで、癌、糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞すべてに予防効果があるわけです。

<生産性を高める座り方とは>
・人の生産性を邪魔するのは、身体で言えば首と肩の2つらしいですね。たしかに首と肩が疲れると、集中力が下がる。そこで机に向かってパソコンを打つ時には、椅子やパソコンの高さを調節して、肘の曲がり方がちょうど90度になるようにすればいいそうです。
 そうすると、たしかに疲れないんですよ。

<笑うことで脳が楽しいと錯覚し、ストレスが消える>
・楽しいと笑いますが、あれは脳が楽しく感じて笑うんです。脳は身体の司令塔ですが、その脳も身体の一部。逆に言うと、多少無理してでも笑えば脳も楽しくなるんです。

<日本の政治が変わらない理由>
<政治家の嘘、変化を恐れる民衆、時代遅れの官僚制度>
<むしろおもしろいのが民進党で、民主党時代から党の要綱が存在しない>
・(竹中)まして先の政権交代のときには、歳入庁を作ってベーシックインカムをやると約束していた。ところがベーシックインカムにはまったく手を付けず、約束していなかった増税をやったんです。
 約束していたことをやらず、約束してないことをやったわけだから、もうむちゃくちゃですよね。これほど民主主義を馬鹿にした話はないと思いますよ。

<時代遅れの不要な地方自治体>
<道州制に再編して自治体の給付と負担を一体化>
<税の給付と負担が一体化していないからムダ遣いが発生>
・(竹中)そもそも道州制というのは、要するに自治体の給付と負担を一体化させるということなんです。

・例えば、私たちが払っている税金の約3分の2は国税で、残りの3分の1が地方自治体に入る地方税です。しかし国全体の税収額で見ると、国が使っている税収は約3分の1だけ、地方が3分の2を使っているんです。
 では国税の3分の1はどうなっているかというと、地方交付税や補助金という形で国から地方にトランスファーしているんです。

・つまり給付と負担が一致していないから、ここでムダ遣いが生じるわけですよ。

<地方議会は本当に必要なのか――週末の「民間兼業議員」で十分?>
・(竹中)道州制については国民はほとんど関心を示さないんですよ。理由は簡単で、これは国家公務員と地方公務員の権限争いだというふうに受け取られている。だから適当にやってくれという感じなんです。
 しかし大きなポイントの一つは、地方議会が本当に必要ですかという問いかけなんですよ。

・だから地方議会でやったらいいと思うのは「土日県議会」や「土日市議会」。そうするとPTAと同じです。ふつうに働いている人が、別の仕事をしながら自分たちが住む街のことを決めればいい。

<地方自治の生産性を高めるために、自治体の数を減らそう――基礎自治体の数は今の4分の1以下で十分?>
・さらに言えば、人口10万人じゃダメで、30万人くらい必要という説もあるんです。そうすると基礎自治体の数は300〜400でいいということになる。

<日本社会の既得権益構造が一瞬でバレる!!>
<個人と社会の生産性を一気に高める38の教訓>
<個人の生産性を高めるために  働き方の生産性革命を起こそう>
<時代遅れ? いまだに大企業エリート信仰?>
・生産性を高める法則? 「好きなことをやる」のが一番生産的な人生。過労死したオタクはいない。仕事が楽しければ、成長のスピードも速く、生産性の高い仕事ができる。

<時代遅れ? 会社の「専念義務」は当然だ>
・生産性を高める法則? 働き方ポートフォリオを作り、「ハイフニスト」を目指せ。副業を禁止する「専念義務」は時代錯誤。スキルアップのため、人脈づくりのため、お金のため……。複数の仕事を試すことで、やがて自分に合った仕事も見つかる。

<時代遅れ? 正社員こそ、目指すべき「正しい働き方」だ>
・生産性を高める法則? 「正社員こそ正しい働き方」という概念自体が時代遅れ。パートタイムや派遣など、フルタイム正社員以外の働き方を選びたい人も多い。「正しい働き方」は政府ではなく、自分が決める時代遅れ。

<時代遅れ? 終身雇用、退職金、強すぎる解雇条件のパラドクス>
・生産性を高める法則? 退職金は給料に上乗せし、解雇のルールの整備を。社員を会社に縛りつけても、誰にもメリットを生まない。一刻も早く「解雇ルール」の設定をし、退職金は現行の給料に上乗せする形に。

<時代遅れ? 労使対立に騙されていない?>
・生産性を高める法則? 実際に起きているのは労労対立―—誰もが自由に働けるような制度が必要。
 正社員でなければ十分な厚生年金に入れないなど、正規社員が非正規社員を搾取する「労労対立」が起きている。働き方によって不平等が生じない仕組みが必要。

<時代遅れ? 所得の最低保障がないから、働き方改革が進まない>
・生産性を高める法則? ベーシックインカムは究極のセーフティネット。低所得者には「負の所得税」を。
 国民全員の最低所得を国が保障するベーシックインカム。しかしベーシックインカムを扱う「歳入庁」の創設には、財務省と厚労省の猛抵抗が必至。

<最強のリーダーシップ 安倍・小泉・小池の比較で見えた、信望を集める人の特徴>
<時代遅れ? リーダーに必要なのは絶対的なカリスマ性>
・生産性を高める法則? 茶目っ気とパッション、包容力を持ち、多様性を受け入れるリーダーシップを目指せ。

<時代遅れ? リーダーは「個人の資質が優れた個人商店」>
・生産性を高める法則? 専門家が集まる「CPU(側近グループ)」を作れ。

<時代遅れ? 経験値の高い年長者の言うことを聞け、という「上から目線」>
・生産性を高める法則? 若者の想いに共感し、その自己実現をサポート。

<時代遅れ? 何事にも完璧主義で、あらゆる合意に100点満点の理想を追求。>
・生産性を高める法則? 優秀なリーダーは「リアリズム」で考え、プルーラルボイス(多数の声)で戦う。

<時代遅れ? 沈黙を作らないための会話のテクニックを磨く>
・生産性を高める法則? 根幹で共感できる会話が大切。

<高齢化社会2.0を生きる  生産性の高い高齢化社会のありかた>
<時代遅れ? 勉強するのは学生時代だけ>
・生産性を高める法則? リタイア後の期間のほうが長くなる時代。「生き残るリスク」に備えよう。

<時代遅れ? 高所得者だけが、貧困高齢者を養うべき>
・生産性を高める法則? 中間所得層への税と相続税を見直し、年齢に関係なく公平な負担を。
 高所得層から貧困層への所得移転はすでに進んでいる。中間層から低所得層への所得移転こそ進めるべき。

<時代遅れ? 一律的に高齢者を保護する国民皆年金制度>
・生産性を高める法則? 高齢富裕層への年金支給をやめ、若者への支援を増やせ。
 日本の若者支援の対GDP比はイギリスのわずか4分の1。富裕層への年金額引き下げや支給開始年齢の引き上げなどで、年金制度にかかるお金を若者支援へ振り分けよ。

<時代遅れ? 不健康に老いる辛い老後>
・生産性を高める法則? 健康長寿を全うするのに大切なのは、正しく食べ、正しく歩き、正しく座り、よく笑うこと。
 1日1時間の歩行と薄味の野菜食が免疫力を高める。座り方も見直せば、身体への負担が軽減される。多少無理してでも笑えば、脳が楽しいと錯覚する。

<時代遅れ? メディアに出ている有名な医者を信用してしまう>
・生産性を高める法則? メディアの医療情報を鵜呑みにせず、メディカルリテラシーを高める。
 怪しい自由診療は自由に宣伝できる一方、効果が証明されている保険診療の宣伝は、禁止されている。メディアでの医療情報は間違いだらけと心得よう。

<時代遅れ? 医療免許を一度取ってしまえば、何十年でも医者でいられる>
・生産性を高める法則? 医師免許を更新制にし、薬品や治療法の許可をスピーディに。
 知識や技術をアップデートしない医師でも治療できてしまうのが日本の現状。一方で最新の治療法や薬品の許可は非常に遅い。

