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11 抗争の始まり
[¶二年目 11 抗争の始まり]
2010年11月7日 15時16分の記事

校正甘いです…。

直しまだ…。

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11 抗争の始まり

 心地良い昼で、ギュンターは思いきり遠慮する事無くたらふく食事を腹に詰め込んで、満足げに草の生い茂る茂みに横たわっていた。

風が頬を優しくなぜ、ギュンターは目を閉じ、眠りに誘われた。
午後は乗馬だったが、構った事じゃなかった。
ずっと旅で道無き道を走り続けた彼は今更授業をサボった所で、困る事も無かった。

が、足音が聞こえ、ざっ!と、誰かを放り投げる気配に、ギュンターはつい、目を開ける。

間もなく
「あ………」
泣き声混じりの喘ぎが聞こえ、幾度も…逃げようとする衣服の擦れる音と共に、荒い吐息。

引き戻し、性急に衣服を、掻き分ける音。
「放…し……お願い!」

悲鳴のような懇願の叫びを耳に、した途端ギュンターは身を、跳ね上げた。
一気に茂みから立ち上がる。

見ると、やはり茂みに覆われ、普段生徒が通る場所から隠れた木立の下で、そのガタイのいい男が嫌がる美少年を捕まえ…衣服を剥ぎ取ろうとしていた。

が、誰も居ないと思っていた茂みの中に立つ、ギュンターの鮮やかな金髪と美貌、そのひょろりとした長身を見つめ、目を見開く。

腕を掴まれた美少年はギュンターの方へ、助けを求めるように顔を向け、駆け出そうとして腕を、乱暴に引き戻された。

腰を抱き寄せられ、背後からきつく抱き止められ、美少年は必死で、ギュンターに泣き出しそうな瞳を、向けていた。

柔らかそうな、栗色の巻き毛と淡いブルーの瞳の、とても可愛らしい顔立ちの、とても小柄な…。

ギュンターは無表情で、後ろから捕まえ、犯そうとする奴を見た。
栗毛の短髪の巻き毛。
そばかすだらけの顔にグレーの瞳。
ガタイのいい…だがまだ、若く未熟な顔。

「…三年では見ない顔だな?」
聞くと、そいつは歪んだ笑みを、浮かべた。
「…俺は二年だ。

だが…グーデンの、配下だ!」
そいつは、勝ち誇った顔をした。
それが、切り札のように。

が、ギュンターの表情から何の反応も得られない。
そいつは苛立ち怒鳴る。
「…グーデンだ!
知ってるだろう?
学校一、身分の高い王族だ!」

ギュンターはようやく頭を揺らした。
「王族なら同学年で一人、知ってるが…」
「そいつはディングレー!四年のグーデンの、弟だ!」

が、ギュンターはやはり無反応。
男はとうとう、叫んだ。
「ディングレーより兄のグーデンの方が位が高い!」

「それが、その子と何の関係がある?」
二年の猛者は、とうとう頭が馬鹿な奴に苛立ち、説明を怒鳴った。
「お前が邪魔したら俺だけで無く!
学校一のグーデンをも敵に、回す事に成ると!
俺はそう言ったんだ」

ギュンターは頭をゆらり…と揺らす。
「そこが…解らない。
四年の一番は、オーガスタスだろう?」

ようやく二年の猛者の、瞳がきらりと光った。
「身分では劣る。
そしてそれは致命的だ。
オーガスタスはグーデンに、叶わない」

「拳では勝つだろう?」
「だがそれで即、退校処分だ!
オーガスタスが消えてもグーデンはここに残る!
どっちが本当に強い?!」

ギュンターが、顎を下げそう叫ぶ二年の猛者をその、宝石のようにキラリと輝く、透けた紫の瞳で見つめ返す。
「…決まってる。嫌がる相手を無理強いする奴を殴り倒す、オーガスタスが間違い無く強い」

二年の猛者の、顔が引きつった。
「お前…馬鹿か?!
奴と一緒に、退校に成りたいのか?!」

ギュンターは吐息を吐き出し、目を閉じる。
「つまり、お前を殴ったらグーデンとかを敵に回し、俺はヘタしたら退校に成るぞと、脅してんのか?」

「やっと…解ったようだな?」
言って腰を抱いている美少年を尚一層自分に引き寄せ、笑う。

美少年は…助け船が無くなり、自分はこれからその男に犯されると感じ、俯き震えていた。

あんまり気の毒で、ギュンターはその美少年の為にも、はっきり言った。
「…それが、何だ?
言っとくが俺は、退校が怖くて殴りたいのを我慢する根性無しじゃ無い」

途端、二年の猛者が目を、見開く。
つい…抱きしめられて俯き、震える美少年を見つめ、その猛者に顎をしゃくる。
「お前を…怖がってる。
それで本気で…無理矢理犯す気か?」

猛者は一層その美少年を腕に抱き止め、叫ぶ。
「こいつはペットだ!
どう扱おうが、俺の勝手だ!」

ギュンターは頷く。
「いとこか何かか?
それとも家同志で何か繋がりでも、あるのか?」

猛者は笑った。
「ここに入って俺やグーデンに目を付けられた以上!
命令に逆らう事は許されない…。
大人しく、しろ!と命じられた事をするしか、こいつに道は無いんだ!」