<時代遅れ? 苦しんででも、命尽きるまで延命するのが幸せだ>
・生産性を高める法則? 安楽死の制度化について、真剣に議論を始めよう。

<時代遅れ? 葬式はお寺、高額な戒名代や墓石が必要と思い込んでいる>
・生産性を高める法則? 死に方、葬られ方も自分で選べる時代に。

<社会の生産性を高めるために 日本の生産性を押し下げる7大レガシーへの処方箋 談合・経営・法律・結婚・教育・自治体・メディア>
<時代遅れ? 競争より既得権の保護が優先。企業の数が多くても競争は働いていない>
・生産性を高める法則? 談合的体質を廃し、競争が激しいのではなく、談合の結果であることも多い。空港の民営化が進まないのもJALが救済されたのも、既得権保護や見せかけの競争の象徴。

<時代遅れ㉑ 社員の参加意識は高いが、最終責任者がいない>
・生産性を高める法則㉑ 責任の所在を明確にすれば、日本組織の生産性は上がる。
 大学に代表されるように、日本型組織にはマネジメントがなく、自治になっている。自治は調和によって成り立つから、新陳代謝が起こらず、生産性も上がらない。

<時代遅れ㉒ 目先の数字しか見ていない取締役会>
・生産性を高める法則㉒ 長期的な大局観を提供する「プロの取締役」が必要。
 短期のモニタリングの背景にある長期ビジョンが大切。社長の「見張り番」として、長期的な視野でモノを言う人材が必要。

<時代遅れ㉓ 明治維新の時代にドイツに学んだ法律レガシー>
・生産性を高める法則㉓ 法律が細かいルールを規定している成文法型だから、リスクを取りにくい。一方、ドイツでフランスなどの世界は成文法から判例法へ移行している。

<時代遅れ㉔ 一律で選択の自由がない、昔ながらの結婚制度>
・生産性を高める法則㉔ 多様な結婚の形を認めれば、結婚しやすくなる。
 離婚がしやすくなる結婚制度や、夫婦別姓など、多様な価値観やライフスタイルに応じた結婚の形を認めることが、結婚への障壁を低める。

<時代遅れ㉕ 暗記型の受験勉強、国が全国に押しつける学校教育>
・生産性を高める法則㉕ 「自分で決める」教育と地方への権限移譲が教育改革のカギ。
 押しつけから「自分で決める」教育へ。教科内容を時代に合わせ、地方ごとに権限を移譲して、正常な「教育の競争」が働く仕組みに。

<時代遅れ㉖ 明治にできた47都道府県の枠組みで、いまだに予算も中央から地方に配分>
・生産性を高める法則㉖ 道州制で地方分権・地方議会のスリム化・市町村数の最適化を。
 道州制で給付と負担を明確にし、地方議員の数を削減。多すぎる地方自治体を再編し、さらなる効率化を。

<時代遅れ㉗ 政治家の発言やメディアの報道を疑いなく信じる>
・生産性を高める法則㉗ 報道を鵜呑みにせず、誰が何のためにした報道かを考え、直接情報源にあたる。

<時代遅れ㉘ 上から与えられた民主主義を、無批判に享受>
・生産性を高める法則㉘ 金融や経済の社会教育で、国民全体のリテラシーを高めよ。

<「民主主義」の生産性を高めるために「変わらない政治」の戦犯は誰か?>
<時代遅れ㉙ 選挙時のマニフェストは嘘だらけ>
・生産性を高める法則㉙ マニフェストの評価・検証システムを導入。
 選挙が終わるたびに公約を破る政治家たち。国民は簡単に忘れず、スキャンダルだけを争点にしてはいけない。

<時代遅れ㉚ 政財官のトライアングルで政策が決まる>
・生産性を高める法則㉚ 強いリーダーが政治主導で改革を進める。
 官僚、財界、政治家、メディアが徒党を組んで、改革に抵抗している。しかし強い政治リーダーが政治主導で進めれば、「抵抗勢力」も従わざるを得ない。

<時代遅れ㉛ 政策は与党内でほぼ決まり、野党は国会で時間稼ぎに終始する>
・生産性を高める法則㉛  国会の期間を見直し、与野党で生産的な議論を。

<時代遅れ㉜ 大臣は国会での質問対応に忙しく、本質的な仕事ができない>
・生産性を高める法則㉜ 大臣が国会に出る頻度を減らし、コアな仕事に時間を割く。

<時代遅れ㉝ 議員内閣制では首相は与党議員から選ばれるため、大胆な改革が難しい>
・生産性を高める法則㉝ 首相公選制で、国民に選ばれる強いリーダーを。

<時代遅れの規制を変えよう  新規参入を阻む既得権益構造>
<時代遅れ㉞ 株式会社の参入や農地の自由売買の禁止など、規制尽くしの農業>
・生産性を高める法則㉞ 資本や企業のノウハウを入れ、新規参入を促して農業を成長産業に。

<時代遅れ㉟ UberやAirbnbなどシェアリングエコノミーへの規制が強すぎる>
・生産性を高める法則㉟ 地方首長は覚悟を決め、規制を緩和せよ。

<時代遅れ㊱ デジタル技術革新を無視したアナログな対面文化>
・生産性を高める法則㊱ まずは行政が第4次産業革命の遂行者を目指すべき。
 ブロックチェーンや電子取引、ネット選挙などを政府が率先して導入することで、第4次産業革命への弾みとなる。

<時代遅れ㊲ 現状を過大評価して満足>
・生産性を高める法則㊲ 今持っている技術の使い方や使う場所を変えるだけでも、大きなイノベーションは起こせる。
 フルーガル(安上がりの)イノベーションやリバース(逆)イノベーションなど、イノベーションの種類は多様。世界に目を向け、リープフロッグ(飛び跳ねるカエル、蛙飛び)級の躍進を目指そう。

<時代遅れ㊳ 時代遅れな既存秩序をあきらめて受け入れ、我慢>
・生産性を高める法則㊳ 外野の炎上を恐れず、信念をもって自由に生きる。政・財・官・メディアの既成権益を理解し、時代遅れの規制や思いこみにしばられず、自由に生きよう。



『歩く人。』 長生きするには理由がある
土井龍雄、佐藤真治、大西一平  創英社/三省堂書店   2013/6/20



<健康に長生きする人>
・正しく歩きつづけることで、いつまでも健やかに暮らせます。歩くことは、健康増進や生活習慣病予防に役だちます。

<歩くことの大切さを科学的に検証する>
<データが示した「よく歩く人は長生きする」>
・私が積極的にみなさんに、歩くことをすすめるようになったのは、ある論文との出会いがきっかけでした。
 それは、私の恩師(矢野勝彦先生)が関わった論文で、ハワイに移住した日系人707人を対象に12年間、彼らの健康状態を調査したものでした。驚くことに、日ごろからよく歩いている人と、あまり歩いていない人の死亡率に、なんと倍以上の差が出ていたのがわかったのです。
 1日に歩く距離が、1マイル(約1.6キロ)未満とほとんど歩かない人と、1〜2マイル歩く人、2〜8マイルと比較的よく歩く人の3タイプに分けて、12年間追い続けて調査した結果が表1です。
 2年目を過ぎるあたりから、ほとんど歩かない人の死亡率は高くなり、4年目を過ぎると、よく歩いている人の死亡率が明らかに低くなっていることがわかります。

・1マイルを歩くのに20分かかると考えると、1日に20分以下しか歩いていない人の死亡率は、6年目で約18%、12年目で約43%でした。一方、1日に40分以上歩いている人は、6年目で約9%、12年目で約21%と、あまり歩いていない人とは2倍以上の差があることがわかったのです。この結果は、歩くこと以外の因子を加味しても同じだったと述べられています。
 論文では、死亡率に大きな差が出た要因として、よく歩いている人は動脈硬化の進行が抑制されていたことを指摘しています。動脈硬化の進行が抑えられると、心筋梗塞や脳卒中などの慢性疾患である生活習慣病が予防できます。その結果、死亡率が低く抑えられたのです。

<動脈を鍛えて動脈硬化の進行を抑制する>
・私は、心臓病や糖尿病の運動療法に長くたずさわっています。この経験から確証を得たことは、“運動は動脈硬化の進行を抑制し、生活習慣病を予防できる”ということです。
そしてそこには、3つのメカニズムが働いています。
 ひとつは、「動脈そのものに対する効果」、それから「筋肉に対する効果」、そして「自律神経に対する効果」です。
 ひとつずつ説明しましょう。まず、「動脈そのものに対する効果」です。
 もともと運動が動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、肥満等)を改善することは知られていました。最近になって、これらに加え、血管内皮細胞に対する効果が注目されています。

・動脈硬化の進み方にはいくつかのパターンがありますが、いずれの場合もファーストステップは血管内皮細胞の機能の障害です。すなわち、血管内皮細胞の障害を抑え、その機能を保持することができれば、動脈を動脈硬化から守ることができるのです。
 血管内皮細胞の機能を鍛え、保持するのに効果的だといわれているのが、歩くこと、運動することです。
 その理由を、具体的に説明しましょう。
 運動をすると血流が盛んになります。この血流の変化により、血液が血管をこする物理的な力が働きます。この力を「ズリ応力」というのですが、この「ズリ応力」が血管内皮細胞を刺激し、その機能を鍛えるのです。
 
・若いうちは、血管内皮細胞の機能は運動をしなくても保たれています。歳をとるごとにどんどん機能は低下していきますが、定期的に運動をすることにより、血管内皮細胞の機能は若者と同等に保たれます。歩くことで、血管内皮機能が若者並みに保たれるというのは、とても魅力的ですよね。
 この「ズリ応力」、血管内皮細胞を鍛える以外にも、別のメカニズムを介して動脈硬化を改善します。
 血管内皮細胞の機能が弱まると、血管内に脂の侵出を許してしまいます。血管内に入った脂はプラークという炎症を伴う固まりになり、これが破たんすると血栓が生じます。心筋梗塞や脳梗塞は、この血栓によって動脈が詰まることが原因です。

・実は、運動によって生じる「ズリ応力」は、この血管内のプラークを小さくすることも期待されています。ある糖尿病患者さんは、ほぼ毎日4キロメートル歩くことで、プラークを小さくすることができました。同様の効果は、心筋梗塞後の患者さんでも観察されています。
「ズリ応力」は、血管内皮細胞を鍛えるだけでなく、血管内の脂の掃除もしてくれる頼もしい味方です。

<ミトコンドリアを活性化させ糖尿病を予防する>
・次は「筋肉に対する効果」です。
 ご存知のように、運動は筋肉の形態や機能にさまざまな作用を及ぼしますが、ここでは筋肉細胞内に存在するミトコンドリアに対する効果について解説します。
 ミトコンドリアというのは、われわれの身体の60兆の細胞一つひとつすべてに存在している小器官で、発電工場のような働きをしています。そして特に、筋肉細胞内には多く存在します。
 われわれは酸素を取り入れて、脂肪や糖質からエネルギーを得るのですが、そのエネルギーを生みだす役割を果たしているのがミトコンドリアです。生命活動を維持するのに、なくてはならない存在です。
 このエネルギーを生みだす発電機能がしっかり働けば、充分な活力が生み出されますが、機能の働きが悪くなると、さまざまな弊害が生じます。
 
・例えば、ミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギーの素となる脂肪が消費されにくくなります。
 消費されない脂肪は行き場を失い、筋肉の中に留まりはじめます。脂肪が蓄積されてくると、筋肉は本来の機能である、糖質を蓄えるという機能が鈍くなってきます。
 すると、筋肉に取り込まれなかった糖質が血液中に長くとどまることになり、それが高血糖、ひいては糖尿病の原因となります。

・このようなエネルギーの流れの停滞が起こらないように、ミトコンドリアの機能を高めるにはどうしたらいいのでしょう。実はこれも、歩くことや運動することが有効なのです。
 より効果的にミトコンドリア機能を高める運動の方法(歩き方)についても研究が進んでいます。
 なかでも、強い運動と弱い運動を交互に繰り返す、インターバルトレーニングは、有力な候補です。研究成果がまとまるのは、しばらく先ですが、ブラブラ歩くのではなく、ゆっくり歩いたり早足で歩いたり、高低差のあるところを歩いたりすることは、試してみる価値があると思います。

<歩くことで自律神経のバランスも整う>
・そして3つ目は「自律神経に対する効果」です。
 自律神経は、交感神経と副交感神経から成り立っています。自律神経はこのバランスをとることが大切だといわれていますが、歩くこと、運動することによってバランスが整えられます。
 イライラが続いたり、ストレスを強く感じたりすると、交感神経が優位な状態になります。適度に運動をしてリラックスした状態になると、副交感神経が優位にシフトします。副交感神経が優位になると、心拍はゆっくりとなり、心拍数が減ると、心臓にかかる負担も減ります。
 哺乳類は、どの動物も一生涯に打てる心拍数は20億回という説があります。副交感神経が高くなり、心拍数が下がると、長寿に繋がるかもしれませんね。
 また、われわれの心拍というのは一定の秩序をもってゆらいでいます。心臓は、安静時「ドキン・ドキン・ドキン」と一定に打っているようですが、厳密には早くなったり遅くなったり、規則性をもってゆらいでいるのです。
 この心拍のゆらぎは、副交感神経が優位な人ほど大きくなっており、交感神経が優位な人では小さくなっています。

・心拍のゆらぎは、よく運動している人は大きく、あまり運動していない人は小さいのですが、ゆらぎが大きいほうが長生きできることもわかっています。
 自律神経は免疫にも関わっています。副交感神経が高ければ、免疫力が増すことはよく知られていることです。
 太っている人は、自律神経のバランスが悪いことが指摘されています。メタボ傾向にある人は、エネルギー消費のためだけでなく、自律神経のバランスを整えるために歩くこと、運動することも意識してほしいですね。

<認知症の予防にも期待>
・冒頭で紹介した、ハワイに移住した日系人を調査し続けた同じグループが、同じ対象で認知症を追跡したデータが、近年報告されました。これをみると、よく歩くことが、認知症の予防にもなることがわかります。
 脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症をあわせた認知症全体では、0.25マイルとあまり歩いていないお年寄りよりも、2マイル歩いている人のほうが、約2倍リスクが低いことが示されています。興味深いことに、その傾向はアルツハイマー型認知症において顕著でした。データからわかるのは、よく歩いている人は、歩いていない人よりも、2.24倍アルツハイマー型認知症のリスクが少ないということです。
 日本人にはこれまで、脳血管性認知症が多かったのですが、今後、アルツハイマー型認知症が増えるとの予想もあります。
 アルツハイマー型認知症になってしまうメカニズムも、最近やっと輪郭がつかめはじめていますが、予防することを考えると、歩くことの大切さが注目されることは間違いありません。

<身体に負担のかからない歩き方を身につけよう>
・歩くことの効能がいかに多くあるかを、運動療法の専門の立場から述べてきました。ただ最後にお伝えしたように、人それぞれ体力や状況が異なりますので、くれぐれも無理をしないで、歩いてほしいと思います。ずっと歩き続けることで、みなさんが健康になり、長生きをしてほしいと心から願っています。



『100歳までの健康の知恵』  賢い生活と食
中村雅美   日本経済新聞出版社    2013/5/23



<世界一の長寿国>
<野菜や魚を中心にした低脂肪食>
・日本人の平均寿命は80.9歳(1998年)で世界一の長寿国である。しかし、単に長命というだけでは十分ではない。たとえば、寝たきりでではない、社会活動ができる寿命がどれだけあるかが大切だ。

・日本が健康寿命で世界一である背景としては、衛生教育の普及や生活環境の改善など多くのことが挙げられる。中でも大きいのは食生活だ。野菜や魚を中心にした低脂肪食が健康につながったといってもよい。