そしてぐい!と乱暴に抱き顎を掴み上げさせる。
「んっ…ぐ!」
美少年は無理矢理顔を上げさせられ、目を閉じ呻く。

その両手で必死に、腰に回された猛者の腕を握るが、非力な彼にそれを引き剥がす事は無理のようだった………。

ギュンターはすっ…と右手で茂みを、どけて進む。

何げ無く近づいて来る、三年の美貌の編入生に、二年の猛者は何する気なのか。と目を見開いた。

ぐい!といきなり、美少年が必死に引き剥がそうと掴む、猛者の腕を掴み一気に捻り上げる。

あんまり何げ無い動作で素早く腕を捻られ、猛者は瞬間襲い来る激痛に顔をしかめ、美少年を手放した。

ギュンターは更に思いきり捻り上げ
「うがっ!」
と叫ぶ男の腕を放し様、美少年を背後に回し、猛者を真正面で、睨め付けた。



「貴…様…!」
痛みと怒りで顔を歪めた猛者が振る拳を、軽く顔を背けて促し、がっ!と一気に奴の顔に拳を叩き込む。

どっ!
ばさっ!
後ろの茂みに吹っ飛び、猛者は何とか身を起こすと目を見開き、そのしなやかで早い拳を放つ、美貌の編入生を見つめた。

が、一味の仲間に、ギュンターの強さを聞かされていたのか、二年の猛者は殴られた顎を手の甲で庇い、ゆっくり…手を草の上に付き、腰を、持ち上げ敵を、見つめた。

金の髪に覆われた、拍子抜けする程甘く、優美な美貌。
がその紫の瞳がきらり…!と光る。

何げ無く立ってるが、襲いかかろうとする、隙が見つからない。

猛者はもう一度、殴られて血の滲む頬を手の甲で拭くと、吠えた。
「覚えてろ!」

ギュンターはくっ!と顔をしかめ笑う。
「…決まり、文句だな?」
そして真っ直ぐ見つめ返すその瞳が、嗤っているのに猛者は気づく。

その時初めて、優美に見えるその美貌の男の本性が、獣だと気づき、ぞっと身を、震わせた。

「……………!」
慌てて背を向け、逃げ始める。
途中一度振り返ったが、ギュンターの美貌に浮かぶ、ぞっとする程鋭い表情の嗤いに怖じけ、背を向け必死に駆け去った。

ギュンターが、振り向くより先に背後の小柄な美少年は彼の背の服の裾を握りしめ…振り向くとその可愛い顔がギュンターを見上げていた。
「あの…………」

声が震えていて、ギュンターはむっつりして言った。
「俺はあいつと違うぞ。
嫌がる相手をどうこうする気は無い」

が美少年はまだ何か言いたげに、その大きな淡いブルーの瞳を見開いていた。
「…あの……僕……僕戻って……。
あの…人を追いかけないと」
ギュンターがぼそり。とつぶやく。
「あいつとしたいのか?」

が美少年が辛そうに目を見開き、眉を思い切り寄せたのでギュンターは、言った。
「したくない事を無理にするな」

けど彼は、泣き出しそうだった。
「だって…だってそうしないと貴方が……貴方が退学に………」
ギュンターは吐息を吐いてつぶやく。
「そっちは気にするな。
俺が望んでした事だ。
お前のせいにする気は無いから、安心しろ」

「だっ……て………」
とうとうその美少年の瞳からは大粒の涙がぽろぽろ滴って、ギュンターはまた吐息を吐くと後ろポケットからハンケチを引き出し、一度はたいて伸ばしてから、美少年に差し出す。

美少年は差し出された白いハンケチを見、けど背の高いギュンターを見上げ、しゃくり上げた。

ギュンターは一つ吐息を吐くと屈み、そのハンケチで美少年の頬の涙を拭う。
「僕…は、大丈夫です…は…じめてじゃ…無いし……」
「あいつと?」
美少年は首を横に振る。
「じゃ誰と?
惚れた男が居るのか?」

が、美少年はやっぱり首を、横に振った。
俯き、項垂れる顔でギュンターは思い当たってつぶやく。
「………犯されるのが?」

彼は一瞬震え…そしてそれを、飲み込むように抑え、囁いた。
「……ええ」

かっ!と炎に包まれたように熱く感じ…美少年…ハウリィは、顔を上げた。
表情の余り無い美貌のその人が…眉を寄せ怒りの表情を見せていて…ハウリィは戸惑った。
「…そいつはここに居るのか?」
「?」
ハウリィは首を横に、振った。
「昔…住んでいた領地に居たごろつきはもう…会わないし…それに…母の再婚相手の義兄も…ここに来たからもう会っていません………」

ギュンターはまだ、きつい表情をしたが言った。
「つまり…そのごろつきや義兄の代わりにあいつが…つけ込んだんだな?」

ハウリィは思い出して震えた。
痛みと恐怖だけ。だった。あの行為のもたらすものは。
そして吐き気。

ギュンターはぐい!とか細い美少年の手首を握る。
「…いいか…!奴がまた現れたら直ぐ逃げろ!
逃げて…例えどんな時でもいいから、俺の所に来るか…どこか安全な所に鍵を掛けて籠もり、大声で助けを呼べ!
出来るか?!」

ハウリィは震えながら頷く。
「助けを呼んだら、三年のギュンターを連れて来て!と叫べ。解ったか?!」
「…だって…!」
「解ったのか?!」

その顔が、あんまり真剣で、ハウリィは思わず頷いた。

それを見てその美貌の三年、ギュンターは、すっと屈む背を伸ばしそっと、ハウリィの手首を放す。

その表情は無表情で、素晴らしい美貌だった。
「名前を、聞いて無かったな?」

顔を傾け尋ねられると、ハウリィはそっと告げた。
「ハウリィ」
「学年は?」
「一年です」

ギュンターは、頷いた。
そしてそっ…と背に手を当てて促す。
まさか…と思ったのに、彼ギュンターは、ハウリィと共に歩き尋ねる。

「どこに行く気だったんだ?」
「あの………第三講義室へ…。
僕…本を忘れて取りに宿舎へ戻って…」
「本は?」
ハウリィは途端、どこに落ちたのか。と、地面をきょろきょろと探した。