・3つのことを頭に置けば健康を増進することは可能だろう。3つとは休養、栄養、美養(美容ではない)である。
 休養は、単に「ぐーたら」を決め込むことではない。きちんと運動をすることだ。それも散歩など軽い運動でよい、続けることが大切なのである。栄養は、バランスのよい食事を規則正しく取ることだ。
 それに加えて美養を挙げたい。美は美しさと同時に清潔さもあらわす。美しくなることに気を使い、身の回りの清潔さに配慮すれば健康の維持・増進にもつながり、生活も充実する。

<ジャンクフードに要注意>
・『40代から始める100歳までボケない習慣』(朝日新聞)の中で同意できるのは、第2章にある「ジャンクフードは危険」の項だ。ジャンクフードは体を痛めつけると指摘している。それだけでなく、ジャンクフードをやめられない人の脳の中はドラッグ中毒者と同じ状態だとまで言い切っている。

・米国はいろいろな意味でお手本としてよい国のひとつである。ただ、私は「日本として、絶対に米国のまねをしてはいけないものが2つある」と思っている。ひとつは医療保険制度であり、もう1つは食生活(食事)である。公的医療保険制度が近くスタートするとはいえ、医療保健制度は民間主体であり、また料理もバラエティに富んでいない。食生活は健康の基本だが米国は食生活が非常に貧しい。国民はさまざまなジャンクフードに取り囲まれている。そのためか、健康を害している人の割合が高く、平均寿命も先進国の中では短い部類に入る。

<「歩く」が運動の基本>
・食事と並んで気をつけたい健康のキーワードは、「運動」である。といっても、「今さら運動などやる気にならない」という人は多いかもしれない。
 かつて、「まなじりを決して運動をする必要性はない」と書いたことがある。生活上のちょっとした工夫が運動になりうるからだ。加齢研究の第一人者である順天堂大学の白澤卓二教授の著書『40代から始める100歳までボケない習慣』(朝日新書)にも、こう書いてある。
「まずは『なるべく歩く』を心がける」

<肥満防止、食事回数より量>
・「医食同源」という言葉がある。日本で生まれたとされるこの言葉は、健康の基本は「食」にあることをうまく言い表している。

・ほとんどの生活習慣病は肥満がきっかけになっており、症状を悪化させる要因にもなっている。肥満を防ぐには、「食事は1日に3回を規則正しく取り腹8分目を目安にする」ことがよいとされる。最近、寝坊のせいなのか、ダイエットのためなのか、朝食を抜いて出勤したり登校したりする人が増えているようだ。

<健康維持、まずは生活習慣>
・健康を維持することは、バランスのよい食生活と適度な運動、十分な睡眠でかなり達成できる。要するに、ごく当たり前の生活習慣の改善で済むことなのだ。特定の健康食品ばかりを取り続ける必要性はほとんど感じない。
「これを実行すれば、病気や痛みなどがみるみるうちになくなる」。こうした奇をてらった健康法とは、そろそろおさらばしたいものだ。

<糖尿病の予防、血糖値に配慮>
・糖尿病は今や「国民病」といわれる。2007年版「国民健康・栄養調査」によると、国内の患者は推定で約890万人、予備軍も1320万人いる。合わせると2210万人で、日本人の5人に1人は糖尿病か、その予備軍となる。
 患者が増えているのは日本だけではない。国際糖尿病連合によると、11年に3億6600万人いた世界の糖尿病患者は、30年に約5億人、場合によっては約10億人になると見られている。

・糖尿病には1型と2型がある。いずれも血糖を分解するインスリンが分泌されなかったり、働きが悪くなったりするために起こる。1型糖尿病の人は、インスリンを作る膵臓の細胞が自己免疫疾患などで破壊されることで発症する。若者によく見られる。
 2型は生活習慣病といわれ、食生活の乱れや運動不足などが原因とされる。人種による差があるが、日本では圧倒的に2型が多い。

<カフェインで抗ウイルス>
・コーヒーと健康について考えてみよう。コーヒーにはカフェインが多く含まれている。このカフェインに、ある種のウイルス(JCウイルス)の増殖を抑える効果が期待できるという。

<コーヒーに脳卒中予防効果?>
・コーヒーと脳卒中の関係を調べた論文は少なく、はっきりしたエビデンス(科学的証拠)があるわけではない。ただ、コーヒーを飲む習慣のある人は、脳卒中のリスクが下がるという報告がある。  
たとえば、スウェーデンでの調査では、コーヒーを毎日1杯飲んでいる女性は飲まない人よりも脳卒中になるリスクが25%低いという結果になった。

・「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」というように、コーヒーや緑茶に脳卒中の予防効果があるらしいというだけで、がぶ飲みするのは避けたい。脳卒中リスクを下げるのはカフェインの働きによるものと見られるが、このカフェインをたくさん取ると、思わぬ「副作用」が出るからだ。

<「カフェイン中毒」要注意>
・1日にコーヒーを100杯以上飲まない限り、何ら問題はないといえる。

・大きな副作用としては、「カフェイン中毒」がある。個人差はあるが、コーヒーから離れられなくなったら要注意だろう。顔面紅潮になりやすく、落ち着かなくなり、集中力の低下やけいれんを起こしやすくなる。悪くすると動悸や不整脈につながる。
 やはり、コーヒーは「体によいから」といって一度に大量に取るのは避けたい。カフェインを含んでいるとはいえ、コーヒーは医師や薬剤師が扱う医薬品ではなく、素人が誰でも簡単に口にすることができる食品なのだから……薬は「もろ刃の剣」で、作用があれば副作用もある。ほどほどにというわけだ。

<ポリフェノールの合理性>
・「フレンチパラドクス」という言葉がある。フランスの逆説という意味だ。1990年代の初めごろから世界中で広まった。
 フランス料理は肉料理が主体だが、それにクリームやバターがたっぷり入ったソースをかける。食べ物に動物性の脂肪が多いから、当然フランスの人たちは動脈硬化になり、心筋梗塞など心臓・血管系の病気が多いと予想される。
 ところがフランス人が心臓病で死亡する割合はほかの西欧諸国に比べて少ないといわれている。脂肪分が多い食事を取っているにもかかわらず、心臓病の死亡率が低いというのが、フレンチパラドックスの由来である。
 
・パラドックスの理由としていわれるのが、赤ワインに多く含まれるポリフェノールだ。実際、フランスの人たちは赤ワインを多く摂取する。これで日本でも赤ワインブームが起きた。ただ、赤ワインを多く飲むことによる肝臓病の増加といったマイナス面もある。

・ポリフェノールには抗酸化作用がある。植物(食物)に含まれる抗酸化物質としてはビタミンCやビタミンEなどが有名だがポリフェノールもその1つ。フラボノイド、クマリン、ヒドロキシケイ皮酸の代表的なものとしては、コーヒーポリフェノールがある。

・体の中では活性酸素ができる。活性酸素は細胞にダメージを与え、シミやしわを作るなど皮への悪影響のほか、老化や動脈硬化、糖尿病、がんなどの引き金になるといわれる。活性酸素は常にできているが、普通はカタラーゼやスーパーオキシドディスムターゼといった酵素や、植物由来の抗酸化物質が生成した活性酸素を消している。

・酵素がよく作られ、食事などから植物由来の抗酸化物質を摂取できる若いうちはいい。それが高齢者になると・・・。ポリフェノールを取ることは、ある意味では合理的なのかもしれない。

・日本人が飲料から取るポリフェノールとしてはコーヒーの47%が最も多かった(緑茶は16%で第2位)

<睡眠時間足りない日本人>
・ひとりでパソコンに向かって黙々と仕事をするのが日本のビジネスパーソンの姿なのだろう。このワーキングスタイルが日本人の睡眠の質の低下や、慢性的な睡眠不足状態を招いているのだろうか。

<たばこを「断つ年」に>
<禁煙で脳も長生き>



『逆転の発想で悪の罠を見抜き人生の悩みを裁つ』
 弁護士50年の法力
松枝迪夫    アドスリー   2010/7



<私の健康長寿法十則>
・私の健康長寿法を十ヶ条にまとめてみた。便宜的に私の健康長寿法十則と名づける。古来多くの実践者、研究者が唱えていたものをいわば現代の着想法をもって然るべき順序をつけてわかり易くまとめたものである。重要点はすべて網羅した。
 またこの何々が少なく、何々が多くという表現は、貝原益軒の用語やたまたま愛用している湯呑茶碗に健康長寿法として書かれていた用語を借用した。
 どうかこの十則は、東西の大家の養生法をいい塩梅に整理したものです。まず箇条書きにし、その後で解説する。

一則 食を少なく 噛むことを多く
二則 肉を少なく 野菜を多く
三則 塩・甘糖を少なく 酢・果実を多く
四則 欲を少なく 施しを多く
五則 憂い悩みを少なく 眠りを多く
六則 怒りを少なく 笑いを多く
七則 言葉を少なく 行いを多く
八則 乗物を少なく 歩みを多く
九則 衣を少なく 入浴を多く
十則 エアコンを少なく 風と太陽を多く

<十則の解説>
<一即 食を少なく 噛むことを多く>
・これは腹八分目にすること、食生活の最も重要な原則を宣言。かむことは消化にもいいし、八分目でも満腹感をもたらす。噛まないでいい柔らかい食品が増えたので噛むことが減ってきた。そのため頬がふっくらせず、やせた顔付の人間が多くなってきた。

<二則 肉を少なく 野菜を多く>
・最近の洋風化の食事の欠陥は、肉が多いことにあるから、もともと日本人が好んできた魚を中心として野菜、大豆を原料とする豆腐を多用するのがよい。

<三則 塩・甘糖を少なく 酢・果実を多く>
・塩の多用は色々の病気を引き起こすとされているので注意すべきであるが、大変神経質になって塩分を少なくし過ぎる傾向がある。これも過ぎたるは及ばざるが如しで、子どもがそのため元気を失ったり、労働者が力をなくしたりするので、ほどほどにする。病気だと思って医者に見せたら、その先生はベテランの名医で一目で病気でない、塩分不足と見破って塩を与えて間もなく快癒したという。未熟な医者だったら、すぐ注射とわけのわからない投薬をしただろう。
 糖分はこれまたとり過ぎは病気のもとであるが、運動をしたり、頭を使って疲れた感じのときは速効性があり大切な栄養である。

<四則 欲を少なく 施しを多く>
・精神の平静が一番大切なことである。そのためには欲望を少なくし、欲を抑えることである。食と色の欲望は本能であるから、これを抑えるのは難しいことであるが、それをすることが修養である。本能のままに振り回される人生を送っては身の破滅、仕事でも成功は覚束ない。反社会的な欲望はもちろん抑えなければならない。むしろ他者に対する愛、慈悲の心をもって行為することが大切である。その善行は、本人にも気持ちのよいもので、まして他人から感謝されたりすれば嬉しいし、後に満足感が残る。

<五則 憂い悩みを少なく 眠りを多く>
・人は色々なことを憂い悩み、夜も眠れないということが多い。現代人はあまりにも多くのストレスに悩まされ、心の苦しみを抱えている。これをできるだけ少なくし、明日のことは思いわずらわないでいること、過去のことをくよくよ後悔しないことである。杉田玄白も、明日を思い悩むな、後悔するなと言っている。
 すべての精神の健康法を説く説はこの項を最重要な手段と見なしている。心を平静に保つ最も大切な心持ちである。

<六則 怒りを少なく 笑いを多く>
・これもすべての精神の修養を説く人が一致してあげている実践上最も大切な処世術である。怒りのために人は他人を傷つけ、ついには己の身の破滅に至った例は枚挙にいとまがない。この修養こそ不断に若い頃から積まなければならない。
 
・笑いを多くとは、人生を楽天的に、前向きに生きることでこれは人間の生き方として成功に導く鍵である。前途を暗く、悲観的に考えるのはよくない。外国でも「プラス思考をせよ」というのはこのことである。笑う門には福来るともいうし、夫婦円満、家庭円満、その人の職場も明るく円満という、すべてに喜びと福の感情をもたらす。

<七則 言葉を少なく 行いを多く>
・これは寡言の徳をいうもので、不言実行の系譜にある。昔から「沈黙は金」という諺がある。もっとも欧米流の自己主張の風潮が入り、どんどん発言し、何でもしゃべるのがいいのだといわんばかりの時代になりつつある。程度問題である。
 無言では処世ができないから、要は冗舌をやめ、行動で示すということである。言葉遣いは社交では大切な武器で、軽々しい発言はせず、言行一致が望ましい。
 
・行いを多くとは、日常の暮らしで、身軽に身体を動かすことをいやがらないで、こまめに動くことである。これは大切なことで、相手にもいい印象を与え、尊大な人間だと思われないし、不精な人間と思われない利点がある。
 またこまめに身体を動かすのは健康にもいい。老人になってゴロンとしていると健康に悪く老化してぼけも早くくるという。
 女性が家事をやるのはこまめに動く典型だから、男性に比べて長生きである。いい報酬が与えられていて帳尻が合っている。

<八則 乗物を少なく 歩みを多く>
・身体の運動で歩くことは一番健康によいとされている。それと散歩をすることは特別の場所も相手も器具もいらない。しかも散歩先の町や風景をみて楽しむことができるから一石二鳥だ。

・必然的に車の利用者は歩くことが少なくなり、運動不足となる。色々な健康障害がでてくるなかで、ほとんど歩くことで直った例が多いし、その副作用で悪くなったという例はまずない。

<九則 衣を少なく 入浴を多く>
・皮膚の鍛錬には薄着がいい。

・私は一年中下着は木綿のシャツにステテコ一枚で通している。ニューヨークの冬もそれで、通し、その上にはワイシャツと薄手の背広だけである。慣れれば何でもなかった。

・身体を清潔にすること、皮膚をきれいにすることは新陳代謝によい。入浴はバスタブでもシャワーでもよい。

<十則 エアコンを少なく 風と太陽を多く>
・自然の大気と気温で暮らすのがその住民には一番健康的である。最近は暖房、冷房をする人が普通になった。

・お蔭で昔の日本人は、皆風もひかず元気だったのではないかと思う。

・北欧やドイツなど北部欧州の人は寒い冬が過ぎるのを待って公園で裸になって日光浴をしている。くる病になるのを防ぐには日光が必要なのである。日本人はあまりにも太陽に恵まれているので、その有り難さを知らない。



『病気にならない人の「考え方」』
「治す」から「守る」へー“予防医療”という選択
折茂肇  池森賢二     ダイヤモンド社  2013/2/16



<「100歳までの健康長寿」の人々の知恵に学ぶ>
・最近の日本では100歳を超えて長生きする人の数が急速に増えていて1963年には、その数がわずか153人にしかすぎなかったのが、2012年には5万人に増加しています。健康長寿の皆さんに日常生活の知恵を学ぶというのも予防医療の一つでしょう。

<老化は「未病」の一つである!>
・西洋医学の世界には「健康」か「病気」かという区分、つまり白か黒かの区分しかなく、通常は病気になって初めて医師の世話になります。
しかし、高齢者を診断していますと、健康か病気かをはっきり分けるのが難しいことがしばしばあります。白(健康)ともいえず、黒(病気)ともいえぬ、その中間のグレーゾーンがあるのです。
このグレーゾーンのことを、東洋医学では「未病」と呼んでいます。つまり、東洋医学の世界では健康と病気の間には連続性があると考え、両者を結ぶ境界線のことを「未病」と呼んでいるのです。

・いわば、侵入者や反乱者を押し返したり、そのいたずらを封じ込めたりしてくれる人体防衛軍が、いつも体内でスタンバイしているということ。これが、人体に備わっている「免疫機能」です。
防衛軍は好中球やマクロファージ、リンパ球といったさまざまな能力を備えた「白血球」で構成されています。
 若い頃はこの白血球の働きがとても活発なので、少々の無理はきくのですが、年を取ると全身の細胞が老化して人体防衛軍の力が衰えてくる。つまり、免疫機能が低下してきます。