建物近くに落ちているのを見つけ、ギュンターが屈んで拾う。
ハウリィに無言で手渡し、そしてまた、背に手を当てる。

ハウリィは横を並んで歩く、長身の三年生を幾度も、見上げた。
けれど彼は表情を崩さず…済ましきって見事な美貌を前に向けたまま、無言で歩く。

廊下を抜け…そして講義室の、扉をがらっ!と無造作に開け、壇上の講師がびっくりして視線を注いでも、表情を変えずに。
「彼を、送って来た」

そう言うと、講師は頷く。
「自分の席に着いて」
言われて、ギュンターはハウリィの背をそっと押して促し、ハウリィは本を抱え、段を上りながらギュンターに振り向く。

壇上の講師が、戸口に立つギュンターに告げた。
「君は授業じゃ、無かったのか?」
「そうだか、サボってた」

「何があったのか、聞いていいのか?」
聞かれて、ハウリィは階段を上る足を一瞬、止めた。
本を胸に抱え背を、屈め。

講義室中の生徒が彼と、壇上の講師。
そして三年の金髪美貌の編入生に注視していた。

ギュンターは足を止めるハウリィをチラ。と見上げ、講師に囁く。
「聞きたかったら俺を呼び出せ」
講師は頷く。
「では放課後、講師館の応接間で。
ギュンター、君は授業に戻れ」

ギュンターは目を丸くした。
「名を、覚えてくれてるのか?」
講師は肩を竦めた。
「君くらい目立つ編入生は他に居ないからな」

どっ!
講義室の、皆が一斉に笑った。
ギュンターが講師を見ると、彼は再び肩を、竦めた。




 指さされたソファに腰掛け、講師が差し出すティーカップを、ギュンターは無言で受け取る。
講師は淡い色の肩迄ある栗毛を柔らかに揺らし、信頼溢れる茶色の瞳をギュンターに向けた。
壮年の落ち着きを見せ講師は、静かに囁く。
「誰が…彼に絡んだかは見当が付く」

ギュンターはカップを手にしたまま、講師を見上げた。

講師はポットから茶を自分のカップに注ぎ、それを手にしてギュンターの向かいに座る。
「君はここ(教練)では不案内だ。
だから警告して置こう。
私の推察では彼に絡んだのは、四年のグーデンの配下の誰かだ。違うか?」

ギュンターは様子を窺うように、カップから茶をすすりながら講師を見上げた。

講師はカップを手にしたまま、ギュンターの警戒する様子に気づく。
「…言われたのか?自分の邪魔すると、退学に追い込まれると。
だが……」

ギュンターが口を開くがそれを遮り、講師は告げる。
「我々には実際方法が無い。
奴らが影で動く分には。

私の目に触れれば、注意も遮る事も出来る。
が実際、グーデンをどんな理由でも退学に出来ない以上…どうしたって奴らは人の居ない場で…弱い子を脅し、秘密裏に言う通りにさせ…そして決まって最後は彼らにこう言わせる。

『自分で、望んでしている事で、グーデンに責任はありません』」

ギュンターは顔を揺らした。
壮年の講師にはそれが動揺の様子だと、解った。

「…つまり…方法は無い。と?」
ギュンターの問いに、講師は吐息を吐いた。
「去年はディアヴォロスが居た。
グーデンのいとこに当たる、同じ「左の王家」の男で学校一の剣士。

彼に逆らう者は居ず、グーデンが悪さをする時それは…ディアヴォロスに配慮し、ひたすら隠れて……それですら、大事に成らぬ様細心の配慮をし………。

奴はディアヴォロスを、とても、怖がっていた」

ギュンターは頷いた。
「その邪魔な盾が居なく成って今、自分の天下だと思い込んでるのか?」

が講師は吐息を吐いた。
「悪い事は言わない。
いざと成ればオーガスタスを頼る事だ。

ディアヴォロスは卒業前、我々に告げていった。
自分はオーガスタスの為に全力を尽くす覚悟があるから、彼に不都合があればいつでも自分に知らせてくれ。と」

ギュンターは顔を上げた。
「卒業してもその気配りか?
ディアヴォロスって、何者なんだ?」

講師は初めて微笑んだ。
「誰もが彼に会うと魅了されるだろう。
低く甘い声音の、オーガスタスと並ぶ長身の、とても高貴で魅力的な男だ。

王家の出身で近寄り難いが…彼が通ると皆が敬意を込めて彼を見つめる。
…つまり、不正は許さず、暴挙にも黙っていなかった。
学校の秩序は彼が…護っていた。

同族の、グーデンがそれを継ぐ筈だが彼は…ディアヴォロスとは正反対でね。

例え不正を行ってでも、自分の我を通したい自己中心的な我が儘な男だ。
来年に成れば君と同学年のディングレーが学校を統べる。

…そうなれば…ディアヴォロスの時のような秩序が、戻って来る。
ディアヴォロスはグーデンよりも弟のディングレーを認めていた」
ギュンターは俯いた。
「…つまり、今年一年が正念場って事か?」

講師は頷き、言った。
「君は正義感が、強いようだな?」

ギュンターが、その時始めてかっ!と目を見開く。
「どれ程あの子が怯えていたか、見せてやりたい程だ!
あれを…放って置ける奴が、居るとは思えない!」

講師は正義の為に怒るその物知らぬ編入生に、静かに告げた。
「…が、グーデン一味が相手だと知ると…立ち向かう者は限られ、それ以外の者はその様子がどれ程悲惨でも…見て見ぬフリをするだろうな」

ギュンターが顔を上げた。
その表情は怒りに歪んでいた。
「…ここは騎士養成校じゃないのか?
講師は騎士の誇りを、教えないのか!!」

講師はギュンターの怒りを感じ…だが囁く。
「大貴族程度なら停学で済む。が相手は『王族』だ」

ギュンターはそう言った講師を、きつい紫の瞳で睨んだ。


 戸口で背を向けるその正義感の強い編入生に、講師はぼそり。と告げる。
「報復の出来ない位グーデンに思い知らせられなくば、退学を覚悟しろ。
が、オーガスタスを頼ればディアヴォロスが必ず、何とかする」

ギュンターは振り向き、吐き捨てるように言った。
「講師の癖に、ディアヴォロス頼りか!!」
が彼は静かに囁く。
「王族の決着は王族が付ける。
彼はそのつもりで我々やオーガスタスに、そう言い残したんだろう?

彼なりのけじめだ。
彼の、一族の者だからな。グーデンは」

戸口で静かに見つめる講師を見つめ返し、ギュンターはようやくその時、解った。と大きく頷いた。
が実際問題、奴らの一味の動向を全て見張る訳にも行かなかった。


 講師の部屋を出、廊下を曲がって直ぐ、ギュンターは出くわした一年生にその袖を掴まれた。
「貴方を呼んでる…!」

その、言葉だけで十分だった。
ギュンターは駆け出し、横で一緒に走る、呼びに来た一年の少年を見つめた。

例の酒場の、美少年だった。
確か名は………。
「……アイリス?」

彼は横に振り向き、ふいに自分の名を呼ぶ上級生を見つめる。
ギュンターの視界に、アイリスの顔が飛び込んで来た。
その顔は優しげで美しく整いきっていて、濃い艶やかな栗毛を肩に胸に垂らし気品に溢れ、赤い唇はあどけなく見えた。

ギュンターは走りながら彼に尋ねる。
「…酒場で…男に絡まれてたろう?」
アイリスは一瞬、唇を、噛んだが気を取り直し、美貌の背の高い上級生に微笑む。

「四年のオーガスタスが、助けてくれた」
ギュンターは頷く。
「校内では?
お前に絡む奴は居ないのか?」

アイリスはまだ高い声音で、理性的に返事する。
「幸い、身分重視で私に言い寄る上級生は今の所居ない」
ギュンターは、頷こうとした。

が建物を抜けた途端木の生い茂る中庭で、昼間見た二年の猛者がガタイのデカい四年二人を引き連れ、一年の二人を前に睨み合っているのが、視界に飛び込んで来た。

瞬時に、横のアイリスが校舎に取って戻るのに気づき、ギュンターがその背に怒鳴る。
「どこへ行く!」

アイリスは振り向くと叫ぶ。
「二年のローランデを呼びに!」
ギュンターは咄嗟に叫ぶ。
「四年のオーガスタスだ!
奴を呼びに行け!」

「でも…」
「いいから行け!!」
アイリスが一つ、頷くのを確認し、ギュンターは二人の一年の前に飛び込み、猛者らと対峙した。

美少年を背に隠した、一年でも体の大きな一人と、その三人は睨み合っていたが、飛び込んで来る三年の編入生の美貌を見、途端表情を緩める。

「……どうした?俺を代わりにしろ。と言いに来たのか?」
四年の一人が、ニヤニヤ笑って告げる。
が横の一人は、むっつり言った。
「三年はこいつに皆やられた。
面の割に喧嘩っ早いそうだ」

二年の猛者は力強い仲間を引き連れ、ギュンターの背後の一年に怒鳴る。
「大事にしたくなきゃ、とっととそいつを俺に差し出せ!!」

ギュンターは背後に振り向く。
一年のそいつはどうやら…美少年を庇っていたようだった。
そう言った二年の猛者に激しい目を向け、睨め付けたからだ。

ギュンターは彼に、そっと告げる。
「いいから…連れて逃げろ」

ふいに…自分達に背を向け庇う、三年の美貌の編入生に、その体の大きい一年生…スフォルツァは視線を投げた。
「あっちは…三人居るのに?」

ギュンターは面倒臭そうにつぶやく。
「お前達がいたら逆に、戦いにくい。
掴まったらこっちの動きを封じられる」

スフォルツァは目を、見開いた。
もう一度、言おうかとも思った。
三人、居ると。

内二人はガタイのいい四年で…幾らギュンターが長身だって、背丈はほぼ同じ。そしてギュンターより横幅もあったし逞しかった。

がギュンターは表情を微塵も変えず、怯える様子も慌てる様も見せない。

しかし二年の猛者が戦いを四年に任せ、自分は背後の、ハウリィを捕らえる事だけを考えてる様子が窺い見え、ギュンターに囁く。

「どんな事があっても俺が彼を護る」
ギュンターはスフォルツァが気にする二年の猛者の様子に気づくと一つ、吐息を吐き言った。
「なら奴はお前に任せる」

そしてふい。と背を向け視線を目前の敵に戻す。
が!
相手は喧嘩自慢の四年二人………!