・また、ガン細胞という体内の反乱者の脅威にもさらされます。こうした免疫力をはじめとして、人体に備わっている各種の「生体防御力」の総称をホメオスタシスと呼んでいます。
 前述したとおり、食事を取ると誰でも血糖値が上がります。しかし、上がった血糖値を下げるために脾臓からインスリンというホルモンが分泌され、血糖は正常値に戻ります。これがホメオスタシスの働きです。

<老化というのはこのホメオスタシスの機能を低下させる最大の危険因子>
・加齢とともに人体の機能には次のような変化が現れます。
心臓→血液を送り出すポンプの機能が低下する
血管→動脈硬化を引き起こしやすくなる
骨→骨密度が減少し、骨折を起こしやすくなる
関節→変形して痛みを伴い、可動域が少なくなる
筋肉→筋肉量が減り、筋力が低下する
脳・神経→脳細胞が減少するため、動作が緩慢になり、バランスも悪くなる
目→40歳を過ぎた頃から老眼が始まる
耳→聴力が低下し、老人性難聴という修復不能な病気になる人もいる
呼吸器→酸素と二酸化炭素を入れ換える換気能力が低下する

・病気とはいえないけれど、いつ病気になっても不思議ではない状態!
つまり、「老化」というのは、「未病」の状態にあるという言い方もできるのです。

<予防医療は、40代で意識しよう!>
<死の寸前まで働き、ボケる人がいない。まさにPPK(ピンピンコロリ)の大往生を遂げる>
・40代は、人間ドックやサプリメントを含めた予防医療を意識すべき年代だといえます。

<長野県が日本有数の長寿県になったわけ>
・長野県というのはもともと内陸部の寒い土地柄で、県民の多くは典型的な塩分過多の生活をしていました。そのため、脳血管系の病気が多かったところです。

・ところが、県ぐるみで「予防医療」を実践したことにより、2007年には沖縄を抜いて、「男性長寿全国第一位」の県になったのです。しかも老人医療費が全国最低の47位。つまり、長野県には健康長寿の老人が多いということです。その秘密は、「健康補導員」という聞き慣れない肩書きを持つ人々の活躍にあります。

<80歳を過ぎても元気な人が多く、「ピンピンコロリの里」として全国的に注目されている長野県佐久市>
・保険補導委員会は、市内の各地区を担当する保健補導員を任命、的確な予防医療の研修を受けてもらったうえで、住民の先頭に立って、次のような予防医療を普及させたのでした。

・減塩運動
・一部屋暖房運動
・食生活改善運動(ピンピンコロリ食)
・体を動かす(ピンピンコロリ体操)
キーワードは「食」「運動」「癒やし」。

<健康長寿とPPK(ピンピンコロリ)は決して不可能ではない>
<元気な老人は肉を食べる!>
・1963年には、全国でその数がわずか153人に過ぎなかった「100歳超え」の長寿者が、2012年には5万人を超えました。まさに1世紀を生き抜いてきた超エリート!

<「長寿の秘訣は何か?」というアンケート調査>
1位→物事にこだわらず、くよくよしない
2位→暴飲暴食をしない
3位→幸せな家庭に恵まれている

<長寿者の食習慣>
・腹八分目で、食べすぎないようにする
・完全に米にかたよるのではなく、魚介類などタンパク質も充分に取り、肉類も積極的に摂取する
・野菜や海草を好んで取る
・薄味の料理を好む
・規則的に食事を取る

<今、フィトケミカルが注目されているわけ>
・一般的に、摂取すべき食品の種類は1日30種類が目安だとされています。朝昼晩に少量でもいいから、できるだけ多種類の食品の摂取を心がけることです。なかでも最近注目されているのが「フィトケミカル」という成分です。フィトは植物。ケミカルは化学の意味。つまり植物が含有している化学物質のことです。付帯的には野菜や果物などの植物が紫外線や害虫から身を守るためにつくり出す物質のことで、「色」「香り」「苦味」などの基になっています。

・わたしたちが心がけるべきは、なるべく多くの色の野菜をいただくこと!
野菜や果物の色は「赤」「黄」「橙」「緑」「紫」「黒」「白」の七色に分類されますので、サラダをつくる場合には、できることなら「七色サラダ」を心がけるといいのではないかと思います。つまり、見かけが派手で、華やかなサラダを意識するといいということです。

<早歩きの人ほど死亡率が低い!>
・ここでいうスポーツとは本格的なスポーツではなく、ウォーキングやジョギング程度の軽い運動を習慣的にしているかどうかを質問しているのですが、おわかりのように特に男性では、スポーツを習慣にしていない人は早々と自立機能が低下してしまうことが明らかにされています。改めていうまでもなく、運動習慣は健康に直結しています。

・具体的には、各種の調査によって、運動が虚血性心疾患の死亡率を減少させ、血圧を低下させ、血清脂質を改善させて動脈硬化性疾患の予防に役立つことが明らかにされているのです。特に注目されているのがウォーキング。

・最近、年齢に関係なく早朝ウォーカーが増えていて、「ちょっと早起きして、出勤前に一歩き」というOLの姿も目につくようになりました。

<ウォーキングは、散歩とは違い、普段歩く速度よりもやや速めに歩くのがコツ>
・調査結果によると、速く歩く人ほど死亡率が低く、遅くなるに従って死亡率が高くなるというものです。「遅い→やや遅い→やや早い→速い」と、速くなるに従って明確に死亡率は低くなっています。

<早朝ウォーキングのススメ>
<朝日を浴びながら歩く!>
・サーカディアン・リズム(概日リズム)の法則とは、人体にはいわゆる「体内時計」が備わっていて、それが24時間のリズムで変動しているというもの。

・晴耕雨読。朝日とともに起きて、暗くなれば寝る。大自然の中で、そもそもそんな生き方ができたなら、健康長寿が約束されるのではないでしょうか?ところが、現実がそれを許しません。

<西から東に、東から西に向かって歩く>
・西から東、東から西。これは、太陽の軌道に沿った歩き方です。つまり、サーカディアン・リズム(概日リズム)の法則に従った理想的なウォーキング・コースだといえるでしょう。

<最低でも20分間は歩く>
・理想をいえば最低でも20分。トータルで40分程度は歩いていただきたいと思います。

<胸を張り、手を前後に振って、やや大股で、いつもより速足で歩く>
・あくまでもマイペースで歩く。無理をすると、三日坊主で終わってしまいます。



『100歳』
日野原重明   NHK取材班  NHK出版 2011/9/27



<99歳の健康診断>
・2011年1月19日、ライフ・プラニング・クリニックにて、99歳の日野原先生の健康診断が行われた。

・日野原先生は、通常の健康診断に加え、体力測定や認知症の検査、生活状況についてのアンケートなども含めたさまざまな検査を受けた。

・医師というのは聴診器を使う仕事だから、やはり聴力も大切です。聴力検査では計ってくれた担当者が、その場で「30代と変わりませんね」とほめてくれました。

・今日行った検査は、加齢とともに体力が低下する勾配を診るためのものです。一般的には、身長が縮む、肺の機能が落ちる、肝臓の働きが落ちる、大脳の働きが落ちるなど、すべてにおいて下降カーブをたどることがわかっています。

・まず、先生は大きな病気をお持ちでありませんし、血液検査でも特別な問題は見つかりませんでした。気になるところは、血圧が少し高いというところでしょうか。ただ、今回は降圧剤を飲まれていますので、上が107、下が56ということでしたし、よくコントロールされていて脈波速度も正常ですので、健康状態は極めて良好だと判断できます。

・脆弱化の5つの指標では、体重の減少、握力の低下、歩行速度の低下、日常生活の活動低下、そして気力の低下を評価します。これらがすべてなければ脆弱化なし、3つ以上あれば脆弱化、1〜2であれば中間と判定します。

・しかし、細かい点では下肢の蹴る力と歩行速度がやや落ちてきていること、そして眼をつぶった際のバランスが不安定であるという変化が見られますので、つまずいて転ぶなどの危険性もあります。くれぐれも足下に気をつけていただきたいと思います。よく歩くことはもちろん重要ですが、足首に軽いおもりをつけて、仰臥位(あおむけの姿勢)で下肢を持ち上げるなどの簡単なトレーニングも試みる価値はあると思います。脆弱化が進行しますと元へ戻すことは難しくなりますので、予防的にトレーニングされておられることは大変よいことだと思います。