スフォルツァはギュンターの事が気に成って仕方無かったけれど、二年の猛者の、動向だけに気を配るしか無かった。
そっと背に庇うハウリィに囁く。
「絶対俺の背から出るな!
解ったな?!」

微かに背に当たるハウリィの頭が、頷くように揺れたのを確認し、スフォルツァは手を広げ、ハウリィを庇った。



「…オーガスタス!!!」
四年宿舎の入り口からその向こう、並ぶテーブルの間の、群れる四年の大柄な男達の中に、一際大きな背と赤毛を見つけアイリスが叫ぶ。

途端、皆が一斉にその高い声音の叫びに振り向き、四年の男達は笑う。
「モテるな!オーガスタス!!」
「品のいい美少年、直々のご指名だ!」

がオーガスタスはその顔を見、一瞬で顔を引き締め、囃す友を掻き分けやって来る。
「…アイリス。どうした?」
「ギュンターがあんたを呼べと!
私は二年のローランデを呼ぶつもりだった」



オーガスタスが目前に飛び込んで来るアイリスに顎をしゃくり、アイリスは瞬時に察して道案内に背を向け、斜め前を走り始める。

横に追いつき、オーガスタスが尋ねる。
「相手は何人だ?」

アイリスはギュンターの時同様、走りながら隣の大柄な男に返す。
「三人!内二人は四年。
とっちもグーデンの配下だと名乗った!」
「で、お前は逃げ出して来たのか?」

アイリスは咄嗟に振り向きオーガスタスを睨み据える。
「奴らの目当ては私じゃない!!」

そう言ったアイリスの濃紺の瞳が油断無くぎらり!と光るのを見、オーガスタスは正直、内心震った。
が表情にはおくびにも出さず、朗らかな笑みを作る。
「さすがのお前も、公衆の面前では相手をブチのめせないのか?」

それが笑い混じりなのをアイリスは感じ、不機嫌に唸る。
「剣の練習試合迄は…人前で派手な立ち回りを、する気は無い!」
オーガスタスはもっと朗らかに笑った。
「それで俺を呼びに来たのか?」

アイリスはきっ!とした。
その端正で整い美しい顔の、だがその濃紺の、くっきりと意志の強い瞳が自分を見据えるのを、オーガスタスは見た。

「襲われかけた美少年はギュンターを呼べと言ったし!
呼んだギュンターはあんたを呼べと!」
オーガスタスは目を丸くした。
「じゃ今はギュンターが睨み合ってるのか?」
アイリスが、頷く。

オーガスタスはアイリスが幾度も…足を絡ませそうになりながら激しい息づかいで詰まる息を何とか整え、必死で走る様子を見、気づく。
たっぷりした衣服に…走る度浮かび上がる体の線が…無骨なのに。

「お前…体の下に何付けてる?
まさか…重石じゃないだろうな?」
いきなり腕を引かれ引っ張られ…服をめくろうとするオーガスタスの長い腕を、振り払おうとしたが無駄だった。

オーガスタスは腕を引き、抗うアイリスの体のバランスを崩し様もう片手を上着を取り退け、腹に当てる。
その手の感触に金属の硬さと冷たさを感じ、オーガスタスは吐息を吐く。
「…こんなもの付けて、全速力か?
まだ遠いのか?」
アイリスはオーガスタスの掴む手を振り払い、怒鳴った。

「ほんの直ぐ先の中庭だ!」
そして背を向け先を急ごうとするオーガスタスに囁く。
「頼む……!誰にも………」
オーガスタスは咄嗟に歩を止め振り向くと、気弱な美少年に戻るアイリスを見つめる。
その唇は色白の肌の中、真っ赤だった。

オーガスタスは笑うと告げる。
「…言わない代わりに?
また色仕掛けか?」
アイリスが、困ったように告げる。
「あんたがそうしたいなら断らない」

が、その時ようやくオーガスタスが真顔で、アイリスの前に来た。
アイリスはもう激しく息が切れて両膝に手を付き、屈み込んでいた。
オーガスタスはそんなアイリスを見下ろす。
「…本気で言ってんのか?」

あんまり意外そうなその声につい、アイリスが顔を上げてオーガスタスを見つめる。
いつかの晩道理、オーガスタスはやっぱり小顔で、びっくりする程鼻筋の通ってすんなりとした、男前だった。

見つめるアイリスにオーガスタスが囁く。
「秘密を守る為には、嫌いな男にも身を委ねる覚悟か?」
そして一つ、吐息を吐く。
「…俺以外には知られるなよ。
覚悟は有り難いが俺への礼は、以前貰った酒でいい」

素っ気無くそう言い、背を向けるオーガスタスに、アイリスは訂正した。
「気遣いは有り難いけど…嫌いな男に身は委ねない。
例え相手にどれだけ熱望されようが、どんな手段を使ってでも避ける」

オーガスタスの、足が一瞬で、凍る。

振り向きたかったが、理性がそれを拒否した。
その言葉が発せられる前に歩を踏み出せ。と理性は告げていたが、正直怖さに足は、止まったままだった。

「勿論、あんたになら抱かれてもていい。と思った上での提言だ。
断ると言うのなら、残念だけど酒にする」

オーガスタスは背を向けたまま吐息を吐き出し、俯いた。
「…それは…聞かなかった事にする。
酒が届いたら勝手に俺の口は閉じる」

気落ちした茶目っ気ある声が背後で響く。
「…それはちょっと…残念だ。
酒に私が、負けるなんて。
これでも寝室ではそれなりの自信があったのに」

オーガスタスはつい、振り向いてしまい、アイリスは諦めの微笑を浮かべ肩を、竦めてみせた。

次の瞬間、オーガスタスは全速力で、駆け出していた。
後も、振り返らずに。

 
 ギュンターは二人が交互に繰り出す早い拳を、紙一重で顔を避け交わしていた。

二年の猛者は案の定、スフォルツァの目前に飛び出し吠える。
「どいてそいつを渡せ!
俺の物だ!!」
スフォルツァが激しく睨め付け、どかないのを見、咄嗟にその顔面目がけて拳を振る。

スフォルツァは避けたつもりだが頬を掠る。
が腹立ち紛れに相手の腹に踏み込んで下から思い切り、がつん!と突き上げた。

が瞬時に今度はかなり深く、拳を頬に叩き込まれ、咄嗟に背を後ろに泳がせ間を取ると、口の中から沸き上がる血を、ぺっ!と吐き出した。

直ぐ左横へと、豪腕の拳が降って来る。
が、今度はスフォルツァはそれを避け前へと身を進め相手の懐へと入り込むと、再び腹へ、思い切り拳を振り込み一瞬で後ろに下がった。

さすがに今度は効いたのか、二年の猛者は体を前に折り腹を、抑えた。

スフォルツァは再び上る口の中の血溜まりを、ぺっ!と唾と共に吐き出し、猛者を睨み据えた。


三回目の拳を避けた所で右に寄る男目がけ、ギュンターは一瞬で身を屈め右足を、突き出した。
「おっ……と!
その手は喰わないぜ…お前とやった奴らに、ちゃんと聞いてるからな!!
手だけじゃなく、足も出る。と!」

左の男が振る拳を、咄嗟に肘を曲げ腕を突き出しガードし、至近距離から蹴り上げる。
男は気づいて後ろに飛び退いたものの、股間にその足先が当たり、後ろに逃げて股間を押さえる。

「…えげつねぇな!面の割に!」
右に居た男にそう叫ばれ、ギュンターは怒った。
「避けなけりゃ、腿に当たってた!!」

「…そりゃ無理だ。
普通は避けるもんだ」

そのとぼけた声に、喧嘩していた三人共が一斉に振り返る。

オーガスタスが赤毛を揺らし、笑っていた。
「どうする?今日も助っ人はいらないか?」

ギュンターは背後に顔を向け、つぶやく。
「奴には要る。あんたの加勢が」

ぎくっ!と身を屈め腹を押さえていた二年の猛者が、その学校一喧嘩の強い大柄なライオンに振り返る。

途端オーガスタスと、目が合う。
その鳶色の瞳は金に見え、ぎらりと鋭く輝くのに一瞬で竦み上がる。

オーガスタスは直ぐ気づき、ぼやく。
「…相手にとっちゃ不足だが………」

ゆらり…と身を揺らし近寄るその大きな男を、二年の猛者は見つめたまま怯えきって後ずさる。

スフォルツァは戦闘態勢に入るその学校一喧嘩の強い男の、あまりの迫力に、ごくり…!と唾を飲み込んだ。

が、オーガスタスがもう一歩前へと踏み出すと、猛者は震えながらまた一歩、後ろに下がった。
その様子にとうとう、オーガスタスが肩を竦める。
「暴れたいか、ギュンター」

オーガスタスの助っ人を断る一学年下の思い上がった編入生に、目にもの見せようと二人が同時にギュンターに襲いかかっていた。
左右から、交互に繰り出す鋭い拳を、背を反らして避け続け、ギュンターはオーガスタスに怒鳴る。
「俺は今、忙しい!」

オーガスタスは二人の拳を、身を左右に俊敏に振って避けるギュンターを見、肩を竦めた。
「物は相談だが、相手を交換しないか?

こいつ…俺を怖がってる」

スフォルツァが見てると二年の猛者は大きなその男が目前を塞ぐのに、怯えきって震ってた。

ギュンターがまた繰り出される拳を、顔を振って避けながら怒鳴る。
「ならさっさとそいつを沈めて加勢しろ!」

オーガスタスは肩を竦め、自分の相手を見つめる。

その金に光る鳶色の瞳が自分を見据えた途端、二年の猛者は足が竦み、必死で顔を横に、振った。

「…何だ?
何が言いたい?」

オーガスタスの問いに、猛者はそれでも首を横に振り続ける。
「声が…出ないのか?」
猛者はようやく、首を縦に振る。

その顔に気づくと、オーガスタスはぼそりとつぶやいた。
「何だ…見た顔だと思ったが…お前がまだやんちゃな一年坊主だった頃、俺一回お前を殴ったか?」
猛者は、うんうん。と首を縦に振る。

「そうか…。で、なんか歯を二本、折ったって?」
猛者は必死に首を縦に振る。

スフォルツァは呆れた。
オーガスタスはすっかり戦意を解いていた。
なのに二年の猛者は、竦み上がったままだ。

オーガスタスはとうとう両手を腰に当て、身を屈めて相手を覗き込む。
「どれ…ああ…そっちは抜けて…もう一本は欠けてるな。
しみる?
そうだろう。

で?
…今度は何本折って貰いたい?」

そう尋ねたライオンは、ニヤリと笑ったもんだから、その猛者はとうとう脱兎の如く背を向け駆け出した。

スフォルツァの目前でその大きな男は、やれやれ。と片手で髪を梳き上げ、逃げ出す男の遠ざかる背を見つめた。
そしてギュンターへと視線を振る。

忙しく拳を避けてるギュンターの背後に立つと、告げる。
「…楽しそうだな。
俺も混ぜてくれ」

言った途端、左の男が繰り出そうとした拳を途中で止め、殴ろうとした相手の背後の、オーガスタスを目を見開き、見つめた。

左の男が動きを止めた途端、ギュンターは右の男の拳を避けて右肩を入れ込み、繰り出された拳のその腕を左手で握り引くと、バランスを崩す相手の顔面に、右拳を叩き込んだ。

四年の喧嘩自慢は流石に背後に身を反らすが、頬を掠る。
握られた腕を振り払い、咄嗟に一歩下がって切れた口から滴る血を、手の甲で拭う。

がその背後に立つ、オーガスタスの瞳がぎらりと光るのを目に、怒鳴る。
「てめぇ…!
ディアヴォロスが居た頃とは訳が違うんだぞ!
今はグーデンの天下だと、解らぬ位馬鹿か!
俺を殴ったらグーデンは黙って無い!!!」