<ヘルス・リサーチ・ボランティア>
・とにかく今、高齢者の医学的なデータが不足しています。75歳以上の食事のカロリーはどれくらいが適切かさえエビデンス(検証結果)となるデータはありません。現在のところ、85歳でも90歳でも、75歳のデータを使うしかないのです。長生きをする人が増えていますから、ぜひ調査していかなければなりません。

・私が解明したいのは、「老い」の本当の姿です。認知症にならず、社会生活を送る限界がどこにあるのかを調べたい。現在、遺伝子の働きが大きいということはわかっていますが、認知症の遺伝子を持っていても認知症にならない人もいるのです。例えば、認知症の発症因子の遺伝子を持っているにもかかわらず、認知症を発症していない方がいれば、発症を抑える外的な環境因子があるのではないかと仮定することができま
す。聞き取り調査から、それが食事か、運動か、社会活動か、趣味かを分析し、特定していきます。

・一人一人がどういう環境で過ごしているかということはこれまで調査されたことがありません。ボランティアの仕事をする、勉強をする、今までやったことがないことをする、新しい人と出会う。日々の暮らし方や活動も含めて環境因子といいますが、それらによって老化を遅らせることができるという結果が実証されれば、みなさんが目標を持って生きることができるようになるでしょう。

<99歳からのトレーニング>
・2011年3月以来、月に4回くらいのペースで自宅に経験豊富なトレーナを呼び、ストレッチや簡単なトレーニングを行うようになった。次男の妻、眞紀さんの勧めだった。トレーナーの吉沢剛さんは、「日野原先生は、99歳の体としては、本当にスペシャルな体だと思います」と驚く。

・日野原さんは我々が持っている百歳のイメージを吹っ飛ばしてくれた人物である。今も現役の医師であり、本を次々と執筆し、講演も年間、100回を超える。海外にも頻繁に出張するし、記憶力は抜群にいいし、ステーキも食べるし、好奇心は若者以上。いちいち驚いていたらきりがない。百歳にしてなぜ、このように生きることが可能なのか?この疑問に迫るべく取材を始めたのが2010年10月、日野原さんの99歳の誕生日パーティだった。そこでの驚きの言葉、「不思議と、老いるという感覚がない」。

・そして、以来1年間にわたり密着取材を行い、さまざまな場面で比野原さんやご親族、関係者などに話をお聞きしてきた。そのインタビューをもとに構成したのがこの本である。



60歳からはじめる
『認知症にならない脳にいいこと』 
周東 寛  コスモ21     2012/12/5



<これが脳を元気にする食生活の基本>
<糖・塩・油・酒の摂りすぎは認知症リスクを高める>
・アルツハイマー型認知症の原因物質として、近年「アミロイドβタンパク」が注目されています。アミロイドβタンパクは、加齢とともに脳にたまってくる「ゴミタンパク」の一種です。

・ところが、このアミロイドβタンパクを掃除する能力が加齢とともに衰えてきて、掃除しきれなかったものがしだいに脳内にたまっていきます。それがあるところまでくると脳の機能に障害がでてきて、認知症になるといわれます。

・私の考えでは、糖・塩・油・酒の摂りすぎると、体の細胞がしだいに糖化・塩化・油化・酒化されていきます。この状態になると細胞からは水分が抜けていき、細胞の代謝機能にも障害が起こります。その結果起こる現象の一つがさまざまなゴミタンパクが体内にたまることです。

・ゴミタンパクは「ラクナ梗塞」という小さい脳梗塞の原因にもなります。

心筋の血管にゴミタンパクがたまって血栓になると、心筋梗塞が発症するリスクが高くなります。
 脳内の血管にゴミタンパクがたまって血栓になると、脳梗塞や脳内出血のリスクが高まり、脳血管性認知症になる可能性も出てきます。

・ですから、糖・塩・油・酒の摂りすぎに気をつけることは、生活習慣病はもちろん、認知症の予防のためにもぜひ実行してほしいのです。

<認知症予防には青魚がいい>
・認知症予防に有効な食事の基本は、一言でいうと「魚と緑黄野菜を多く摂る」ことです。なかでも魚に含まれているDHAとEPAは動脈硬化を予防し、血栓を防ぐ働きのある脂肪酸で、とくに脳によい効果をもたらします。

<血液サラサラ食品を摂る>
・豆乳、豆腐、おから、納豆、味噌などの大豆製品には、抗酸化作用がある大豆サポニンが多く含まれています。大豆サポニンには、コレステロールを低下させ、高血圧、動脈硬化、ガンを予防する作用があります。
 さらに大豆製品には多くの大豆レシチンも含まれています。大豆レシチンには、脂質代謝を高める働きがあり、肥満を改善させる効果があります。もちろん、こうした働きは認知症予防にもつながります。

・さらに脳の血液をサラサラにするものを加えた食事を摂れば、もっと効果的です。それが期待できる食物としては、キャベツ、タマネギ、らっきょう、にんにく、長ネギ、ニラなどがあります。キャベツ、長ネギ、ニラは便秘解消にもよいので、毎日食べるようにすすめています。

<緑黄野菜は認知症予防になる>
・ビタミン類は、ヒトが体内でつくることはできませんから、総合ビタミン剤を飲むか、緑黄野菜をしっかりと食べるしかありません。

<とくにビタミンB、C、E群が認知症予防に有効>
・緑黄野菜にはビタミン類が多く含まれていますが、とくにビタミンB群、ビタミンC群、ビタミンE群には脳の老化を防ぐ作用があります。もちろん認知症の予防にも有効です。

<カルシウムをしっかり摂る>
・なかでもとくに大切なミネラルが、カルシウムとマグネシウムです。体内にあるカルシウムの99%くらいは骨と歯に含まれますが、残り1%がとても重要なのです。
 もし、その1%のカルシウムが不足すると、骨のカルシウムが血液や筋肉に放出されます。その分カルシウムが減って、骨がスカスカになり、もろくなります。この状態が進んだのが骨粗鬆症です。

<認知症予防には肥満も気をつけよう>
・高血圧、動脈硬化、脂質異常性、糖尿病などの生活習慣病は認知症を呼び寄せます。それらは肥満とも関係しているので、認知症予防には肥満対策も必要です。

<認知症予防には一切飲まないにかぎる>
・アルコール依存症の人に高い割合で脳萎縮がみられることは、よく知られています。大量にお酒を飲む人に認知症患者さんが多いことも、地域や集団を調査した疫学調査によって明らかになっています。

<タバコにより認知症の発症率は2倍以上に>
・タバコに含まれる有害物質は数百種類といわれます。

・タバコを吸うほど脳の委縮進む。アルツハイマー型認知症に共通しているのは脳の委縮。

<受動喫煙も認知症の高リスク>
<認知症で失われるのは記憶だけではない>
<日本社会全体で10人に1人が認知症に>
<脳血管性認知症の予防は生活習慣病の危険因子除去から>
<脳は「怠け者」>
・筋肉は、まったく使わないでいると、1日に3%から5%ずつ低下していくといわれています。  

 お年寄りが1カ月も寝たきりの生活を送ると、ほとんどの方が歩けなくなるのも、それだけ筋肉が痩せて減ってしまうからです。寝たきりになると、筋肉のほかにも、骨や関節、皮膚、さらには心臓や肺臓などの内臓機能も低下します。

・しかし、いわゆる元気なままで「ピンピンコロリ」と亡くなる人は、おそらく10人に1人もいないでしょう。
 ほとんどの人がどこかで必ず寝たきり状態になるとか、認知症になって死を迎えているのです。とくに認知症は、今後日本社会全体で10人に1人の割合で発症するともいわれています。