ギュンターが背後に振り向くと、オーガスタスは笑った。
「試すか?」

ギュンターが視線を前に戻すと、四年の猛者二人は動揺仕切った。
互いに顔を、見合わせる。

そして…戦意を解くとオーガスタスを睨み据え…背を向け去り始める。
内の一人はギュンターに言った。
「お前との決着はいずれ付ける」

ギュンターがその様子に呆れ、ぼそりとつぶやく。
「…今付けられない程オーガスタスが怖いのか?」

二人同時に振り向くと、ぎっ!とそう言うギュンターを睨んだ。

が戻って来る気配無く、二人は背を向け去って行く。
ギュンターはつい、背後に立つオーガスタスに振り向く。
「…どれだけ思い知らせたんだ?
戦ってもないのに相手が逃げ出すなんて、そりゃよっぽど酷く殴ったんだろう?」

オーガスタスは振り向くギュンターに肩を竦めた。
「奴らは殴って無い。
今はとっくに卒業した、上級生らは殴ったが」

ギュンターが顔を揺らす。
「そいつらを血祭りにでも上げたのか?」
オーガスタスは朗らかに笑った。
「まあ…たくさん出血は、していたな」

 スフォルツァはハウリィを見た。
彼は本当に可憐で震えていて…スフォルツァは大丈夫だ。
と励ましたかった。

が、ギュンターが二人に振り向く。
圧倒的な甘い、美貌に見えた。

がギュンターははっきりした声音で、スフォルツァの後ろに居るハウリィに告げる。
「良く頑張ったな」

スフォルツァが見つめていると、ハウリィは顔を揺らした。
何か言いたげだったが、ギュンターはにっこりと笑った。

「何時でもいい。
また奴らが来たら逃げて俺を呼び出せ」

が、ハウリィは震え、小声で囁く。
「…でも…でもいつ迄……?
貴方だって、ご迷惑でしょう?
こんな事が度々あったら…」

オーガスタスがギュンターの背後で笑う。
「逆じゃないのか?
発散出来て楽しいんだ、この男は。
言われた通り、呼び出してやるのがこいつにとっての親切だ」

その、ハウリィからしたら見上げる程の巨人に見える、大きなオーガスタスにそう言われて、ハウリィは目を丸くする。

ギュンターは一つ、吐息を吐くと、その通りだ。と頷いた。

背後に荒い吐息が聞こえ、オーガスタスが振り向くとそこには、一学年一身分の高い美少年、アイリスが息を弾ませていた。
「…とっくに終わってる…とは思ってたけど……」
言って、振り向くギュンターとオーガスタスを見つめる。

「まさか本当に終わってるなんて………」

ギュンターが肩をすくめる。
「俺だけならまだ殴り合ってた。
奴らオーガスタスが顔出しただけで、ビビって逃げてったからな」

そしてスフォルツァに振り向く。
「感謝なら奴にしろ」
スフォルツァは無言で頷く。

ハウリィはスフォルツァと…そしてまだ息を弾ませるアイリスに感謝の視線を投げ…スフォルツァがオーガスタスに口を開こうとするとオーガスタスはくるり。と背を向ける。

「ギュンターが見つからなかったら俺を呼び出せ」
「あの…!」
スフォルツァが叫び、アイリスがオーガスタスの後を追う。

その気配にオーガスタスは追って来るのはアイリスだと当たりを付け、一目散に逃げ出すべきかと迷った。

が皆の手前、足を止める。
振り向くと、やはり色白の顔に艶やかな濃い栗毛をたおやかに垂らし、真っ赤な唇をした…けれど濃紺の瞳がその意志の強さを告げるアイリスが、自分を見つめていた。

「事ある毎にグーデン一味と…貴方は対峙する。
そう言う…事なんですか?」

オーガスタスはその質問に、面倒臭そうに高い背の赤毛を揺らす。
「お前の役目は彼のような連中を、あの最悪な奴らから護る事だ。
……ああ…それはあっちの、育ちの良さそうな威勢のいい坊やの役割か?」

スフォルツァは坊や。と呼ばれ…だが言った相手のオーガスタスが育ちすぎてるので異論を唱えられず、唇を噛む。

アイリスが素早くオーガスタスに告げる。
「彼はスフォルツァ。
私のように貧弱な男じゃない。
名を覚えて置いて、損は無い筈」

スフォルツァは愛しのアイリスにそう言われ、感激で目が潤みそうに成った。
が、オーガスタスは察して頷く。

子細は解らなかったが、実力を隠し自らは引き、学年代表の地位は“スフォルツァ”に任せる。
たった今アイリスはそう自分に告げた。

「覚えて置こう…。
スフォルツァ。何時でも俺を呼び出せ。
俺が掴まらなかったら二学年のローランデかフィンスが何とかする」

頷くスフォルツァに、だがオーガスタスはにっこり笑ってスフォルツァの目前にまだ居るギュンターに顎をしゃくって見せる。
「が、その前にギュンターが見つかれば問題無い。
奴は自分の実力を連中に示しときたい。
極力その機会を与えてやるんだな」

ギュンターがオーガスタスを睨む。
「…ただ喧嘩がしたいだけじゃないぞ!」

が、怒鳴るギュンターに振り向くオーガスタスは
『そんな事とっくに解ってる』
と言う顔をした。

オーガスタスは背を向け、唸る。
「今夜は遊びに付き合うんだろう?」
ギュンターは吐息を吐く。
「またいつもの場所に、八点鐘だな?」
オーガスタスは振り向かず、赤毛を揺らし去って行った。

ギュンターが庇った一年二人に顔を向けると、スフォルツァは目をまん丸にし、スフォルツァの横に来てハウリィに微笑んでいたアイリスも、いきなりぐっ…と喉を詰まらせてる。

ギュンターはスフォルツァとアイリスの様子に気づき、尋ねる。
「………何だ?」

振り向くアイリスと自分を凝視するスフォルツァに、まじまじと見つめられ、ギュンターの眉が寄る。
唯一俯くハウリィに、ギュンターは声掛けた。
「何でこいつらは俺を見てるか、知ってるか?」

恩人に尋ねられ、ハウリィは彼からしたら背の高い同学年の二人の背後で俯き、恥じらって告げる。
「あの…多分…貴方があの方と、付き合ってると…思ってるんじゃ…」

ギュンターは肩を下げ垂れる前髪を掻き上げつぶやく。
「付き合ってるから今夜出かける………」
言いかけ、そしてようやく思い当たったみたいに目を見開く。

「…まさかお前ら、俺達がデキてるとか、思って無いよな?」
スフォルツァもアイリスも、固まったようにギュンターを凝視していた。
ギュンターは思いきり焦る。
「否定しろ!」

がギュンターに怒鳴られても二人は、左右に顔を背け、俯く。
「おい…!
何だその反応は!!

……糞!最近鏡見て無いが…。
そんなに甘っちろく見えてんのか?俺は…。

寝室であいつの女役やってるとか、想像しちまう程?」
スフォルツァとアイリスはますます顔を深く、下げる。

ギュンターは愕然とする。
面はともかく、この長身のせいで最近そういう誤解からは免れてきた。
…が確かに、並んでカップルに見える位オーガスタスはデカかった………。

ハウリィが見ているとギュンターは俯き、下げた拳を固く握って怒ってるみたいだったが、自分の面が原因で誤解されてるので怒鳴りつける訳にも、行かない様子だった。

「飲みに行くのは酒で…俺が抱くのは女だ!」
叫ぶが、誤解してる二人は顔を上げない。

「…そう言えばディングレーと肩並べて歩いてた時も、同学年の嫌味な連中はニヤニヤ笑って俺を見てたな………」
そう思い当たり、溜息混じりにギュンターはつぶやくと、がっくり肩を落とす。

そして必死で言葉を探し出す。

自分は俺に取って負担じゃないのか?
と気遣う怯えきった気の毒な美少年(ハウリィ)にオーガスタスは
『喧嘩したいから、こいつにとって呼び出しは好都合』
そう言ってハウリィの想い煩いをチャラにした。

「…………………」
ギュンターは幾度も『俺は攻めるのが大好きで…』だとか、『受け身はタイプじゃない』の言い訳を口にしようとした。

が言った所で、今度はオーガスタスが女役と勘違いされるか…もしくは俺が強がって嘘を言ってる。と信じて貰えないかのどっちかだ。

溜息が洩れる。
二人の視線をひしひしと感じ、ギュンターはもう一度溜息付き、囁いた。
「………俺はともかく、ディングレーもオーガスタスもマトモな男で俺を抱く気なんかてんで無いから、誤解してやるな」

その時ようやくアイリスもスフォルツァも顔を上げる。
二人の後ろで真ん中から顔を出してたハウリィは、誤解が解けて良かった。と微笑んだ。

ギュンターはハウリィの笑顔を見て笑う。
「笑ってろ。その方がずっといい。
俺が居ない時はその二人が、お前の笑顔を護るから」

気障だ。とアイリスは思った。
陳腐だとも。

が、ハウリィは全開でそう言ったギュンターに笑い返し
『そうか…正義の行動は陳腐を超えるのか…』
としぶしぶアイリスは、自分の思いを引っ込めた。

いつも遠慮がちに寂しそうな微笑しか、目にして無かったハウリィがその時初めて本当に嬉しそうに、心からの笑顔を、感謝を送るようにギュンターに、向けていた。

アイリスはもう一度、ギュンターに視線を送った。

顔は確かに甘っちろく優美な美貌だったが、その長身の…スラリと細身の体に、隙は無かった。

が、遠ざかるギュンターの背につい零す。
『…あの顔で喧嘩好き。と言われても、説得力が無さ過ぎる。
私がオーガスタスに振られた原因が、酒のせいじゃなく彼だったとしたら少しは…プライドも護れたのに』

そして今度はアイリスが、がっくりと肩を落とした。
『………やっぱり、酒に負けたのか……………』

スフォルツァは何も知らずアイリスに振り向いたし、ハウリィは感謝の瞳を改めて二人に、向けた。




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プロフィール
「アースルーリンドの騎士」-ブロくる
天野音色 さん
「アースルーリンドの騎士」
地域:愛知県
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ジャンル:趣味 漫画・小説
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オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
「二年目」のミラーサイトに成っちゃいました。
昔はこっちが本家だったんですが………。
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