『超高齢社会の未来 IT立国 日本の挑戦』
小尾敏夫・岩崎尚子   毎日新聞社   2014/12/27



<人類が経験したことのない少子・超高齢・人口減少社会>
・少子・超高齢・人口減少社会である日本は、いまだかつて世界が経験したことのない未知の世界が広がっている。日本では65歳以上の高齢者人口は過去最高の25%を超え、4人に1人が高齢者になった。増え続ける高齢者の質は大きく変わっている。8割は元気な高齢者と言われるアクティブ・シニアだ。

・2030年には約8割の高齢者が介護不要で自律的に暮らせるようだ。

・高齢社会が進む一方、今後日本の総人口は長期にわたって減少し、2060年には約8600万人にまで減少すると推測される。

・未曽有の人口構造の変化は、2025年がターニンフポイントとなる。戦後の象徴とされる1947年〜49年生まれの“団塊の世代”が75歳以上になる年だ。

・世界に目を転じれば、高齢化率は世界規模で上昇しつつある。2060年意は世界人口の約5人に1人が高齢者になる。

<日本は2007年に国連で定められた世界初の“超高齢社会”に突入>
<国家財政破綻危機の2025年問題>
・高齢者の約8割は就業意欲があるのに、そのうちの2割しか仕事に就けない厳しい現状である。

・介護の面を考えると、厚生労働省の試算で、2025年に50万人の看護師、4〜6万人の医師、100万人の介護職員が必要といわれている。

<高齢化と情報化が同時進行する新複合社会時代の幕開け>
・1980年代のICT革命以降、ICTは人々の生活に密接に浸透してきた。近年ICTは、財政悪化や労働人口の減少、地方の疲弊、企業統治などの成長の制約条件の社会課題を解決するためのツールとしてその地位を確立している。

・世界で唯一の超高齢社会に突入した日本の情報社会の将来は、ユーザー(消費者)がいかにICTを駆使し、供給側はいかにICTでネットワーク化された社会を構築し、ユーザーに優しいより豊かな情報社会を形成することができるかが課題となる。

・65歳以上のインターネット利用状況は、平成20年末から23年末で約1.6倍と年々増加傾向にある。

・また高齢者にとってオンライン・ショッピングも当たり前のものになり、行政手続きも役所に行っていたものが一部、自宅でオンライン申請ができるようになった。電子政府サービスの普及である。今後は、ICTサービスや商品が無用の長物とならないよう、高齢者はICTリテラシー(習得度)を身に付けなければならないということだろう。

・さらに医療や年金などの社会保障の負担が、現役世代に重くのしかかり、個人格差が広がり地域社会やコミュニティ意識が希薄化するおそれもある。こうした社会背景において、ICTはパラダイムシフトをもたらす原動力の一つとして期待されている。時間や距離といった制約を越えて積極的な利活用を促すことにより、将来的に高齢者の生活を変革し、活力を引き出すエンジンになるとも期待されている。いよいよ、情報化と高齢化が融合する人類史上初めての新複合時代の幕開けである。

<解消するか、デジタル・デバイド(情報利活用格差)>
・既に60歳代の団塊の世代は8割がインターネットを使える調査結果もあり、シニア世代の本格的デジタル経済が間もなく始まる。

<政府が超高齢社会対策に乗り出す>
・今後、特に2025年問題の解決策として、下記の諸点を重点分野にした対応が急がれる、と報告された。
1、 在宅医療・介護を徹底して追及する
2、 住まいの新たな展開を図る
3、 地域づくりの観点から介護予防を推進する

<高齢者雇用が地方創生の鍵>
・2020年には約8割の高齢者が介護不要で自立できるといわれている。つまり元気なアクティブ・シニア層が増えるということだ。このアクティブ・シニア対策が喫緊の課題となっている。少子高齢社会の中でますます生産労働人口が縮小する。経済成長の制約となっていた生産労働人口の減少を解消するのはどうしたらよいのか。

・最近多くの企業が導入し始めている取り組みは、
高齢者の退職年齢を上げる、
フレキシブルな働き方を提供し、働きやすい環境を作る、
クラウドソーシングなどを利用して、インターネットを使い、適材適所の仕事を依頼する、
テレワーク(在宅勤務)を推進する、などがある。

・高齢化に加え、少子化も深刻な日本では、今後の労働力が懸念される。地域の過疎化や就労機会が減少すれば、少子高齢化が進む地方では地域経済そのものが疲弊する。こうした問題を解決するのが、“テレワーク”だ。在宅勤務で日本を変えるというスローガンのもとで、さまざまな取り組みがスタートしている。

・テレワークのメリットは、満員電車に揺られて通勤する必要のない、働く時間や場所の制約がない点にある。もちろん会社に勤める他の社員や職員と同様の成果を挙げなければならないし、同等の拘束時間や仕事のクオリティも追及されるだろう。しかし、時間や場所に縛られないテレワークの働き方は、働く意欲があっても、体力的な理由から通勤が困難な高齢者や、出産、育児、介護に時間が必要な就業者が仕事をすることができることから、今後成長が期待される分野である。

・また、多くの人材を確保することが難しい中堅・中小企業にとっては、全国各地から人を募集できるので、有能で多様な人材を幅広い範囲で確保することができ、さらには生産性向上につながるともいわれている。この他、テレワークによって、家族と過ごす時間や自己啓発や趣味の時間が増える等、生活にゆとりが生まれ、ワークライフバランスの向上にも効果があるだろう。

・実際にはまだ大企業を中心に1割の導入に留まっているテレワーク制度であるが、高齢者の社会参加や社会貢献に加え、ワークライフバランスの観点から有効な施策となる。資本金50憶円以上の企業では25%の普及である。働き方だけではなく、新しい高齢社会モデルを構築するための地域振興や規則改革を同時に進めることも検討しなければならない。

・また高齢者の起業も盛んだが、数少ない成功事例の一つが福島県上勝町で行われている“いろどり“事業だ。高齢者の自立支援策、日本料理を飾り付ける草花を、地域の植物をよく知る高齢者が収穫し、全国の料亭に、タブレット端末を利用して販売する”葉っぱビジネス“が注目を集めている。

<総務省「ICT超高齢社会構想会議」>
・高齢者が自ら会社を興し、地域に還元し経済を潤す。高齢者は生きがいを見つけ社会貢献ができる。こうしたモデルが日本全国で展開できれば、地方創生は現実のものとなる。筆者の小尾が委員長を務めた総務省の研究会で視察した東京都三鷹市では自治体が高齢者の起業を応援しているケースだ。NPO「シニアSOHO普及サロン・三鷹」が中心となって活動している。この他、地域支援マッチングのアブセックや孫育て工房で地域ケアのBABAラボをはじめとする高齢者の自立支援地域プロジェクト事例は急増中である。
 問題は日本全国で展開される数多くのプロジェクトが政府の支援や特区モデルを離れた時、プロジェクトが自立し、独り立ちできるかが勝負である。

<人類は“シルバー・ツナミ(津波)”で滅亡するリスクがある>
・“シルバー・ツナミ”とはピーク時に24億人に膨れ上がる高齢者集団が津波のように押し寄せてくる、との比喩的な表現である。スピーチの続きだが、「世界で最初に“シルバー・ツナミ”に襲われるのは日本であり、我が国の対応次第で世界の歴史が変わるかもしれない」と述べた。

・全てを書き終え、次の四つの分野にわたる優先的課題解決の必要性を理解することができる。
第1に、雇用問題である。深刻な労働力不足が将来起きるが、高齢者、そして女性の活躍こそ日本再生の王道である。特に、アベノミクスが目指す“女性が輝く社会”の推進は超高齢社会において必要不可欠であり、一歩でも前進することを望みたい。残念なことに、日本の女性の社会進出は、先進国中、韓国に次いでランクが低いのが実情である。

・第2に、シルバービジネス3000兆円市場(2050年)への企業努力である。

・第3に、日本の経験や教訓を後に続く世界各国に紹介していく国際貢献の責務を忘れてはならない。

・最後に、電子政府など行政の役割である。今後の研究課題だが、高齢者に優しい電子政府の推進が経済活性化の鍵を握ることを証明する必要がある。

・電子政府がフルに活動すれば、日本政府は経費の3割をカット可能との試算がある。





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